NHK高校講座

化学基礎

Eテレ 毎週 水曜日 午後2:00〜2:20
※この番組は、昨年度の再放送です。

化学基礎

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今回の学習

第30回

中和反応の利用

  • 化学基礎監修:東京学芸大学附属高等学校教諭 岩藤 英司
学習ポイント学習ポイント

中和反応の利用

身近な中和反応
  • ぬか漬けが苦手なケン
  • 酸っぱいぬか床には卵の殻

研究所の裏庭で育てた野菜が豊作だといって、うれしそうにケンがやってきました。
それを見たローザは、祖母からもらったぬか床でぬか漬けを作ると言います。
ところが、酸っぱいぬか漬けが苦手だというケン。


ローザ 「あら、大丈夫よ。酸っぱくなっちゃったら、卵の殻を入れればいいんだって。おばあちゃんが言ってたわ。」

ケン 「卵の殻?もちろんそれって、消毒してるんだよね?っていうか、そもそも僕、ぬか漬けのニオイが、どうも好きじゃなくって……。」

ローザ 「何それ。そういうケンの方が、よっぽど汗臭いわ!えいっ!」

  • 消臭スプレーをかけるローザ
  • 中和は身の回りで使われる

そう言ってローザが消臭スプレーをケンにかけているところに、所長がやってきます。


所長 「う〜〜ん、感心、感心!二人とも、さっそく酸と塩基の中和反応を、生活に取り入れているじゃないか!さすがは、我がフラメル研究所の研究員だな。」

2人 「何のことですか?」

所長 「なにぃっ!?気づいていないのか?情けない!いいか、酸と塩基の中和反応は、身の回りのさまざまなことに使われているんだ!ローザ、まずは、その消臭剤について、調べてきなさい!」

ローザ 「はい。」

いやな臭いを中和で消臭!
  • 消臭芳香剤メーカーの川崎さん

ローザがやってきたのは、東京・新宿区にある消臭芳香剤メーカーの研究開発センターです。
ここで、消臭芳香剤メーカー研究グループシニアスタッフの川風迚宸ウんにお話をうかがいました。


ローザ 「消臭剤には、中和反応が使われているっていうのを聞いたんですけど、臭いをどうやって消しているんですか?」

川浮ウん 「はい、消臭方法には、大きく分けて4つの方法があります。」


その4つとは

・臭いの原因物質を化学変化させて臭わない物質にする「化学的方法」
・臭いの原因物質を吸着する「物理的方法」
・臭いの原因物質を出す細菌などの増殖を防ぐ「生物的方法」
・いい香りでいやな臭いを感じなくさせる「感覚的方法」

です。

  • アンモニアは塩基
  • アンモニアの中和

川浮ウん 「その中で、酸と塩基の反応を利用した中和反応で消臭する方法は、化学的消臭のひとつになります。たとえば、トイレのいやな臭いの原因物質のひとつに、アンモニアがあります。アンモニア・NHは、酸か塩基かと言えば?」

ローザ 「アンモニアは、水と反応して水酸化物イオンを生じるので塩基です。」

川浮ウん 「はい、そうです。塩基なので、たとえばクエン酸のような酸性のものを用いることで、中和反応を起こしてクエン酸三アンモニウムに変化し、その物質は臭わないので、消臭することができます。」

この中和反応の式は、次のようになります。

+ 3NH + 3HO → C(NH + 3H

  • クエン酸を入れた袋
  • アンモニアを入れる
  • 20分放置

クエン酸を使うと、本当にアンモニアの臭いを消すことができるのか、実験で確かめてみます。
・何も入れない
・水を含ませたろ紙入り
・クエン酸の水溶液を含ませたろ紙入り
という3つの袋を用意します。

それぞれの中にアンモニアを入れ、中和反応の実験を行います。

まずはアンモニアの臭いを確認します。
直接アンモニアを嗅ぐのは危険なため、ボンベの中のアンモニアをきれいな空気が入った袋に入れ、薄めてから嗅ぎます。

袋の栓を抜き、実際に嗅いでみると、咳き込んでしまうほど強烈な臭いでした。
この強烈な臭いを無くすことなどできるのでしょうか。

ボンベのアンモニアを注射器に量りとって、きれいな空気で満たした3つの袋に同じ量ずつ注入し、しばらくそのまま放置します。

  • ガス検知管
  • クエン酸入りの袋は50ppmにまで濃度低下

約20分後、それぞれの空気の中のアンモニア濃度を、ガス検知管を使って計測します。
何も入れていない袋は、はじめの濃度のままだと考えられます。
ガス検知管の色が紫色からオレンジ色に変わっていき、変わりきったところが、どのくらいの濃度があるのかを示しています。

何も入れていない袋は、250ppmの濃度を示しました。
水を入れた袋は、ほぼ半分の、120くらいまで濃度が減少しました。
アンモニアが水に溶け込んで、濃度が低くなったことが分かります。
そして、クエン酸水溶液の袋は50ppmと、水のさらに半分以下です。
中和反応の威力が、発揮されたことが分かります。

クエン酸水溶液が入っていた袋の内部の臭いを再び嗅いでみると、いやな臭いはほとんど消えていました。

家庭内の中和反応
  • 消臭剤は低い位置に置く

ローザ 「アンモニアって、鼻に突き刺さるような強烈な臭いだったんですけど、それがあっという間に消えちゃって、中和反応を、身を持って体感できました。それで、川浮ウんに、効果的な消臭剤の使い方を、いろいろ教わってきました。」


場所によって臭いの原因物質が異なるため、「トイレ用はトイレで使う」といったように、それぞれの場所にあったものを使うと効果的です。
また臭いの原因物質は空気よりも重い物質が多く、下のほうに溜まりやすいので、消臭剤は低い位置に置いたほうが効果的です。


ローザ 「足の臭いの原因物質は酸性なので、塩基性の重曹の水溶液で足を拭くといいらしいわよ、ケン。」

ケン 「えっ!?僕の足、そんなに臭いかなぁ……。」

所長 「私たちのごく身近なところ、家庭内では、ほかにも中和反応が使われている。それについて、我がフラメル研究所の特別研究員に、詳しく聞いてみようじゃないか。」

  • 岩藤 英司 先生(東京学芸大学附属高等学校 教諭)
  • 石けんも中和が利用されている

身の回りの中和反応について、特別研究員の岩藤 英司 先生(東京学芸大学附属高等学校 教諭)に解説していただきました。


ローザ 「身の回りの中和反応、ほかにはどんなものがあるんですか?」

岩藤先生 「はい、たとえば胃薬などは、そのひとつの例と言っていいでしょう。胃液は、塩酸が主成分で、pHが1.5ほどのとても強い酸です。胃の粘膜が弱っているときなどには、炭酸マグネシウムや炭酸水素ナトリウムなどの塩基性を示す塩が入った胃薬で中和して、酸のはたらきを抑える場合があるんですよ。」

岩藤先生 「それから、石けんも中和反応で作れるんですよ。これは、私が作った手作り石けんです。ステアリン酸とかラウリン酸などの酸と塩基性の水酸化ナトリウムを混ぜて中和させたときに出来た塩(えん)が、これです。その名もズバリ『中和法』と呼ばれる作り方です。」

環境改善にも中和反応
  • 土壌の改善にも中和

所長 「中和反応が利用されているのは、家庭内だけではないぞ。たとえば、ローザ、環境改善にも、使われていたよね?」

ローザ 「私、この前(第29回「中和反応と塩の性質」)、調べに行ってきました。草津温泉のお湯は強い酸性なので、川に流すときに塩基性の石灰石を混ぜて中和しているんです。」


また、ケンも野菜の栽培で、中和反応による環境改善を知らずしらず行っていたようです。
ケンは、畑の土に混ぜると野菜がよく育つと聞き、消石灰やカキ殻、苦土石灰を使用していました。
日本の土壌はほとんどが酸性で、pHが5以下になることもあるといいます。
これは、日本は雨が多いことが理由のひとつだと言われています。
雨水は弱酸性で、常に酸が加えられている状態のため、酸性化が進みます。

ところが、多くの野菜は土壌のpHが6〜6.5程度のごく弱い酸性の方が、育ちが良いといいます。
そこで、塩基性を示す石灰(炭酸カルシウム)や消石灰(水酸化カルシウム)、苦土石灰(炭酸カルシウム+炭酸マグネシウム)などを混ぜて中和させます。


ケン 「そうだったんですね。ただの肥料だと思ってました。」

所長 「ところが、だ。近頃はどうやら、土壌が塩基性になってしまう現象、すなわち『土壌のアルカリ化』ということが起きているらしい。ケン、それについて調べてきなさい。」

アルカリ土壌を中和で改善!
  • ジャンボにんにく
  • 吉田信一さん

ケンは、土壌のアルカリ化について調べるため、埼玉県入間市にやってきました。
畑の横を歩いていると、ジャンボにんにくを栽培している、土壌コンサルタントの吉田信一さんに出会いました。
“土マニア” を自称する吉田さんは、土壌の改良について突き詰めるために、自ら作物を育てています。
ジャンボにんにくは、元々大きくなる品種ですが、pHを調整することで、かなり大きなサイズになるといいます。

吉田さんに、土壌のアルカリ化についてお話をうかがいました。


吉田さん 「ここ20年くらいの間、地震に強い地盤を作るということで、土にセメントを混ぜて固めるという地盤改良の工事が、たくさん行われています。セメントというのは、pHが12以上あります。したがって、それを土に混ぜることで、土壌が強アルカリ化してしまいます。」

ケン 「土壌がアルカリ化すると、どういった影響が起こるんですか?」

吉田さん 「土壌がアルカリ化すると、植物が栄養分を吸収しにくくなるため、成長が悪くなるということが挙げられます。土壌中には、いろいろな養分があって植物が吸っているわけなんですが、マグネシウムだとか鉄だとか、水に溶けなくなってしまうんですね。」

  • pHによる水への溶けやすさ
  • 成長不良の葉

左図では、黄色い帯の幅が物質の水への溶けやすさを示しています。
たとえば鉄の場合、pHが7から9になると、溶けやすさは半分程度になってしまいます。
すると、植物がそれを吸収できなくなってしまいます。
たとえば、マグネシウムを吸収できなくなると、葉緑素を作ることが出来ないという障害が起こります。


ケン 「そこで、酸を入れて中和するんですね。」

吉田さん 「ただ、土壌を中和するというのは、そんなに簡単なことではなくて、たとえば酸と塩基を合わせて中和反応が起こりますが、結果として何が生じますか?」

ケン 「塩(えん)ができます。」

吉田さん 「そうですね、その塩が土壌中に増えてくると、植物が水を吸えないようになって、枯れてしまうんです。」

  • 通常は土壌より根のほうが塩分濃度が高い
  • 土壌のほうが根より塩分濃度が高いと水分が吸収できない

水は、塩分濃度が低い方から高い方へ移動する性質があります。
普通、土壌よりも植物の根の方が塩分濃度が高いため、植物は水を吸うことができます(左図)。
ところが、中和によって土壌中に塩(えん)が増えて塩分濃度が高くなると、逆に根から水が出て行ってしまうことになります(右図)。
pHを下げて栄養分が水に溶けやすくなっても、これでは意味がありません。

このような問題を起こさずに中和するにはどうしたらよいのかと吉田さんが考えていたところ、偶然見たテレビ番組がヒントになったといいます。

  • 炭酸カルシウムは水に溶けない塩
  • 土壌の塩分濃度に影響を与えない中和

吉田さんが見たのは、水酸化カルシウム水溶液、つまり石灰水にストローで息を吹きこむと白く濁るという実験です。
この白い沈殿物は炭酸カルシウムで、水に溶けない塩です。
この実験は、第5回「元素の確認」でも行っています。

石灰水に二酸化炭素を吹き込むこの実験では、酸と塩基の中和反応が起こっていたのです。

吉田さんは、炭酸カルシウムのように水に溶けない塩(えん)であれば、土壌の塩分濃度に影響を与えないはずだと考えるようになります。
そして、どんな物質を使えば理想的な中和反応になるのか、試行錯誤の日々が始まりました。


吉田さん 「様々な材料を使って様々な植物を植えて、いろいろなことを調べましたが、たくさん枯らしてしまったり、だいぶ苦労しました。今はまだ、pHのことだけをやっているのですが、さらに微生物だとか植物にもっともっとやさしい物質で土壌を中性にして、健全な環境を作っていきたいというのが私の目標です。」

このように、土壌の改良にも中和反応が利用されていることが分かりました。

食品にも中和反応
  • かん水が塩基性・スープは酸性
  • こんにゃくは塩基性・酢味噌の酢は酸性
  • 白身は塩基性・卵黄は酸性

ケンが調査から戻ると、研究室にはつけ麺や刺身こんにゃく、生卵が用意されていました。
この組み合わせには、中和反応が隠されているといいます。


岩藤先生 「つけ麺の麺を作るときには、かん水という塩基性の水溶液を使います。一方、スープは、酸性です。それから、こんにゃくは、この間pHを測っていましたよね?」

ローザ 「pH11くらいの、塩基性でした。」

ケン 「そして、酢味噌にはお酢、つまり酢酸が入っているから、酸性ですね。」

岩藤先生 「そうですね。そして、生卵ですが、白身は塩基性、黄身は弱い酸性なんです。」

ローザ 「つまり、これらは全部、酸性のものと塩基性のものの組み合わせ!中和反応を利用すると、とってもおいしいってことなのよ。」

ケン 「ホントに?」

岩藤先生 「ところで、みかんの缶詰にも中和反応が使われているって、知っていますか?」

ケン 「みかんは酸性ですよね。じゃあ、甘いシロップが塩基性?でも、塩基性の特徴は、たしか “舐めると苦い” だったような……。」

  • お湯に重曹を入れる
  • みかんの薄皮が溶け始めている

ここで、缶詰のみかんに中和反応がどのように使われているのか、実際に作ってみることにしました。
お湯1Lが沸騰する鍋に、重曹を大さじ2加えます。
ここに、外側の厚い皮をむいたみかんを入れていきます。


ケン 「酸性のみかんと塩基性の重曹で中和反応?みかんの酸っぱさがなくなって甘くなるのかなぁ?」

岩藤先生 「そういう作用もあるかと思いますが、何か変わってきていませんか?」

ローザ 「あ、身と皮の間に、空気が入っているように見えますね。」

ケン 「うん、浮いてきてるね。」

ローザ 「水も、オレンジ色になった。」

岩藤先生 「実は、重曹のはたらきによって、みかんの薄皮が溶けているんですね。このまま食べるとおそらく苦いので、中和させるために、クエン酸水溶液を作っておきましょう。」

  • みかんの薄皮が無くなった
  • 次回もお楽しみに〜

ここで、ボウルに用意した水1Lに、クエン酸大さじ2〜3を入れます。
みかんを取り出して、クエン酸水溶液に浸します。
その後取り出すと、薄皮が無くなっていました。

使う薬品は違いますが、みかんの缶詰工場でも酸と塩基を使って薄皮をむいて、中和しているといいます。
こうして皮をむいたみかんを缶に詰め、シロップを入れれば、立派なみかんの缶詰になります。

このように、食品にも中和反応が利用されています。


今回は身の回りにある酸と塩基の中和反応について、見てきました。
ほかにも身近な中和反応がないか、ぜひ探してみてください!


それでは、次回もお楽しみに〜

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