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中道この道逃げる道

第12回「@宮城 南三陸町 後編」(2020年3月11日放送)

東日本大震災の発生から9年(放送時)。
今回を含め3回にわたり、被災者の証言などをもとに備えるべき注意点を考えてきました。
震度6弱の揺れと高さおよそ20メートルの津波に襲われた宮城県南三陸町。
震災当時、小学校の校長として児童の命を守る立場だった男性に、想定外から命を守るために何が必要か、話を伺いました。

戸締まりよりも いち早く高台へ

戸締まりよりも いち早く高台へ(1)

宮城県南三陸町です。
かつて海沿いにあった住宅街は、震災後、高台に移転しています。

戸締まりよりも いち早く高台へ(2)
中道アナ
ここは東日本大震災のとき、津波に襲われた場所ですね。
岡村さん
私たちがいる高台は、震災後、人工的に造られました。漁港や製氷施設が俯瞰(ふかん)できるようになっています。
戸締まりよりも いち早く高台へ(3)

被災したご夫婦に、漁港で出会いました。
地元出身の夫は、揺れの強さから津波を思い浮かべ、一刻も早く高台へ避難するよう妻に伝えました。しかし妻は、内陸の地域から嫁いだこともあり、津波への警戒心はなかったと振り返ります。

戸締まりよりも いち早く高台へ(4)
被災した女性
地震の揺れが終わって、まず家の中を片付けようと思いました。避難する前、「戸締まりをしなくていいの?」と夫に言ったら、「津波が来るのに戸締まりすることなんてねえんだ」と言われ、すぐ高台へ避難しました。

高台へ避難を終えると、自宅は津波に飲み込まれました。揺れの直後、「できるだけ早く高台へ避難する。」命を守るために、忘れてはならない教訓です。

“校長先生 高台ですね!” 地元出身の教頭が声をかける

“校長先生 高台ですね!” 地元出身の教頭が声をかける(1)

大津波が町を襲う中、91人の児童を救った人がいます。
麻生川敦(あそかわ・あつし)さんです。
震災当時、南三陸町立戸倉(とぐら)小学校で校長を務めていました。

“校長先生 高台ですね!” 地元出身の教頭が声をかける(2)

麻生川さんは、震災の2年前、初めて南三陸町の学校に赴任しました。
東日本大震災の揺れは想像を超えるものでした。

“校長先生 高台ですね!” 地元出身の教頭が声をかける(3)
麻生川敦さん
高くなっている辺りに小学校がありました。午後2時46分、地震が来たときは、いままで経験したことがないような揺れでした。
子どもたちは、グラウンドの土がぐにゃぐにゃ動いていたのを見た、と言っていました。
“校長先生 高台ですね!” 地元出身の教頭が声をかける(4)

学校で激しい揺れに襲われた麻生川さんは、児童たちと、どこに逃げるべきか、迷いが生じます。
選択肢は2つ。
すぐに逃げられる3階建ての校舎の屋上か、より高く逃げられる裏山の高台か。麻生川さんに声をかけたのは、地元出身の教頭でした。

麻生川敦さん
「校長先生、高台ですね」と教頭先生が言ったんです。
私は屋上のほうが素早く高いところに行けるので正解だと思っていました。でもすごい大きな揺れだったものですから、教頭先生の提案ももらって、やはり高台に逃げようと決めたんです。

児童全員は無事 しかし、いまも続く後悔

児童全員は無事 しかし、いまも続く後悔(1)

児童91人と麻生川さんたち教職員は、一路、高台を目指します。
高台に到着後、目にしたのは、津波が3階建ての校舎を飲み込む様子でした。そして津波は、麻生川さんたちにも迫ってきました。

児童全員は無事 しかし、いまも続く後悔(2)

さらに高く避難した麻生川さんたち。児童91人の命を守ることができました。

児童全員は無事 しかし、いまも続く後悔(3)

一方、麻生川さんには、いまも悔やんでいることがあります。津波が沿岸部に到達する前、高台での出来事です。

麻生川敦さん
1人の女性の先生から「私、自宅に帰りたいので、帰ってもいいですか」と申し出がありました。
児童全員は無事 しかし、いまも続く後悔(4)

「自宅で療養する夫のもとに帰りたい」と語る女性教師を、麻生川さんは止めることができませんでした。

麻生川敦さん
「大津波警報だから、だめだよ」と止めたんですけれど。その先生は、すぐそこの坂のところで「大丈夫です。うちの旦那、付いていてあげないと心配なんで」と言いながら、手を振って帰って行ったんですけれど。それが最後になってしまったわけなんです。なんで彼女の前に行って、手を引っ張ってでも止めなかったのか。いまも後悔しています。

“想定以外のことが起きる覚悟を”

“想定以外のことが起きる覚悟を”(1)
岡村さん
何が起こるか分かりません。
臨機応変の対応、実際起こっていることから、最もいいものを選んでいくプロセスが、命を守る基本だということが分かりました。
“想定以外のことが起きる覚悟を”(2)
麻生川敦さん
想定以外のことが起きる覚悟を持っておくことが必要だというのが1つです。
2つ目には、想定以外のことが起こっているかどうか判断ができることが必要だと思います。
いまは、想定していたことと違うことが起こっていると分かるためには、きちんと想定しておかないと分かりません。
麻生川敦さん
よりよい判断、行動をするためには、ふだんからいろいろな場数を踏み、勉強する必要があります。
何かをしてみるとか、失敗から学んでみるとか、そういう体験的な学びというのが、すごく大切だと思います。
中道アナ 編集後記
取材の終盤、麻生川さんに、津波に備えるために私たちができることは何か、伺いました。
麻生川さんの答えは「いまは想定していたことと違うことが起こっていると分かるためには、きちんと想定しておかないと分かりません」という言葉でした。
想定外が起こることは、十二分にあるということと、その時にどう行動できるかは、想定に基づいた備えや訓練で培っておくべきだと感じました。
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