第22回
早速ですが、問題です。
止まっている電車の中で真上にジャンプしても同じところに着地しますが、飛び上がったときに電車が急に動くと、後ろに着地してしまいます。
もし、走行中の電車の中で真上にジャンプすると、どこに着地するでしょうか。
今回は、非常に身近な運動の性質について学びます。
二千翔 「電車は進むけど、自分は動かないので、後ろにいってしまうのではないかと思います。」
彩加 「私も後ろに着地すると思います。ジャンプしている間に電車は動いているから……。」
里奈 「私はそのまま、同じ場所に着地できると思います。」
ここで、ガリレオ先生こと、川村康文先生(東京理科大学教授)に詳しく解説していただきます。
実際に、走行中の電車の中でジャンプしたらどこに着地するのか実験しました。
この実験のために、川村先生が用意したのが「電車のふしぎ」という実験器具です。
電車に見立てた黒い箱は、レールの上をスライドして動きます。
箱の中では、ボールが真上に上がる仕組みになっており、人がジャンプしたイメージを再現できます。
この装置を使って、試してみます。
田畑 「藤本チーフと川村先生が、それぞれの考えを述べます。そこで、どちらが正しいと思うか、キュピトロンの3人には答えてもらいます。」
藤本 「僕がまず動かずに、ボールを投げ上げれば、当然ボールは真下に落ちて手に戻ってきます。しかし、ボールを真上に上げた後に、僕が急に動くと、手の場所へは落ちて来ません。これを走行中の電車に当てはめてみます。打ち上げられたボールは電車から離れて空中にありますから、おいていかれて、当然後ろに落ちます。これが、白派、藤本の考えです。」
川村先生 「いやいや、藤本さんの考えと僕の考えは大きく違います。電車は同じ速さで走り続けています。そして、実は、ボールも投げる前は電車と同じ速さで走っています。だから、仮に床からボールを投げ上げても、ボールも横に同じ速さのままなので、結局自分の手元に落ちてきます。これが赤派、私の考えです。」
2人の意見を聞いたキュピトロンの3人。
彩加ちゃんと二千翔ちゃんは白の藤本チーフの意見、里奈ちゃんは赤の川村先生の意見を答えとして選びました。
彩加 「やっぱり、跳ぶと床から離れるじゃないですか。だから後ろに着地する。」
里奈 「だって、先生ですよ。」
さっそく、どちらが正しいのか検証してみました。
実験装置が移動しながら、ボールが打ち上げられました。
すると、ボールは打ち上げられた場所に落ちてきました。
正解は、川村先生の「打ち上げたところに落ちる」を選んだ里奈ちゃんでした。
このような動きになったのは、「慣性の法則」があるからです。
慣性の法則とは、「何らかの力を受けなければ、運動している物体はそのままの速さで、『等速直線運動』を続ける」という運動の性質です。
「等速直線運動」とは、一定の速さで一直線上を動く運動のことです。
この状態でボールを打ち上げると、ボールは水平方向には、電車と同じ速さで動きます。
藤本説は、ボールを打ち上げた直後に急発進するので、ボールは後ろへ落ちます。
つまり、電車の走行中にボールを打ち上げたわけではありません。
ここで、次の問題です。
ボールを先ほどよりずっと高く打ち上げると、ボールはどこへ落ちるでしょうか。
彩加 「等速直線運動が働いているので、やはり同じ位置に落ちると思います。」
里奈 「浮かんでいる時間が長いほど、進む距離も長いから、絶対に後ろに落ちると思います。」
その様子が分かる大規模な実験を行いました。
ボールを真上に打ち上げる装置をトラックに設置し、走る車からボールを約25m打ち上げる実験をしました。
風はありません。
車が動かなければ、打ち上げたところに、ボールは落ちてきます。
時速50kmで車を走らせて、ボールを打ち上げます。
何らかの力を受けなければ、ボールは常に車の真上にあり、打ち上げられたボールは、再び車の上に落ちてくるはずです。
打ち上げられたボールは、どこに落ちるのでしょうか。
ボールを打ち上げると、トラック1台分、後ろに落ちてしまいました。
走るトラックの上の旗は、風のために はためいています。
トラックが止まっているとき、旗は動きません。
しかし、車が走っているときは、前から風が吹いているように感じます。
この風によって、ボールは、押し戻されるようにトラックから離れてしまったのです。
囲まれた空間の電車の中では、風の影響を受けないため、ボールは投げた手に戻ってきます。
よって「風や空気抵抗の影響で、ボールは後ろに落ちてしまった」が正解でした。
彩加 「等速直線運動の許容範囲外だったということですね。」
田畑 「空気の抵抗を受けてしまいますからね。」
里奈 「私は風の抵抗ってことを知らなくて、ただ単に時間と距離が合わないから後ろに行くと思っていたので、なるほどと思いました。」
川村先生 「打ち上げる距離やボールの質量、大きさによって違いますが、風や空気抵抗は大きな影響を与えるということが分かりましたね。実は、皆さんはこの慣性の法則の影響を受けて、毎日を過ごしています。地球は、自転や公転をしていて、常に動いています。日本でジャンプして、ハワイに落ちるということはないですよね。東京でジャンプして東京に落ちてくるということは、慣性の法則のとおり、ジャンプした場所へ戻っているということなんです。」
最後にみんなで電車の実験をもう一度行ってみました。
ボールは見事、元の位置へ戻りました。
それでは、次回もお楽しみに〜!
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