キッズワールド

幼稚園・保育所向け番組のひろば

放送番組を利用した保育実践

ラジオ番組「お話でてこい」の楽しさ

山口県宇部市 宇部フロンティア大学付属幼稚園 斎記恭子
(第46回 中国地方教育放送研究大会 実践発表より)

思いの共有とお話への集中~「ヘンゼルとグレーテル」 4歳児

 聴き終わったとき、「おわり?早いよ」「もう一回聴きたい」と子ども達が口々に言い、“もっと聴きたい”という気持ちが感じられました。ある男児はお話を聴いて、親に叱られた経験を思い出しました。その経験談がまわりの子ども達の心に浸透し、互いに心を通じ合わせていることがみんなの表情から感じられました。

 ある男児はお話を聴いて、親に叱られた経験を思い出しました。その経験談がクラスの子ども達の心の中に浸透し、互いに心を通じ合わせていることがみんなの表情から感じられました。

 別の日、聴きたいという子ども達だけで前後編を続けて聴きました。聴く姿勢は真剣そのもので、30分間のお話を長く感じている子はひとりもいないようでした。

 お話を聴いている途中で2人の男児が絵を描きはじめました。お話に集中し、よく理解できたからこそ、それを描いてみたいという表現意欲がわき起こったのではないかと思います。

実践の詳細 「ヘンゼルとグレーテル」 4歳児 35名

(前編) 初回聴取日 12月20日

[聴取中の様子]

 「ラジオのお話 聴きますよ」と子ども達に声をかけると、ラジオの前に座りながら「早くラジオのお話聴きたーい」という声も聴かれ、子ども達がラジオのお話を楽しみにしている様子がうかがえる。

 ラジオのお話が始まって、{あたりは もう夜でした}という声に「こわいねー」と友だちと顔を見合わせる。{今日のお話はこれでおしまい}には、「おわり?早いよ」と残念そう。


[聴取後]「ぼくも山に捨てられた」~思いの共有

「おもしろかった!」という子どもの声に、「こわいねって言ってた人もいたよ」と保育者が答えると、「えーっ、こわくなーい」という声があがる。

 保育者が「山に連れて行かれて、夜になったじゃない?」と問いかけると、「ぼくも山に捨てられたことある、兄ちゃんと」と、S男。

 S男がお父さんとお母さんに叱られて、怖い思いをしたことをみんなに語った。「石の階段を登ってどんどん山の中に歩いていったんよ。」後日S男の母親に尋ねてみると、家族で防府に買い物に行った時、S男と兄があまりに自分勝手なことを言うので、帰り道山口市の21世紀の森で車から降ろし、森の中に入って行かせたことがあったと話してくださった。「先生、あれは本当にヘンゼルとグレーテルやった。」と笑っておられた。S男はラジオのお話を聴きながらその時のことを思い出していたのであろう。夜ではなかったにしてもうす暗い森の中はさぞ心細かったに違いない。S男は、明朗、活発でクラスのリーダー的な存在であり、影響力のある男児である。そのS男の経験談が、クラスの子ども達の心の中にまで浸透し、心を通じ合わせていることがみんなの表情から感じられた。そしてそれはお話の中のヘンゼルとグレーテルの心にもつながっていたであろう。

 一方、T男は「あのおばあさんは魔女なんよ」とつぶやいている。


(後編) 初回聴取日 12月21日

[聴取中の様子]

昨日休んでいた三人に、前編のお話がどんな内容だったかをお話が始まる前にみんなで教える。ラジオのお話が始まって、{おばあさんは魔女だったの}という声に、「ほらね、やっぱり」と、T男は自分の思っていた通りの展開に満足そう。みんな、最後まで熱心に耳を傾けている。


[聴取後]

 お話が終わると、「もう一回聴きたーい」「巻き戻してー」という声。「えっ、もう一回初めから聴きたいの?」と、保育者が尋ねると、「いや、もうきかんでもええ」という声も聞こえてきた。聴きたい子ども達には聴かせてやりたかったが、この日はそのための時間をとることが、残念ながらできなかった。


(前後編) 聴取日 12月22日

 クラスの半数ぐらいの子ども達が登園してきて、それぞれ好きな遊びを楽しんでいる。戸外で遊んでいる子もいるが、保育室の中で遊んでいる子ども達の中に、昨日「もう一回聴きたーい」と言っていた子どもをみつけ、声をかけてみることにする。「昨日、ラジオのお話がもう一回聴きたいって言ってた人がいたけど、今から聴く?」と、保育室にいる子ども達みんなに尋ねてみると、「うん」「聴きたーい」と12人の子ども達がラジオの前に集まってくる。ままごとコーナーにいた女の子3人は、そのままその場にいる。


[聴取中の様子]

 お話の途中で登園してくる子や外遊びから戻って来る子もいるが、静かにラジオのお話に聴き入っている友だちの様子にすぐに気づき、そっと保育室に入ってきて、ラジオを聴いている仲間の中に加わる。

 ままごと遊びをしている女の子達も遊びの手を休めて、ラジオのお話に耳を傾けている。

 前編が終わって、保育者が「つづきのお話はどうする?」と尋ねると、「聴くー」「かけて」という返事。後編もそのまま続けて聴き、30分間の長いお話を静かに最後まで聴く。


[聴取後]

 お話の終わり近くになって、二人の男児がうしろのテーブルに移動し、クロッキー帳に絵を描きはじめる。M男はおかしの家を描く。S男は迷路を描き、「ここがヘンゼルとグレーテルの家で、こっちが魔女の家なんよ」と、保育者に教えてくれる。

  • M男の絵
  • S男の絵

考察

 お話が終わって聞かれた「おわり?早いよ」「もう一回聴きたい」という子ども達のことばから、“お話がおもしろかったから、もっと聴きたい”という気持ちが感じられる。15分間という時間を長いとは感じていなくて、退屈もせず、集中して最後まで聴いていたのであろう。

 “もう一回聴きたい”という子ども達の願いをその日にかなえてやることができなかったので、次の日は、タイミングをみはからって、もう一度聴く場をぜひつくってやりたいと思っていた。

 そうして迎えた次の日は、本当にお話を聴きたいと思っている子ども達が集まっているだけに、ラジオに耳を傾けている姿は真剣そのもので、30分間のお話を長いと感じている子はひとりもいないようであった。お話を心の底から楽しんでいる様子がうかがえた。

 また、お話の途中ではあったが2人の男児が絵を描きはじめたのはお話に集中し、よく理解できたからこそ、それを描いてみようという表現意欲がわき起こったのではないかと思う。お話によって、心が動いたことから生まれてきた活動ではないだろうか。