第25回
今回も、藤本チーフからキュピトロンの3人に課題が出ています。
発射台から撃ち出した1発のボールを、水平にある的(まと)に当てるには的のどの部分をねらえば良いでしょうか。
彩加 「私は、撃ったときに、やはり重力が発生して下に落ちていくと思うんです。だから、ちょっと上をねらえば当たるかな……。」
二千翔 「私は、勢いがあれば、まっすぐ飛ぶという意見でした。」
早速、二千翔ちゃんが発射台からボールを的に向けて飛ばすと、ボールは下へ落ちてしまいました。
このとき発射台と的の距離は3m、高さは1.5mで、空気抵抗の影響は無視して考えます。
撃ち出されたボールは、的に向かって飛ぶ間に “重力” によって下に引かれて落ちてしまいます。
そのため、的には当たらなかったのです。
そこで、的の少し上をねらってみます。
的からは外れましたが、先ほどよりは近づきました。
次に、もう少し上をねらうと、今度はボールが的に当たりました。
程よい角度で的の上をねらうと当たるようです。
撃ち出したボールは山なりの「放物線」という軌道を描きます。
この放物線を描く動きを「放物運動」といい、その運動にはある規則性があります。
今回のテーマは「運動の規則性」です。
これを知れば射的が上達するかもしれません。
まっすぐ水平に撃つ実験を、もう少し詳しく見てみます。
藤本 「同じ発射台からまっすぐねらっても、的に当たる方法が実はあります。それはどのようにしたら良いか、分かりますか?」
彩加 「撃ったときに落ちてしまうから、ボールの着地点に的を置く。」
藤本 「正解は、『的を落とす』でした。彩加ちゃんの答えは『下に置いておく』でした。しかし、正解は『ボールの発射と同時に的も元の位置から落とす』ということです。そうすれば、水平にねらっていても、ボールは的に当たるんです。」
なぜ、ボールの発射と同時に的が落ちれば当たるのか、詳しく見ていきます。
発射台の先端にスイッチを付け、ボールが飛び出すと同時に、的が落ちるようにしました。
的に対してまっすぐにねらって、ボールを撃ち出します。
撃つと同時に的は下に落ち、ボールは放物線を描いて命中しました。
ボールと的の動きを、同じ時間きざみで止めて見てみます。
同じ時間におけるボールと的の位置を、線でつないで見やすくしてみます(右写真)。
ねらった水平の線からボールが落ちた距離と、的が落ちた距離は同じになっています。
つまり、ボールが飛び出すと同時に的が落ちれば、ボールは的に当たるのです。
ここで、次の問題です。
今度は斜め下から的をねらって撃ち出します。
ボールが飛び出したと同時に的が落ちたとき、ボールは的に当たるでしょうか。
ボールの動きと的の関係を考えながら推理してみましょう。
彩加ちゃんは、「的の方が速く落ちて、ボールは的の上を通り過ぎる」と予想します。
しかし、実際に二千翔ちゃんが挑戦してみると、今度も見事ボールに当たりました。
これはなぜでしょうか。
ボールと的の動きを、同じ時間きざみで止めて見てみます。
ねらった線からボールが落ちた距離と、的が落ちた距離を比べてみました。
同じ時間において、的とボールがそれぞれ落ちた距離は、どの点も同じになっています。
これは、水平に撃った時と同じです。
今度は発射台を低くし、距離を近づけて撃ってみると、やはり命中しました。
的をまっすぐにねらってボールを発射して、それと同時に的が落ちれば、角度・高さ・距離が違ってもボールは的に当たりました。
藤本 「今度は、撃つ場所を増やして、同時にいろいろな場所から撃つとどうなると思いますか?」
キュピトロン 「全部当たる。」
彩加 「玉入れみたいな感じで、みんな真ん中に集まる。」
20か所から同時にボールを撃つとどうなるか、実験してみました。
高さや場所を変えて発射台を20台設置します。
ボールが発射台を離れると、センサーがそれを感知して大きな的を落とす仕組みです。
ところが、センサーがついているのは1台だけです。
そのため、ライトが赤から青になったと同時に、みんなで一斉に引き金を引くことにしました。
引き金を引くタイミングを合わせるため、ライトが赤から青になった瞬間に手を叩くという練習を行いました。
20人が配置について実験を行いました。
結果、当たったのは20発中12発でした。
なぜ8個は外れたのでしょうか。
左上の発射台に注目してみます。
真ん中の発射台は的の落ちるタイミングとほぼ同時に発射していますが、下の発射台では遅れています。
真ん中の発射台からのボールは当たりますが、遅れた下の発射台からのボールは的の上を外れていきます(左写真)。
遅れた時間を計ってみると、0.12秒でした。
それだけのわずかな誤差でも、ボールは的に当たりませんでした。
ここで、ガリレオ先生こと、川村康文先生(東京理科大学教授)に詳しく解説していただきます。
川村先生 「この実験結果のように、タイミングを合わせられないという失敗を、『ヒューマンエラー』といいます。スポーツの世界では、ヒューマンエラーを無くすために選手たちは努力しています。たとえば、バスケットボールの3ポイントシュートです。里奈ちゃんはバスケットボールをやっていたようですが、難しいですよね。」
里奈 「3ポイントシュートは難しいです。」
川村先生 「3ポイントシュートは、物理の法則に従って理想的な放物線を描いて投げればゴールに入りますが、人間にはなかなか難しいです。そこで、確実にボールを入れようと思えば、どのようにすれば良いと思いますか?」
里奈 「力の入れ方を覚えるしかない。」
川村先生 「そうですね、それがまさに練習ですね。スポーツの世界では、より物理の法則に近づけるために練習を重ねることによって、ヒューマンエラーをなくすための努力をしているのです。」
最後に、キュピトロンの3人で息を合わせて、落ちる的を発射台からボールを撃って落としてみました。
命中したのは、3発中1発でした。
それでは、次回もお楽しみに〜!
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