くう ねる あそぶ こども応援宣言

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内多勝康
国立成育医療研究センター もみじの家ハウスマネージャー


私は、みんなと一緒に笑うことができます。
みんなと一緒におしゃべりができます。
困っている人がいたら、声をかけることもできます。
だけど、学校に行けないので、家にいます。
神様に、いつもお願いします。
私は学校に行けないのですか?
私はそんなに悪い子ですか?
頑張って勉強しますから、私を学校に行かせてください。

 

1月中旬、私が働くもみじの家が企画した「医療的ケア児と家族の主張コンクール」が川崎で開かれました。退院した後も様々な医療的なケアが必要な子どもや家族10組が、日頃の思いや未来の夢を発表するイベントです。

冒頭の訴えは、コンクールに参加した小学3年生の女の子がスピーチしたもので、観客席の大人たちの心を大きく揺さぶりました。その女の子は骨が弱く、ほとんど寝たきりで、人工呼吸器をつけています。母親が働いていて付き添いができないため、学校に通うことができません。車いすに乗れば外出は可能で、医師からは通学できると診断されているにもかかわらず、他の子どもたちと一緒に登校したり、友達と学んだりすることはできないのです。代わりに、教師が自宅に訪問して授業を行っていますが、週に3日、2時間ずつという、わずかな機会しか与えられていません。

私はイベントの司会をしていましたが、このスピーチを聞いて涙が出てきてしまいました。頑張って勉強したいと言っている子がいるのに、その声に応えようとしない。こんなにも当たり前のことが約束されていない。9歳の子どもにこんなことを言わせなければならない。それが今の豊かな日本の現実であることに、やるせない気持ちになりました。

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私がNHKを離れ、医療的ケア児と家族が短期入所できる「もみじの家」に転職して、この春で2年になります。もみじの家を利用する家族たちからは、「学校に行けない」以外にも、「くう・ねる・あそぶ」をめぐる、実に様々な悩みや不安の声が聞こえてきます。

「周りの子と一緒に保育園や幼稚園に行きたいのに、医療的ケアがあることを理由に門前払いされる」
看護師がいない施設では、「安全を保障できない」ことを理由に、医療的ケア児の受け入れを拒否します。子どもたちは、同年代の友だちと遊ぶ機会を失い、家族以外の大人とのコミュニケーションも大きく制限されます。その時期に必要な、成長発達を促すための刺激を受けることができません。豊かに「あそぶ」ことを通して適切に社会性を育む機会が与えられない日々に、両親は不安を募らせています。

「家族との関わりしか持てないため、自立に向けたトレーニングが積めない」
自立とは、親と離れること。親が傍にいなくても安心して眠ることができる自信を手に入れなければなりません。一般的には成長とともに、親戚の家に泊まりに行ったり友達と旅行に行ったりして、自然と親離れのステップを踏むことができます。しかし、多くの医療的ケア児たちは、せっかく自立心が芽生えてきても、医療的ケアが確保されて一人でお泊まり体験ができる受け皿がなければ、その芽を大きく伸ばすことはできません。親の下でなくても、安心して「ねる」ことを支える社会的な体制や制度を整える必要があります。

「くう」ことができず、チューブを使って栄養や水分を体内に注入してもらう子どもたちもたくさんいます。でも、毎日毎日諦めずに、子どもの成長発達にとって必要なケアを継続することで、少しずつ口から食べられるようになる子もいますし、中にはチューブを完全に外せる子もいます。口から食べることで脳機能が活性化し、子どものその後の人生を大きく変えうるパワーとなるのです。子どもたちは、周りの友だちが口から食べている様子を見て、「自分もできる」と思うといいます。やはり家の中で孤立した日常では、伸びていくべき可能性が行き場を失ってしまいます。

医療的ケア児たちは、身をもって、社会の矛盾を発信しています。今の社会が決して平等ではなく、自由や権利を保障できていないことを無言で訴えています。児童福祉法の第一条には、「全て児童は、(中略)その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する」と謳われています。主語は「全て児童」。当然ながら、そこに医療的ケア児も含まれていることを、大人たちは再確認すべきだと思います。

医療的ケア児たちが、他の子たちと同じように、「くう・ねる・あそぶ」そして「まなぶ」を満喫できる日が来ることを、願ってやみません。


内多勝康(うちだ・かつやす)さん
1963年東京生まれ。東京大学教育学部卒養後、NHKに入局。30年間 アナウンサーとして報道や情報番組を担当。2016年春、NHKを退職し、国立成育医療研究センターに新設された、在宅で医療的ケアが必要な子どもと家族のための短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。社会福祉士の資格を持つ。