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第5回「NPO法人 ふれあいの家 おばちゃんち」
「ふれあいの家 おばちゃんち」その一風変わった名前のNPO法人は、品川の町にそよそよと「つながり」の風を吹かせている。
初めての訪問で緊張気味だった私を、代表のみこちゃんこと渡辺美恵子さんは気さくに迎えてくれた。「上がって上がって」あいさつもそこそこに二階へ通される。階下の預かり保育「ほっぺ」からは、元気な子どもたちの声、そして、おばちゃんとお母さんの楽しそうな笑い声が聞こえる。
ふと、自分の小さいころを思い出した。母はよく近所のおばちゃんたちと立ち話をしていたっけ。私たち子どもは、いつもその周りでちょろちょろ遊んでいた。私はおばちゃんたちを「○○さんちのおばちゃん」と呼び、おばちゃんたちは私のことを「のんちゃん」と愛称で呼んでくれた。今でも、おばちゃんの顔を1人1人思い浮かべることができる。子どものいないお宅のおばちゃんもよく声をかけてくれたし、この日の渡辺さんのように気軽にお宅に上げてくれたりもした。しかし今、大人になった私は、近所の子どもの名前さえ知らない。
かつては確かにあったけれど、今は不確かなものになってしまった、住人同士の関わり合い、助け合い、支え合いを、「おばちゃんち」は街の人たちと共に、改めて築こうとしている。
写真/品川宿おばちゃんち
「おばちゃんち」とは?
この「おばちゃんち」とは、どんな団体なのか。実はこれが非常に説明しづらい。あえて言うならば、子育て支援団体となるのだろうが、この言い方もしっくりこない。もっと柔軟でもっと身近な感じだ。
まず、「おばちゃんち」にはたくさんのプロジェクトがある。子育て広場や預かり保育の運営、保育サポーターの派遣事業、子育てプログラムや保育サポーターの養成講座の開催など、ざっと数えても10以上。それらがゆるくつながって「おばちゃんち」の形を成している。中心の"おばちゃんたち"こそ、元児童館館長の渡辺さんを始めとする保育の専門家たちだが、活動を支える"おばちゃんたち"には、二十代の若者から現役のママ、七十代の宿老まで、幅広く多彩な顔ぶれがそろっている。
「活動を支える」と言っても、トップダウンで動いているわけではない。それぞれが自発的に活動している。その結果、新しいプロジェクトが生まれたり、新たな自主グループが誕生したり。それを渡辺さんは、「おばちゃんちの風を受けた人が自らも風を吹かせる」と表現する。
「支援」ではなく「共に生きる」
──今、子育てに悩む親が増えています。
渡辺 「子どもたちが、もっと赤ちゃんとふれあう機会がふえたらいいなと思います。地域社会がぜい弱化して、赤ちゃんが育っていく過程を身近に見ることがなくなったでしょ。親になった時に戸惑ったり悩んだりする人が増えているのは、そうした社会の変化に起因しているような気がするの。
家庭も地域も個の時代になってしまったから、多様な人とふれあう機会が少なくなり、いろいろな人がいる、さまざまな違いがある、そういうことが忘れられているのよね」
──「おばちゃんち」では、子育てに悩んで集まってきたお母さんたちが、いつしか他のお母さんたちを支援する側になっていくという例が多いそうですね。
渡辺 「よく、みんなが『おばちゃんちでは仲間を感じる』って言ってくれるんだけど、お母さんたちが一歩踏み出すきっかけになっているのは、この「仲間との出会い」だと思うわ。
元気をなくしているお母さんには、まず安心できる場所や時間を提供することが大切。だから預かり保育「ほっぺ」や集いの場「みこちゃんち」をやっています。人は安心できる場にいると、エネルギーが充電されて活力が沸いてくる。そうすると、なにか行動したくなるのよね。そうして、「これがしたい!」というはっきりした想いが持てた人には、実現するための場や知恵を提供して、背中をそっと押す。何がしたいかわからないけど……という人とは、一緒にその何かを探る。それから、人と人をつないでいくの。あのお母さんもあなたと同じようなことがしたいって言ってたわよ、とかってね」
「おばちゃんち」の講座をきっかけに生まれた子育て情報誌「SKIP」の編集委員を務めるTさんとYさん(お二人とも現役ママ)は言う。「人のつながりや人との出会いをたどっていったらここにいたんです」「一緒に活動をしている人たちには、メル友ともママ友とも違う"仲間"を感じます」そして、「支援するとかではなく、自分たちが作っていて楽しいから」とも。
──「支援する」という言い方に違和感をお持ちだとか。
渡辺 「今は子育て支援というと、サービス型・お客様対応のものが多くて、"してもらうことが当たり前"という空気があるでしょ。それがよく使われる「支援する側・される側」という言い方にも表れていると思う。
でもここでは、やってあげる・やってもらう、どちらか一方という関係ではなく、みんなが水平な関係。だから私は「支援する」ではなく、「共に生きる」って言ってるの。みんな「この町で共に生きる仲間」なのよ」
そして、TさんとYさんも「子育てに関する活動をするようにはなったけど、特に支援する側に回ったという意識はありません。だって、いまだに私もいろんな人に支援してもらっているから。活動を通して誰かを支え、活動をするうえで誰かに支えられる。おたがいさま、おかげさまです」と気負いがない。

写真/預かり保育「ほっぺ」
安心して集える「場」
──しかし今、人とつながるのがむずかしい時代です。
渡辺 「人がふれあう「場」、しかも安心してくつろげる「場」を作っていくことが大切だと思います。今みんなが求めているのは、「あえて」ではなく、「自然と」つながっていくことなのよね。そのためには「安心して集える場」が欠かせない。世の中「安全」にばかり目が行きがちだけど、本当は「安心」こそが求められているんじゃないかしら。
あとは当人が人なつこく、めげずに相手に寄って行くしかない。途中であきらめてしまうと縁はつながっていかないから」
──「つながり」を「仲間」にしていくには?
渡辺 「共に学ぶことやモノを作る活動をすることかな。それは、冊子でもホームページでもイベントでも何でもいい。おしゃべりは一時の休息にはなるけれど、それだけで終わってしまう。その点、学ぶことやモノを作る活動では、共有できる達成感があるし成長し合うことができるから」
若者にとっても重要な場
──「おばちゃんち」には二十代のヤングスタッフもいます。第三日曜日に公園で行っている外遊びの集い「ホットほっとHOT」にも、彼らは自発的に参加するそうですね。
渡辺 「参加するもしないも自由意志なのに、それでもフラっと来る。彼らにとっても必要な時間なのよね、きっと。彼らだって内にいろんなドラマを抱えているはず。でも、そこへ行けばみんなが歓迎してくれるっていう「居場所を感じる嬉しさ」もあるんだと思う。彼らにとっても止まり木なのよ」
──親子だけでなく、若者にとっても重要な場だと。
渡辺 「そういう意識もあります。だから、彼らがいつ来てもやっているように、「ホットほっとHOT」は絶対に休まないって決めてるの。こういう「場」は、とにかく在り続けることが大事だから。
でも今「おばちゃんち」には十代がいない。なんとか彼らとつながり合いたいと思っているんだけど…。今、十代は同質の中でしか育てない環境になってきている。本来は十代こそ、いろんなタイプの人と接するべき時期なのに」
息子さんが十代に突入しようとしているYさんも同調する。
「品川において言えば、学校選択制の問題もあると思う。縦軸のない学校環境になってしまって、多様性が失われています。私立に行く子どもも多くなり、地域で仲間同士集うこともむずかしくなってしまった。群れることを分断されている感じがします」
点在していた子育て支援団体を横につなぐ
この街に、自ら風を吹かす"おばちゃんたち"が増えつつあるのには、「おばちゃんち」の呼びかけで始まった会議「子育て・子育ちにやさしいまちづくりネットワークINしながわ」によって、区内に点在していた子育て支援団体が横につながったことも大きく関係している。
渡辺 「この街には「おばちゃんち」の大先輩(子育て関連の団体)がたくさんいるの。先輩方に話をお聞きしたかったし、教えていただきたいこともあったから、ぜひ一度集まりませんか?と呼びかけた。皆それぞれに「つながること」の必要性を感じていたから、今でも継続的に開催しています。子育てのネットワークが点から面になったのは、子育て・子育ちにやさしいまちづくりをしていくうえで重要なこと」
怖がらないで初めの一歩を
──私は近所の子どもの名前さえ知りません……今私のような大人がたくさんいると思います。
渡辺 「怖がらないであなたも初めの一歩を踏み出してみて。「おばちゃんち」の目指す3要素は「やさしい笑顔」「気軽な声かけ」「よく聴く心」。あるお母さんが言ってくれた『よその子どもをかわいいと思えたらあなたも今からおばちゃん』という言葉があるんだけど、そうだなぁ、と思う。例えば、赤ちゃんを抱っこしているお母さんがいたらニコッとするとか。そういう小さなことでいいのよ。それがセーフティネットになることもあると思う」

写真/ふれあいの家 おばちゃんち 代表理事 渡辺美恵子さん
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編集後記 ライター カジノリコ |
▼ リンク
「NPO法人 ふれあいの家 おばちゃんち」
http://obachanchi.org/
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