NHKスペシャル「人体」驚きのパワー!“脂肪と筋肉”が命を守る

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NHKスペシャル「人体」驚きのパワー!“脂肪と筋肉”が命を守る

脂肪と筋肉、2つの言葉から何を連想するでしょうか。脂肪はただのアブラのかたまり?筋肉は体を動かすための装置?そんな思い込みが、最新研究で大きく覆されています。どちらも全身に向けて“メッセージ”を伝える特別な物質を放出し、命に関わるさまざまな病気の発症と密接に関わっていることが分かってきたのです。2017年11月5日に放送したNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」~第2集・驚きのパワー!“脂肪と筋肉”が命を守る~では、タレントのタモリさんとノーベル賞受賞者の山中伸弥さんのW司会、ゲストの松岡茉優さん・宮川大輔さん・春日俊彰さんというにぎやかな顔ぶれで、脂肪と筋肉の驚きの最新研究成果をたっぷりご紹介しました。

脂肪と筋肉は人体最大の臓器だ

私たちの体には、どこにどれほどの脂肪と筋肉が付いているのか。それを明らかにするため、MRIという装置でとらえた女優・橋本マナミさんの全身の詳細なデータを元に、最先端の技術で立体的に映像化しました。これほどくまなく健康な人の体内をMRIで撮影したデータはとても貴重で、山中さんも驚いていました。

そのデータに基づいて割り出すと、体重56kgの橋本さんの体には、およそ18kgの脂肪と、およそ21kgの筋肉が付いていることが分かりました。2つを合計するとおよそ40kgにもなります。脂肪と筋肉は、合わせると体の7割をも占める、まさに“人体最大の臓器”だったのです。

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女優・橋本マナミさんの体内の脂肪組織だけを黄色く示した
(映像:NHK/京都大学附属病院/Siemens)

脂肪細胞が放つ“メッセージ”が 食欲をコントロール

ただのアブラの固まりに思える脂肪ですが、その実体は、「脂肪細胞」と呼ばれる生きた細胞が無数に集まったものです。脂肪細胞は、その内部に、食事からとった糖やアブラを中性脂肪として蓄える「油滴」と呼ばれる貯蔵袋を持っています。内部に脂肪が蓄えられるにつれて、脂肪細胞はどんどん膨らんでいきます。まさに「エネルギー貯蔵庫」のような細胞なのです。

最新研究から、この脂肪細胞が、驚くことに全身に向けてさまざまな“メッセージ”を伝える物質=「メッセージ物質」を放出していることが分かってきました。しかもそのメッセージは、脳の働きにまで影響を与えているのです。

それを裏付けるのが、「脂肪萎縮症」という、生まれつき体に脂肪細胞がない病気の人に現れる、特別な症状です。いくら食べても食欲が満たされず、もっと食べたいという衝動を抑えられません。なぜなのか?

健康な人の体内では、脂肪細胞に中性脂肪が蓄えられるにつれて、「レプチン」と呼ばれるメッセージ物質が放出されます。この物質は、いわば「エネルギーは十分たまっているよ!」という、脂肪細胞からのメッセージを伝える働きをします。放出されたレプチンは、血液の流れに乗って、脳の中心部にある視床下部というところに到達し、そこの神経細胞の表面に並んだアンテナのような“受容体”と呼ばれる装置で受け取られます。すると、脳は「もう食べなくていい」と判断し、食欲を抑える指令を伝えるのです。こうして、レプチンの働きによって、私たちの食欲は適切にコントロールされています。

ところが、体に脂肪細胞がない脂肪萎縮症の人は、脂肪細胞が出すレプチンもありません。そのため、たとえ体を維持するのに十分なエネルギーをとっていても、脳が「エネルギーは十分」と認識できず、食欲が止まらなくなるのです。

脳の神経細胞の表面のある“アンテナ”に
脳の神経細胞の表面にある「受容体」に
レプチン(黄緑)が結合した瞬間(CG)

筋肉も出している!?すごい“メッセージ物質”

一方、筋肉の細胞も、さまざまな「メッセージ物質」を放出していることが分かってきています。最初に発見されたのは、「ミオスタチン」というメッセージ物質。筋肉は、必要以上に増えすぎると、体のエネルギーを浪費してしまいます。そこで筋肉には、周囲の筋肉の細胞に向けてミオスタチンを放出し、「成長するな」というメッセージを伝える仕組みがあります。いくらトレーニングをしても際限なく筋肉が増えたりしないのは、ミオスタチンの作用によるものだったのです。

  筋肉の成長を抑えるミオスタチンが出ていない特別な牛。
筋肉の成長を抑えるミオスタチンが出ていない特別な牛
どんどん筋肉が肥大してしまう

筋肉から出るメッセージ物質は総称して「マイオカイン」と呼ばれ、ミオスタチンの他にも、次々と発見が続いています。中でも興味深いもののひとつが、運動すると筋肉から出てくる「カテプシンB」というメッセージ物質。これが脳に働きかけて、なんと“記憶力が高まる可能性がある”という研究報告が、アメリカ国立老化研究所から出されています。マイオカインの研究はいまとてもホットな研究分野となっているのです。

「メッセージ物質の異常」が招く、メタボの本当の恐ろしさ

いまや世界中でおよそ6億人以上もの人が「肥満」だといいます。そもそも健康な人では、脂肪細胞に蓄えた脂肪が増えるほど、食欲を抑えるメッセージ物質「レプチン」が大量に放出されて、食欲を抑えてくれるはず。なのになぜ、食べ過ぎて太ってしまうのでしょうか?

じつは、肥満して食べ過ぎている人の体内では、レプチンが出ていても、そのメッセージに脳が正しく反応できない「レプチン抵抗性」と呼ばれる状態が生じていると考えられており、そのメカニズムはまだよく分かっていません。一説によれば、血液中を漂う過剰な脂肪が邪魔をして、レプチンが血管から外へ出て脳へと向かうことができないとか、脳の神経細胞がレプチンを受け取っても反応を起こしにくくなっていると考えられています。

そのような肥満状態が進むと、やがて陥るのが「メタボリックシンドローム」です。メタボというと、お腹でっぷりの体型の問題と思われがちですが、その体内では大変なことが起きています。体を守る免疫細胞が“暴走”しているのです。

高脂肪食を与え続けたマウスの体内で免疫細胞が過剰に活性化し、暴走をはじめる

(映像:大阪大学 石井優 水野 紘樹)

「免疫の暴走」とは何なのか?メタボの人の脂肪細胞は、「敵がいるぞ」という警告を伝えるメッセージ物質を誤って放出していることが分かってきました。それを受け取った免疫細胞は、活性化して「戦闘モード」に変化し、自らも「敵がいるぞ」という誤ったメッセージを拡散していきます。

こうして暴走状態となった免疫細胞が、突然死も招く動脈硬化や心筋梗塞、さらには糖尿病など、さまざまな病気を引き起こしうるというのです。

”メッセージ物質” IL-6が「免疫の暴走」を鎮める!?

免疫細胞の暴走をどうやったら食い止められるのか。じつはそのカギが、筋肉が放出する“メッセージ物質”にあると考える研究者がいます。デンマーク・コペンハーゲン大学のペンデ・ペダーセン博士です。運動をすると筋肉から放出されるメッセージ物質・IL-6に、免疫の暴走を抑える作用があるというのです。

コペンハーゲン大学のペンデ・ペダーセン博士
自ら実験台となって筋肉の未知なる働きを研究する
コペンハーゲン大学のペンデ・ペダーセン博士

IL-6とは、もともと日本人が発見したメッセージ物質で、むしろ免疫を活性化する物質として知られていました。ところがペダーセン博士の実験では、IL-6の働きによって、メタボの人の体内で異常放出されている「敵がいるぞ」というメッセージ物質・TNFαの量を大幅に抑えるという結果が出たのです。山中さんも、「IL-6は、状況に応じて、免疫の暴走の促進と抑制という両方の作用をもつ可能性が指摘されている」と語ります。IL-6の多面的な作用が少しずつ知られるようになってきました。

運動で筋肉を動かすと、エネルギーを消費して過剰な脂肪を燃焼させる効果や、血流が良くなる効果があることは知られていますが、その他にも、メッセージ物質を出すことによって「体の状態を正常に保つ」という未知のパワーが秘められている可能性が、注目されているのです。

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