NHK高校講座

現代の国語

Eテレ 隔週 月曜日 午前10:00〜10:20
※この番組は、2022年度の新番組です。

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今回の学習

第3回

便利な道具「比較」

  • 文教大学教授 藤森 裕治
学習ポイント学習ポイント

便利な道具「比較」

便利な道具「比較」
  • 向井さん
  • しゅうせい、いおり

今回のテーマは「便利な道具「比較」」。
番組のMCは向井慧さん。
一緒に学ぶ生徒はしゅうせいさん、鈴野いおりさんの2人です。

まず生徒の2人に質問です。
これまでの人生で“一番悩んだ選択”は何でしょうか?

しゅうせい「高校選ぶ時に、この高校にしようか、この高校にしようか、自分の偏差値的にどうしようか、みたいな」
いおり「私も同じく、受験のときに、どこの高校にしようかってすごく悩みましたね」

難しい選択を迫られたときに役に立つのが、今日のテーマの「比較」です。

筆者は世界をどう見てる?
  • 鹿おどし
  • しゅうせい、いおり

上の左の画像は「鹿(しし)おどし」です。
竹が水の重みで傾き、水がこぼれて元の位置に戻るとき、石をたたいて音が鳴る仕掛けです。日本庭園でよく見かけます。

実は、この鹿おどしから、日本文化の特徴について「比較」を使って考えた人がいます。

水の東西
  • 水の東西
  • 東洋の日本の鹿おどしを、西洋の噴水と、3つの点から比べた

水の流れなのか、時の流れなのか、「鹿おどし」は我々に流れるものを感じさせる。
それをせき止め、刻むことによって、この仕掛けはかえって流れてやまないものの存在を強調しているといえる。


これは、劇作家で評論家の山崎正和さんが書いた「水の東西」という文章の一節です。
山崎さんは、東洋の日本の鹿おどしを、西洋の噴水と、3つの点から比べました。

  • 噴き上げる華やかな噴水
  • エステ家の別荘

【比較1】水の流れ方
私はこの「鹿おどし」を、ニューヨークの大きな銀行の待合室で見たことがある。
(中略)
だが、ニューヨークの銀行では人々はあまりに忙しすぎて、一つの音と次の音との長い間隔を聴くゆとりはなさそうであった。それよりも窓の外に噴き上げる華やかな噴水のほうが、ここでは水の芸術として明らかに人々の気持ちをくつろがせていた。
流れる水と、噴き上げる水。
「水の流れ方」で比べると、鹿おどしは自然な水の流れであるのに対して、噴水は下から上へと噴き上げる人工的な水の流れだというのです。


【比較2】時の流れ方
有名なローマ郊外のエステ家の別荘など、何百という噴水の群れが庭をぎっしりと埋め尽くしていた。樹木も草花もここでは添え物にすぎず、壮大な水の造型が轟きながら林立しているのに私は息をのんだ。それは揺れ動くバロック彫刻さながらであり、ほとばしるというよりは、音を立てて空間に静止しているように見えた。
時間的な水と、空間的な水。

東洋の日本と西洋で、なぜこんな違いが生まれたのか?
筆者は、さらに考えを進めました。

  • 見えない水
  • 見えない水と、目に見える水

【比較3】美しさに対する感覚
言うまでもなく、水にはそれ自体として定まった形はない。そうして、形がないということについて、恐らく日本人は西洋人と違った独特の好みを持っていたのである。
(中略)
それは外界に対する受動的な態度というよりは、積極的に、形なきものを恐れない心の表れではなかっただろうか。

見えない水と、目に見える水。

筆者は、鹿おどしと噴水を3つの点から比較することによって、
日本人は音の響きだけで、見えない水の流れを想像し、心で味わうことができる。
という結論を導いたのです。

「水の東西」思考プロセスを表に整理
  • 藤森先生
  • Tチャート

それでは、「比較」という道具の使い方を学んでいきましょう。
教えてくれるのは、藤森裕治先生です。

先生「『比較』っていうのは、複数の物事について共通点と相違点を探すことなんです。特に相違点、つまり違っているところに着目して、『どうしてこう違うんだろう?』というように考えると、新しいものの見方や考え方を見つけやすいわけです」

比較するときは、上の右図ような表にすると、考えを整理することができます。
「水の東西」は、東洋と西洋という2つの対照的な事柄を比べています。
こうした論理構造を二項対立といいます。
二項対立で比べるときには、真ん中に比べるときのものさし・観点を書き、左右には、その観点から見たときそれぞれがどうなっているのかを書き出します。
このような表を、アルファベットの“T”の文字に似ていることからTチャートといいます。
考えを整理する思考ツールとして、ビジネスの世界や教育・研究の世界でも活用されているものです。
みなさんも、使いこなせるようになりましょう!

  • 完成したTチャート
  • 「例えば」という言葉をつけて考える

生徒の2人は、「水の東西」のキーワードを使って、Tチャートを完成させました。
できあがったものを見ると、とても対照的になっていることに気が付きます。

Tチャートを使うとき、アイデアや発想を引き出すコツがあるそうです。

先生「観点に『例えば』という言葉をつけて考えると分かりやすくなります。『例えばどういう風に違うのかな』『例えばどういうことを例にあげていたのかな』って考えると分かりやすいんですね。ただ、比べて終わりでは、本当の意味での比較になりません。大事なのは、最後に『つまり』という言葉を心の中でつぶやいてみることです」

最後に、「つまり」と考えて、簡潔な文章にまとめましょう。
それが結論です。

では「水の東西」という文章で筆者が本当に考えたかったことは何だったのでしょうか。

先生「それは『日本文化って何だろうか』ということ。そのための格好の素材として『水』を比較の手段に使ったわけです」

つまり、比較することが目的なのではなく、言いたいことを表すための手段として比較をしたということです。

あんな言葉 こんなコトバ
  • 普通においしい
  • 「普通」が表す意味合いが、多様

ラーメン店で、「普通においしいです!」と言ったら、お店の人にちょっと困ったような顔をされました。
褒めたのに、どうして喜んでくれないのでしょうか?

最近は、「普通」が表す意味合いが、多様になっています。
「普通にかわいい」
「普通にすごい」
このように言われたら、あなたはどんな気持ちになりますか?

二項対立で比べてみよう
  • いおり
  • Tチャート

それでは、実際に「比較」の道具を使って考えてみましょう!
お題は「高校に通うときの服装はどうあるべきか
「制服」と「私服」の二項対立で考えます。

まずは、2人で観点を考えます。

しゅうせい「準備する時間の…朝使う時間とか」
いおり「制服は決まっているから全員が一緒だけど、私服はみんな違う」
しゅうせい「個性がある、ないみたいな?」

このように、先に長所や短所を考えることで、いい観点が見つかることもあります。必ずしも観点から考え始める必要はありません。

では、私服のいい点はどんなところでしょうか?
いおり「私服だと先生に怒られない。何をしても。でも制服は決まっているから、規則を破ると怒られる」

2人は、上の右の画像のように、Tチャートを完成させました。

  • しゅうせい
  • もう一歩!

つくったTチャートをもとに、自分の考えを簡潔な文章でまとめてもらいます。
最初に、しゅうせいさんの結論です。

しゅうせい「高校に通うべき服装はどうあるべきかのTチャートを作って、高校は個性はあった方がいいと思って、準備の時間もなるべく早い方が他のことに時間が回せるからいいなと思ったのと、規則とかも絶対にあった方がルールとして成り立つから、両方ともいい部分があると思ったので、つまり僕は私服登校日を作るべきだと思いました」

この結論、先生と向井さんは「もう一歩!」と判定しました。

向井「しゅうせいの結論、すごくいいなと思ったんですよ。ベースは制服がいいってことだよね。そうなると、制服の良さを最初にしゃべってから“でもやっぱり個性を出すことも大事だと思うので、何日か私服登校日を作るべきだと思う”っていう流れだったら、すごく納得できたなと思って」

  • 納得!
  • いおり

次にいおりさんの結論です。

いおり「私は、全員が楽しめる学校っていうのが一番理想なのかなって思って。例えば、制服だったら準備時間が早くて、でも個性はなくて、規則もあって、縛られることもある。逆に私服は準備時間がかかるけど個性がある。自分がいいなと思うことと悪いなと思うことって人それぞれだと思ったので、私は、つまり、どちらを着てもよい学校を作るべきだと思うという結論に至りました」

この結論には、先生も向井さんも「納得!」でした。

先生「制服にも私服にも、捨てがたい素晴らしさがあり、問題点も実はある。これはとても大事なことで。“制服なのか私服なのか”じゃなくて、“どうあるべきなのか”ってことだから、それに向けて考え方のステージが1つ上にあがったよね」

いおりさんは、制服と私服を比較したうえで、どちらの長所も生かせる結論を出しました。そこに説得力がありますね!

  • 向井さんと先生
  • いおり、しゅうせい

今回学んだ「比較」には多くのメリットがある反面、デメリットがあることにも注意する必要があります。

先生「二項対立で考えると、どうしてもどちらかを選ばなきゃいけないという発想に陥りやすいのです」

向井さんは「比較することのデメリット」、どんな時に感じるのでしょうか?

向井「例えば、面白いこと言うこととか、ツッコミがうまいとか、そういうところで『あの人うまいな』って、自分のダメさがより際立っちゃう比較のしかた。必要以上にダメだと思っちゃったりとか」
先生「大事なことをおっしゃいましたね。世の中には比べられるものと、比べられないもの、比べちゃいけないものってあるんじゃないかなってことなんです。例えば、人の愛情だとかそれから努力の具合っていうのは、必ずしも数値化できないですよね。」

向井「でも、比較したことで発見できるっていうところもいっぱいあるから…」
先生「比べてみて、比べちゃいけない、比べられないことに気が付くっていうのも比較のメリットかな!」

次回もお楽しみに☆

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