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2009年5月1日放送 (第395回)
さわれば、負けない〜訪問マッサージ・重田裕之さん〜
【仕事に危機感を持つ重田裕之さん】
今回の主人公は、重田裕之さん、43歳。網膜色素変性症で、視力がほとんどありません。
重田さんは、はり・きゅう・マッサージのプロとして、20年やってきました。しかし、いま、大きな危機感を持っています。視覚障害のある仲間たちが、はり・きゅう・マッサージ師として活躍できる場が、どんどん少なくなっているというのです。
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はり・きゅう・マッサージ師は、正確には、それぞれ「はり師」「きゅう師」「あんまマッサージ指圧師」と呼び、別々の国家資格が必要です。
〔番組では総称して、はり・きゅう・マッサージ師と呼びます。〕
現在、この分野に晴眼者(目の見える人)の参入が相次ぎ、特に、はり師ときゅう師になる人が増えています。
はり師の国家試験の合格者数を見ると、1993年度では、全体で2,141人が合格しています。そのうち、
視覚障害者は459人でした。
2008年度には、全体の数は、およそ2倍の4,216人に増えていますが、視覚障害者は286人に減っています。
また、近年の癒しブーム、健康ブームといった背景もあり、整体、カイロプラクティック、リフレクソロジーなどの、はり・きゅう・マッサージと似たような行為をする職種が増えています。ただ、このような分野には国家資格の制度がありません。
はり・きゅう・マッサージ師の団体の中には、このような分野で事実上、無資格でマッサージに等しい行為をするのは、法律違反であると主張している人たちもいます。
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「僕たちの働ける場が減っている」という重田さんに、スタジオで話を伺いました。
<シュウ> 国家資格を取る人の人数を見ても、競争率が上がっていますね?
<重田さん> そうですね。人気があるというとらえ方もできますけどね。
<シュウ> 需要はあるのに働ける場が減ったのは、どういうこと?
<重田さん> やはり晴眼者の方が、事務作業とかいろんなことがスムーズにできる。我々は視覚に障害があり、できないことがあるのでサポートが必要。すると、サポートのいらない晴眼者が雇用されるということで、なかなか我々にとって、特に病院なんかでは厳しい現状ですね。
<シュウ> 国家資格の免許がある・ない、という問題もあるのでしょうけども、重田さんの中で一番の問題意識はどんなことですか?
<重田さん> やっぱり、この過当競争の時代を勝ち残っていきたいなと考えています。
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【重田さんが目指す訪問マッサージ】
厳しい状況を打開しようと、重田さんはある事業を始めようとしています。それは訪問マッサージ。これまで視覚障害者がほとんど手がけてこなかった分野です。
実際にやってみると、どんな難しさがあるのか。いま重田さんが試しているところです。
訪ねたのは、小栗定子さん、85歳。知り合いを通して今回、協力を依頼しました。小栗さんは、脊椎が変形する病気のため、ひとりで出歩くことが困難です。
重田さんが目指す訪問マッサージは、国家資格を持ったマッサージ師が、医師と連携を取りながら、治療の
一環として行う本格的なものです。医師からは、その人の病状や、治療にあたっての注意点が示されます。患者と重田さんたちは、これからの治療の目標を相談しながら決めます。
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たとえば、小栗さんの目標のひとつは、前をまっすぐに見て歩けること。
マッサージで、脊椎の変形が治るわけではありませんが、長年使わずにいたため、固まってしまった筋肉をほぐし、少しでも鍛えることで、改善をはかります。
<小栗さん> 本当に上を向くことって、最初はゆっくりでないとできませんでしたもんね。
<重田さん> そうですね。(成果が出て)速くなりましたよね。
週に一度、30分の治療を2ヶ月続けることで、小栗さんは少しずつ良くなっています。ヘルパーと一緒に外を歩く機会も増えてきました。
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<玉木> 訪問マッサージは、お医者さんの処方せんか何かが出て、それで重田さんに「来てください」と依頼があって、(患者さんを)お伺いするということなのですか?
<重田さん> そうですね。お医者さんから「この人にはマッサージが効果ありますよ」と言われると、我々が医療保険を使って訪問マッサージを行う。ケアマネージャーとかを通して、患者さんを紹介してもらう、ということになります。今は、寝たきりの方がどん
どん増えてきた。だから、そういう需要は多いと思います。
<シュウ> それまではどうだったんですか?たとえば、仲間うちで「外に出よう」と言うと、「いや、そんなん難しいで」という空気はあったのですか?
<重田さん> 晴眼者で(訪問マッサージを)やっている方はバイクとかで訪問しますが、我々は公共交通機関、バスや電車を使うので、患者のところに行くまで時間がかかります。一日に回る件数はしれていますよね。そうなると、僕たちの稼ぎは、たいしたことがないので、そこがちょっと大きいです。
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<小林> でも今、重田さんはテスト期間というか、試行錯誤されていますよね。どうやったら解決できるのか、どんな手応えを感じていますか?
<重田さん> もともと僕の知り合いが作った「つくし会」というNPO法人が、送迎とか、書類を作成する事業について協力し
てくれることになりました。そういう心強い味方を得たので、今回、思い切ってやろうと思っています。
<玉木> マッサージだけではなくて、訪問マッサージという仕組みを、いろいろ手を使ってやろうということですか?
<重田さん> そうですね。仕組みと、あと仲間ですね。どうしても一人ではできないので。お互いにできることをやって、できないことをサポートするということです。
<小林> 訪問マッサージをこれから進めていく中で、今一番、壁に思っていることはなんですか?
<重田さん> やっぱり晴眼の方もこういう事業をやっていますので、競争しなければいけない。そうすると、やはり、さわったら(マッサージで)勝てるというまでの技術ですよね。技術を伸ばさないと、またぶち当たってしまうので。送迎をしてもらうとかのサポートはできますので、そこからは腕の勝負ですよね。
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【マッサージの技術を伸ばす努力】
週に一度。重田さんと一緒に、訪問マッサージをやろうと考えている人たちが集まって、研修会を開いています。全員が国家資格を持っ
た、現役のマッサージ師です。仕事が終わってから集まれるようにと、夜の9時から始まります。
ここに集まるマッサージ師の多くが直面しているという、技術の壁。
参加者のひとり、武秀樹さん、42歳です。武さんは、うつぶせになった患者役の人の、こりの中心部をなかなか見つけることができません。
<重田さん> 手ごたえとして、(背中の)右、左どっちがつらそうですかね?
<武さん> まだ、わからないです。
<重田さん> ここまでやったのに(笑い)。今までいっぱいさわったやん、おかしいなぁ。
武さんは、リラクゼーション中心のマッサージ店を営んでいます。客は会社員も多く、こっている部分やもん
で欲しいところは客の方から言ってくれます。しかし、訪問マッサージでは、自分で話せない人や、自覚症状のない人も対象になります。マッサージ師が、自分で患部を探す必要が出てきます。
<重田さん> とりあえず腰(のこり)はここですね。僕の親指の先。
重田さんが探し当てた患部を、武さんもさわって確認します。
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舞谷哲さん、38歳。舞谷さんも苦戦しているようです。舞谷さんの勤め先では、短時間に多くの人をこなすことが求められています。個々の
患者に合わせるというより、誰にでもある程度は効くというマッサージを心がけてきました。
重田さんのアドバイスを受けながら、触診の練習をします。これまでの技術をもとに、新しい技術をどう身につけていくか。ひとりひとりの模索が始まっています。
スタジオには、武秀樹さんと舞谷哲さんにも来ていただきました。武さんは全盲、舞谷さんは弱視です。
<シュウ> なぜ技術が不足していると思われますか?
<武さん> 僕は初めて修業というか、勤めに行った所が、「とりあえず強く押しなさい、うちはそういうお客さんばっかりやから」と。だから、指を鍛えることから始めて、「痛いのをがまんして押してもみ
なさい、こっているところがわからなかったら、お客さんに聞いてそこをもめばいい」と。自分からみつけるということは今までしてこなかったことですから、やはり、だいぶとまどっています。
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<シュウ> 国家試験って、どんなものなんですか?
<舞谷さん> 150問ありまして、4択問題です。どうしても(教科書を勉強する)受験勉強みたいになるので、技術的なものはちょっと足りないかなと、やっぱり自分ではそう思いましたね。
<武さん> 自分一人でしていると、だれも指摘してくれることがないので、「こんなもんかな?」という程度になっているところもあると思うのですが、それなりに自信も持っている。ですけど、やっぱり今回、研修会に参加して最初に言われたのが、「あたりがきついよ、それではちょっとダメ」ということ
から始まって、「あ、そうなんや」という風に再認識できたのは、かなりありがたかったですね。
<シュウ> 生活の方は、ばっちりですか?
<武さん> ばっちりじゃないです。ばっちりだったら、多分、新たなことをしようとは考えてないかもしれないです。逆に言うと、「もっとしたい。稼ぎたい」というのが一番の根底にありますから。今のままではどうしようもないので、というのも僕の中にはあります。
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<シュウ> やっぱり、おのおのに動機というか、やる気というか、エンジンがかかる理由がないと…。重田さんの動機で、一番根っこにあるのはなんですか?
<重田さん> 自分の技術のなさに気づいたから、伸ばさなければならないと思ったことでしょうね。実は去年まで、盲学校で教師をしていたんです。自分の技術には絶対の自信を持っていた。10
人もんだら8人までうまいと思わせるような自信を持っていたんですけど、ある時、授業の一環で生徒と一緒にマッサージの訪問サービスに行ったんです。その中で、たまたま生徒が休んだので、代わりに僕が生徒と一緒にもんだ。よく見えている生徒がたまたま僕の
もみ方を見ていて、学校へ戻る時に「さっき変なもみ方していませんでした?」って耳打ちするんですよね。(その後、技術を伸ばすために勉強に行った所は)すごいレベルが高くて、僕は免許取って1
5,6年経っていましたけど、1年目の人と触診の練習をさせられたんです。ちょっと屈辱的でしたけど、負けるわけにはいかないと、冷や汗かきながらやりました。それ以来、ずっと負けてはいかんという気持ちで、やっぱりこっちもプライドがありますし。
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【さわれば負けない 技術で勝負!】
かつて、もみ方がおかしいと言われた時のはずかしさを、二度と味わいたくない。重田さんは、今もある鍼灸師のもとで修業を続けています。
師匠の大塚建彦さんです。重田さんが通うようになって、もう8年になります。いま、集中的に学んでいるのは、鍼です。
<大塚さん> 非常に失礼な言い方やけど、(重田さんは)未熟な部分があったので、どうされるかなと思ったけど、それでもついてこられましたからね。食らいついてきはったし。
大塚さんは、助手のすねに、黒い線を引きました。この線に沿って鍼を打てれば、スポーツ選手に多い骨膜炎によく効くということです。重田さんは、手の感覚を頼りにポイントを探します。
<重田さん> (鍼を打って)痛いですか?
<助手> 大丈夫です。
<大塚さん> これでいいんやけど。実際はこのもう少し内縁がいいわけよ。
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重田さんの刺した鍼は、ラインより少しずれてしまいました。
<大塚さん> ピンポイントに鍼の先を持っていく必要があるので。やっぱり1ミリ2ミリの差が大事ですね。きれいにピンポイントに当たって、症状がとれる場合は、治療する前に10あった痛み
が1とか2とか、極端なことをいうとゼロまで落ちるんやけど、ポイントがずれると、それが7とか6ぐらいにしか落ちない。
教えられた手の感覚を頼りに、改めて場所を探します。
<大塚さん> これ完璧。オーケーですわ。
<重田さん> ありがとうございます。
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<玉木> 職人的な奥深い話ですよね。やっぱり、どうしてもこれまで、障害のある人の多くは、「まあ、こんなもんか」とか「これでいいか」みたいなことが強かったのかな。そうじゃなくて、今の
話を聞いていたら、「障害関係なく腕やねん、技やねん」と…。それをやっぱり、これからは自分たちも鍛えていかなあかんのかな、という風に聞こえたんですけど。
<重田さん> 僕は、まだまだ可能性はあると思うんです。治療院に行くとか、患者の所に行くまでは大変ですけど、さわってしまえば、満足させる方法って必ずありま
すので、そこに隔たりはないと思うんですよね。だからやっぱり、技術で勝負と。
<玉木さん> なるほど。じゃあ、後で僕もさわってもらおうかな(一同笑い)。
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【これだけは言いたい!】
ゲストを代表して、重田さんに“これだけは言いたい!”ということを伺いました。
「いろいろな障害があるでしょうが、障害があっても必ずまわりには援助、サポートしてくれる人がいますので、その人たちとともに、自分でできることをやれば、必ず自分たちの実力は伸びていくと思います。せっかくやっていく仲間もいるので、一緒に勉強してい
きたい。一緒に学んで、一緒に伸びていきたいというのが一番大きいですね」
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