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牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

(2023年1月11日 / 野町かずみ)

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

蔵書の山に埋もれるように研究に没頭していたという高知出身の植物学者・牧野富太郎博士。そんな博士の書斎を再現しようというプロジェクトが東京・練馬区で進められています。制作を任されたのは、博士をリスペクトしてやまない高知市のデザイナー。博士の情熱を伝えたいというその思いに迫りました。
(NHK高知放送局 野町かずみ記者)

【蔵書の山で埋め尽くされた書斎を再現】

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

94歳で亡くなるまで、その生涯を植物の研究に捧げた牧野富太郎博士。その植物研究の聖地とも言える書斎を再現しようというプロジェクトが、東京・練馬区の牧野記念庭園で進められています。書斎のデザインや制作を任されたのは、高知市の里見和彦さん(65)。長年にわたり、高知県立牧野植物園の職員として働いた経験があり、数々の牧野博士の展示会や本を手がけてきたデザイナーです。博士の親族から「牧野に対するリスペクトがあり、愛情たっぷりの里見さんに任せたい」とプロジェクトに推薦されました。

【約2000冊の本で書斎埋め尽くす】

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

プロジェクトでは、実際に博士の書斎があった部屋を使います。ここに博士が生きていた頃のように蔵書の山で書斎を埋め尽くします。里見さんみずからが描いた完成予想図では、およそ2000冊の本を置く計画で、この春の完成を目指しています。

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

「牧野先生は90歳を超えてもたくさんの本に囲まれていろんな資料を机の上に並べて、ずっと朝から晩まで研究に没頭していた。そういう一人の人間が好きなものを追求する情熱が伝わるような空間にしたい」。

【貧しい中で集めた大量の本を前に】

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

書斎再現の参考にしようと里見さんが訪れたのは、牧野博士の蔵書が保管されている「牧野文庫」(県立牧野植物園内 一般には非公開)です。博士の死後、その蔵書はすべて高知県に寄贈され、大事に保管されています。植物や園芸の研究書、外国語の辞書類に至るまでその数は約4万5000冊にものぼります。昔の重厚な研究書の数々を目にした里見さんは、貧しい中でも研究のために本を買い集めてきた博士の熱い思いを感じ取りました。

「ここにある本の一つ一つが、牧野先生の研究の血となり肉となっている。経済的に豊かでない中で、これだけの本を集めたためにその家族は苦労されただろうと思わずにはいられません」。

【自分にしかできない表現求めて】

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

本を通して博士の思いに触れるうちに、誰もしたことのない表現に挑戦しようと里見さんは、再現する本の一部を手書きで作ることを思いつきました。使うのは、色鉛筆とペンのみ。本物の蔵書の写真を見ながら、少しずつ色をつけていきます。複雑に色を重ねることで独特の味わいが出てくると言います。金色のペンでタイトルを書けばできあがりです。多くは外国語で描かれた昔の研究書ですが、本の内容や背景まで理解して作業を進めています。

「機械的に描くのではなく、牧野さんが欲しくて買った本なんだなと思いながら気持ちを込めて書いています。時間はかかりますが、ものづくりが好きなので楽しい。いろんなことが効率的になっている世の中で、多分、こんなことしている人いないだろうと思うと幸せを感じます(笑)」。

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

書斎の再現を通じて博士の情熱を感じ取ってほしいと制作に打ち込む里見さんに、博士はなんと声をかけてくれるでしょうか。

牧野富太郎博士の書斎再現に挑む

「『まぁ、よかろう』と言うんじゃないですか。いや、言ってほしいな。逆に『そんなもんじゃ足りん、全然、私の研究が表現できてない』という風に言われてる気もします。まだ満足はしていなくて楽しいけど苦しくもあります。手書き本を作る本当の気持ちの裏には、牧野先生自体、人がやったことをそのままやるような人じゃなくて、自分しかできないことを研究で成し遂げた人なんですね。牧野先生は、自分なりに一生懸命考えて、工夫をしたものであれば認めてくれるんじゃないかと思っています」。

再現される書斎には、手書きの本以外にも、高精細のカメラで本の装丁を撮影したものや、博士の学者仲間から寄贈された本などが並ぶ計画です。ぜひ、本の山の中から里見さんが手書きで作った本を見つけてみてください。

高知放送局記者・野町かずみ