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旦過市場 大火災はなぜ繰り返された |福岡県北九州市

  • 2022年09月12日

8月10日、夜9時前。
勤務を終えていた私の公用スマホが鳴りました。
「小倉北区魚町4丁目2番付近で建物火災」
火災の発生を知らせる消防からの配信メールでした。
「もしかして…」
発生場所にいやな予感がした私はすぐ現場に向かいました。
目に飛び込んできた激しく燃え上がる炎。
予感は的中。
現場は4月に大規模火災に見舞われたばかりの「旦過市場」でした。
火は20時間以上燃え続け、4月の火災を上回る45店舗が焼損。
大正時代から100年以上親しまれてきた「市民の台所」は2度にわたる火災で深刻な被害を受けました。
なぜ、大火災は繰り返されたのか、
どうすれば次の火災を防ぐことができるのか、取材しました。

記者/永延良太、石井直樹
ディレクター/中川治輝、木原清華

消防も「まさか」だった2度目

2度目の火災のあと、焼け跡には1500トンものがれきが残されました。
その場所で私たちは、あの夜、消火活動を指揮した消防隊長に話を聞きました。
ベテラン消防士である隊長にとっても過酷な火災だったといいます。

小倉北消防署 武田雅充 警防第二担当課長

「『まさか』と思った。なかなか2回目は信じられなかった。かなりの火の勢いで、燃えているところはなかなか入れる状況ではなかった。すべてトタンぶきの建物で、上から水をかけても中には届かないという状況だった。古い木造密集地域の消火活動の困難性は、頭では分かっていたつもりだったが、改めて経験すると、火の回りが速かった。
これだけの広範囲が焼損してしまったのは本当に無念だ。」


 

火元で何が…。消火器での初期消火に失敗ー

木造の店舗が密集する旦過市場。
火元とみられるのは、その一角の飲食店でした。
捜査関係者によると、出火当時の状況を店の関係者はこう説明したといいます。
「使用済みの天ぷら油に凝固剤を入れ、加熱したままにしていたら火が出た」

※イメージ

店では2本の消火器を使って初期消火にあたったものの、消し止められなかったということです。
私たちは店側に取材を申し込みましたが、「火災の件について、警察・消防の指示により、何もお話しできることはありません」との返答が寄せられました。

なぜ、大火災は繰り返された

2度目の火災を防ぐことはできなかったのでしょうか。
実は、消防は42店舗が焼けた4月の1度目の火災のあと、防火指導を強化していました。

消防の防火指導

担当者が市内の木造密集地域などの店舗をまわり、防火に関するチラシを配ったり、消火器の正しい使い方を伝えたりしていたのです。

今回の火元とみられる飲食店も指導の対象になっていました。
しかし、実際この店に指導が行われることはありませんでした。

行われなかった指導

一体、どういうことなのか。
北九州市消防局の幹部が取材に応じました。

北九州市消防局予防課 鹿毛敏伸 課長

「(火元とみられる店が)営業を行っているという事実を消防が知らなかった。実際に火災があった日は開いていたということを考えると、その日は営業していたのであろうー。」

つまりはこうです。

今回の火災の火元とみられる飲食店の周辺は4月の火災で大きな被害を受けていたため、この店も営業していないだろうと判断し、指導は行わなかったー。

一方で消防は、店舗を所有する不動産業者に対し、店が営業を再開した場合には連絡するよう依頼していたといいます。
しかし、不動産業者も営業再開を把握することができず、指導に結びつきませんでした。
なぜ逐一、店の営業状況を確認しなかったのでしょうか。
消防は防火指導の対象が1200店舗にものぼり、一軒一軒の細かい営業実態まで直接把握する余裕はなかったと説明します。

一連の対応を消防の幹部はこう総括しました。

「認識が甘かったと言われるかもしれないが、人員に限りがあるなかで、できることはやってきたと考えている。ただ、一軒一軒直接連絡を取るようにできなかったかと指摘されれば、それは真摯に受け止めなければいけないと思う。同じ地区で2度、火災が起きたことを踏まえると、しっかりやっていかないといけないと感じている。」

結果論ですが、今回の火災では初期消火の失敗が被害の拡大を招いただけに、事前に防火指導が適切に行われていればとの思いが強く残りました。

また同時に、消防だけでなく我々マスコミも含めて、どれだけの関係者が4月以降、再び起きかねない火災のリスクと真剣に向き合えていたか問われているように感じました。

全国に広がる波紋

旦過市場の連続火災は全国にも大きな波紋を広げています。

消防庁は8月26日、各都道府県に対し、大規模なアーケードや多くの木造飲食店がある地域を「重点防火指導対象地域」として自治会などと連携し、重点的に防火指導を行うよう通知を出しました。

こうしたなか、名古屋市で先進的な取り組みが行われていると聞き、取材に向かいました。

名古屋市 大須商店街

場所は名古屋市中心部にある大須商店街。
店舗数は1200と旦過市場のおよそ10倍。
大正時代から100年以上の歴史があり、一歩路地に入ると古い木造の建物が密集しています。

古き良き町並みを残しながら、どう防火対策を行っていくか懸案になってきたといいます。

大須商店街連盟 堀田聖司 会長

「隣との隙間もほぼなくて、火がついたら延焼を起こしやすい。火事になって焼けるというのが一番怖くて、このまま町並みを大切に残していきたいというのが我々の意思です。」

地元の消防では、旦過市場での2度の大規模火災を受け、危機感を持って対応しています。

大須商店街でも6年前、飲食店から火が出て8棟に延焼する火災がありました。
2度と火災を起こさないために取り組んでいるのが、店を危険度ごとに分類する「トリアージ」です。

効果あげる“店舗トリアージ”

「消火器の有無や使い方を知っているか」、「ちゅう房周りに可燃物がおかれていないか」など18項目を店舗に出向いて調査して危険度を5段階で判定。
数値が高い店舗を重点的に回ります。
対象を絞り込むことで、人員が限られるなかでも効率的に防火指導を行うことができるのです。

取り組みは徐々に成果をあげています。
大須商店街で100年以上続くうなぎ店では消防の指導で消火器の有効期限に気づくことができたといいます。

また、ベトナム料理店ではスタッフの防火意識の向上につながっています。
消防が配付した、ちゅう房での注意点を書いたシートを掲示。
「火をつけたままその場を離れない」、「ダクトを清潔にする」などの注意点が写真付きで解説されていて、日本語に不慣れなスタッフもスムーズに理解できるといいます。

 

名古屋市中消防署 予防課 小笠原茂係長

「トリアージを行うことで危険度を判定し、指導を行なう優先順位をしっかり判別することができる。それによって対象を絞れるので、とても効率的で、危険度の高い建物は確実に減ってきているので、指導のかいがあったと思っている。ただ、完全にリスクがゼロになったわけではないし、旦過市場の火災には私たちも衝撃を受けている。これを防ぐにはやはり皆さんひとりひとりが防火意識をしっかり持って取り組んでいくことが大事だと思う。」

各地で続く模索

木造の建物が密集する市場や商店街は全国にあり、各地で防火対策の模索が行われています。

例えば6年前に147棟が焼ける大火災が発生した新潟県の糸魚川市では、火災が起きた際、火元の周辺の住宅などにも火災を知らせる警報器を設置しました。
これによって近隣の住民もいち早く火災に気づき、連携して初期消火にあたることができます。

また、同じく6年前に5棟が焼ける火災があった京都の先斗町は、地元の人や警察などが連携して防火活動に取り組む新たなグループを発足させました。
グループでは店舗から離れられず訓練に参加できない飲食店関係者を巡回して訓練指導を行うなどしています。

一方、2度の大火災が起きた北九州市。

新たに消防の経験者を中心に14人の指導員を雇い、木造飲食店などへの防火指導を強化する方針です。
また、有識者による会議を設置し、より効果的な防火対策を検討することにしています。

“北九州市民の台所”はどうなる…

長年、市民に親しまれてきた旦過市場。
2度の火災に見舞われ、その行く末に大きな関心が集まっています。

もともと防災面の弱さが指摘されていて、北九州市は34億円余りをかけて、商業施設などを建設する再整備計画を進めていました。
そのさなかに起きたのが今回の連続火災でした。

市は計画通り令和9年度中の整備完了を目指す方針を崩していませんが、2度目の火災では、最初に着工する予定の区画にある店舗も被害を受けました。
火災のあと再整備に関する市と市場側の調整は滞っていて、影響は避けられないとの見方も出ています。

2度にわたる火災で焼損した店舗は90近く。
店主たちの営みは一瞬にして失われました。
なかには営業の継続を諦める店も出てきています。

一連の火災を教訓に、3度目を絶対に起こさないための対策を徹底していくことはもちろん、今後、再整備が進められるなかで、火災前のにぎわいをいかに取り戻していくか、問われることになります。

  • 永延良太

    北九州放送局 記者

    永延良太

    2017年入局

  • 石井直樹

    北九州放送局 記者

    石井直樹

    2019年入局

  • 中川治輝

    ディレクター

    中川治輝

    2014年入局

  • 木原 清華

    ディレクター

    木原 清華

    北九州局5年目

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