NHK高校講座

ベーシックサイエンス

今回の学習

第7回

壁を倒せ! 〜重心〜

  • 科学監修:東京理科大学教授 川村 康文
学習ポイント学習ポイント

壁を倒せ! 〜重心〜

  • 5メートルの巨大な壁
  • 壁を倒すのはアリ

今回のテーマは「重心」です。
高さ5mの、見上げるほどの巨大な壁を、体の小さなアリが倒すことはできるのでしょうか。

  • ながーい棒を手のひらの上で立たせ続けてねゲーム

「アリが巨大な壁を倒すなんて無理!」というキュピトロンの3人ですが、藤本チーフによれば、アリが壁を倒す方法があるといいます。

そのテーマのヒントとなるゲームが、「ながーい棒を手のひらの上で立たせ続けてねゲーム」です。
細長い棒を手のひらの上に立たせ、誰が一番長く立たせ続けられるかを競います。

さっそくチャレンジすると、一番長く棒を立たせることができたのは、ニ千翔ちゃんでした。

しかし、このゲームと「壁を倒すこと」とには、何の関係があるのでしょうか。

バランスを取るためには?
  • 棒の中心
  • 重心と手のひらの点をまっすぐにする

藤本 「みんなは棒を倒さないために、自分でどんなことをしていたか分かりますか?」

彩加 「バランスを取っていた。」

田畑 「何を考えるとバランスが取れると思いますか?」

彩加 「重心!」

藤本 「そう、実はこのゲームは重心がずれないようにし続けるというゲームだったんですね。」


すべての物には、「重心」 があります。
先ほどのゲームで使用した棒を横に倒し、中央の赤い点を支えると、棒は安定しています。
このように、棒状のものの多くは、中心の部分に重心があります。

ゲームでは、棒を立てて “棒の重心の部分” と “手のひらに接する点” がまっすぐになるように調整していました。
つまり、棒が倒れそうになる度に、その重心を追いかけてまっすぐになるよう調節していたのです。

物が立っていたり、倒れたりすることに「重心」は深く関わっています。

どんな時に壁は倒れる?
  • 壁の模型の重心の位置

ここで、ガリレオ先生こと、川村 康文 先生(東京理科大学教授)に詳しく聞いてみます。

壁の模型を使って考えていきます。
この壁の重心は、対角線で示した壁の中心の付近にあります。
実際には、重心は壁の表面ではなく内側にあります。

では、物が倒れるとはどういうことなのか、模型で実験してみます。

  • 横から見た重心の位置
  • 壁を支える点
  • 対角線と矢印が重なるところまでは倒れない

壁を横から見た場合も、重心は対角線の交点にあります。
模型には、重心から真下に向けて矢印を付けてあります。

壁を傾けた時、矢印はテーブルに垂直な向きを保ちます。
この時、傾いた壁を支えているのはテーブルと接している一点だけです。

この状態からどのような状態になった時に壁が倒れるのか、確かめてみます。

矢印が、ぎりぎり対角線をこえない時は、まだ倒れません。
しかし、矢印が対角線を越えた状態で手を離すと、壁が倒れました。


彩加 「分かった!対角線とこの矢印が重なる所までは倒れないけど、矢印が対角線を越えたら倒れる?」

  • 図 壁を押す
  • 図 壁が元に戻る

壁を押して傾けた時、壁を支えているのはテーブルと接する点です。

重心が、壁を支えている点のぎりぎり手前に来るまで壁を押し続けます。
この時点で手を離せば、壁は元に戻ります。

  • 図  壁を押す
  • 図 壁が倒れる

しかし、さらに押し続けて、重心が壁を支えている点を超えた時、壁は倒れてしまいます。


藤本 「つまり、巨大な壁を倒すには、重心を大きくずらすだけの力が必要ということなんですね。」

アリが巨大な壁を倒すには?
  • ドミノのように倒す
  • アリが倒すことができる壁

それでは「アリが5mの巨大な壁を倒すにはどうすれば良いか」について考えてみます。


藤本 「アリが倒せる壁というのは、どういう壁だと思いますか?」

ニ千翔 「発泡スチロールの軽い壁?」

彩加 「薄い壁。」

里奈 「アリが倒せる壁を倒して、その倒した先端で、大きな壁を倒す。」

彩加 「ドミノみたいにってこと?」


最終的に倒す壁は5mですが、アリが倒せる大きさの壁との間に壁を並べていけば、5mの壁を倒せるかもしれません。

  • 小さな壁に向かうアリ
  • 次第に倒れていく壁
  • 大きな壁が倒れる

いよいよ実験です。

5mの壁の前に、倒すことのできるぎりぎりのサイズの壁を並べていきます。
最後の壁の間隔は5.33mmです。
高さ9.1mmから5mまでの、合計18枚の壁が並びました。
一番大きな5mの壁の重さは180kgもあります。

この5mの壁は倒すことができるのでしょうか。

アリが一番小さな壁を倒すと、次々と並べた壁が倒れていきます。
そして、一番大きな5mの壁も倒れました。

アリは見事に、高さ5m、重さ180kgもの大きな壁を倒すことができました。


それでは、次回もお楽しみに〜!

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