【特集】慢性腎臓病の対策と治療 食事の改善や運動で進行を遅らせる

更新日

【特集】慢性腎臓病の対策と治療 食事の改善や運動で進行を遅らせる

慢性腎臓病の悪化を食い止めるための食事療法や、おすすめの運動を特集します。慢性腎臓病の人は日本に1300万人以上いると推測されています。自覚症状がほとんどないのが特徴で、腎臓の機能は失われると元に戻らないため早期発見が非常に大切です。

自覚症状がほとんどない!?慢性腎臓病とは

慢性腎臓病は、腎臓の働きが低下した状態や、尿の中にたんぱくが漏れ出る状態(たんぱく尿)の総称で、日本には1300万人を超える慢性腎臓病の人がいると推計されています。
慢性腎臓病になっても、腎臓の働きがかなり低下するまで自覚症状がありません。そのため、慢性腎臓病と診断されても最初は自覚症状がまったくない人が大半なので、気づきにくく油断しがちな病気といえます。

慢性腎臓病の原因になる糖尿病や高血圧が動脈硬化を進行させる

慢性腎臓病が進行すると、透析などの治療が必要になることがありますが、それだけでなく脳卒中・心不全・心筋梗塞なども起こりやすくなります。

理由の1つは、慢性腎臓病の原因になる糖尿病や高血圧が、動脈硬化を進行させ脳卒中や心筋梗塞を引き起こすからです。
もう1つの理由は、慢性腎臓病そのものが脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくするからです。腎臓は体内のさまざま物質の量を調節していますが、腎臓の働きが低下すると、それらの物質が血液中に異常に増え、それが血管を傷つけると考えられるのです。そうした物質の代表がリンです。

リンによる血管の石灰化についてはこちら

慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病が進行してから出る症状

慢性腎臓病は病気がかなり進行して初めて症状が現れます。主な症状はだるさ、食欲不振、頭痛、吐き気、むくみ・動悸・息切れ、高血圧、貧血、骨が弱くなるなどです。
いろいろな症状が現れるのは、腎臓の働きが低下することで体内にさまざまな有害物質がたまってしまうためです。体内に余分な水分もたまるので、むくみが生じ、血圧も高くなります。
この段階では心臓病や脳卒中が非常に起こりやすく、また透析治療を避けにくくなります。

慢性腎臓病のメカニズム

慢性腎臓病のメカニズム
慢性腎臓病のメカニズム

腎臓は尿を作る臓器で、腎臓に流れ込む全身の血液から老廃物を取り除き、余分な塩分・水分とともに、尿として体の外に排出します。老廃物を取り除くのは、腎臓の中にある「糸球体」という小さい無数の組織です。きれいになった血液は腎臓から全身に流れます。

慢性腎臓病では糸球体が少しずつ壊れていきます。その結果、血液中の老廃物が十分に取り除けなくなったり、尿に漏れないはずのたんぱくが尿に交じったりします。一定程度以上に壊れてしまった糸球体は、正常に戻ることはありません。



生活習慣が大きく影響する 慢性腎臓病の原因

慢性腎臓病の原因

慢性腎臓病は、腎臓自体の病気である慢性腎炎や、生活習慣病の「糖尿病」「高血圧」が原因になります。さらに加齢と喫煙も影響します。

【慢性腎臓病の代表的な病気】

  1. 糖尿病性腎症…糖尿病の合併症の一つで腎臓の働きが低下する
  2. 腎硬化症…高血圧と加齢が影響。糸球体が障害される
  3. 慢性糸球体腎炎…何らかの免疫異常や炎症が関わって発症。IgA腎症や膜性腎症などを含む

糖尿病が原因の慢性腎臓病になった人について詳しく知りたい方はこちら



腎臓の機能を失わないために、早めの検査&治療を

慢性腎臓病の多くは、「尿検査」「血液検査」で早期発見できます。たんぱく尿と血清クレアチニン値はどちらか1つが異常でも慢性腎臓病と診断されます。病気を見逃さないためには両方の検査を受けることがすすめられます。

尿検査

尿検査

尿検査では、「たんぱく尿」を調べます。慢性腎臓病では血液をろ過する糸球体が壊れ、尿に漏れないはずのたんぱくが検出されることがよくあるからです。
たんぱく尿が「1+」以上だと慢性腎臓病が疑われます。「−」は正常です。その間の「+−」は ほぼ正常ですが経過観察がすすめられます。

血液検査

血液検査

血液検査では、「血清クレアチニン値」を調べます。クレアチニンは老廃物を代表する物質で、腎臓が正常なら尿に出ますが、腎臓の働きが低下すると血液にとどまる量が増えます。
クレアチニンの値から「GFR」という値を推算します。eGFR(推算糸球体ろ過量)が60未満だと慢性腎臓病が疑われます。この値は腎臓の働きが正常な場合の何パーセント程度かを示します。

糖尿病の人が必要な検査

糖尿病の人が必要な検査

糖尿病が原因の慢性腎臓病(糖尿病性腎症)にかぎっては、たんぱく尿やクレアチニンの検査だけでは早期発見ができません。「微量アルブミン尿検査」を受ける必要があります。
糖尿病性腎症の初期にたんぱくの1つであるアルブミンがごく微量、尿に漏れるため、それを調べるものです。糖尿病の人は年1回はこの検査を受けてください。早期発見により進行を抑制することが可能です。一般の健康診断では行われないため、糖尿病で受診したときなどに医師に相談するとよいでしょう。

慢性腎臓病の早期発見につながる検査(尿検査・血液検査)と治療法



慢性腎臓病が進行したら、透析治療と腎移植

慢性腎臓病が進行すると、腎臓の働きを代替するために、透析治療か腎移植が必要となります。

慢性腎臓病 2つの透析治療

透析療法とは、腎臓の働きの代わりをして老廃物や余分な塩分・水分を排出する治療法です。
透析が必要になるのは、腎臓の機能がかなり失われてからです。

血液透析とは

血液透析とは

透析治療を受ける人の大半は「血液透析」を選択しています。血液を体の外に送り出し、透析器という機械で老廃物や余分な塩分・水分を除去したあと、血液を体の中に戻す方法です。医療機関に週3回ほど通い、1回に4~5時間かけて透析を行います。

腹膜透析とは

腹膜は胃・腸・肝臓などの表面と腹壁の内側を覆っているひとつづきの膜です。この腹膜を使って血液を浄化するのが「腹膜透析」です。医療機関ではなく自宅などでできます。
腹膜透析は血液透析に比べて、次のような長所があります。

腹膜透析

一方、腹膜透析では交換時の感染による腹膜炎や、長期化すると腹膜の硬化症に注意する必要があります。また腹膜の機能はしだいに低下するため、多くの場合、5年から10年で血液透析に移行しなければなりません。

「腹膜透析の手順・もう1つの治療の選択肢「保存的腎臓療法」」について詳しく知りたい方はこちら



腎移植とは

腎移植とは

「腎移植」には、親族などから提供してもらう生体腎移植と、死亡した方から提供してもらう方法があります。腎移植を行えば健康な人とほぼ変わらない生活が期待できます。移植後に免疫抑制剤をのみ続けなければなりませんが、腎移植を受けた場合、生存率は高くなっています。

慢性腎臓病治療の突破口となるのか?慢性腎臓病の最先端治療

慢性腎臓病はこれまで、特効薬と呼べるものはなく、治療の中心は進行を遅らせることでした。しかし最新科学によって、腎臓の中で起きているミクロの現象が明らかになるにつれ、慢性腎臓病をより積極的に予防・治療できる新戦略が見え始めています。

慢性腎臓病の患者さんに投与される「EPO」

慢性腎臓病と重要な関わりがあるのが、体の酸素が欠乏した時に腎臓が出す物質「EPO(エポ、正式にはエリスロポエチン)」です。これはいわば、「酸素がほしい」という腎臓からのメッセージを伝える物質です。腎臓は、全身の"酸素の見張り番"。体内に酸素が少ないと感じると、EPOを放出します。これが血液に乗って運ばれ、「骨髄」で受け取られると、赤血球の増産がはじまります。酸素の運び屋である赤血球の数を増やすことで、全身をめぐる酸素量を増やすのです。腎臓は、日常生活でも常に微量のEPOを出し続けていますが、酸素の状態に応じて、その量を絶妙に変化させることで赤血球の数を調節し、全身の酸素状態の恒常性を適切に保っています。

実は慢性腎臓病の患者さんは、腎臓が出すEPOの量が減ってくることがわかっていて、そのため赤血球の数も減り、重度の貧血状態になってきます。そこで、EPOを薬として投与するなどの治療が行われています。EPOは、いまや医療の世界でかなり広く使われている物質となっているのです。

「慢性腎臓病を治す研究 最先端の治療・予防法とは」について詳しく知りたい方はこちら



食事に気をつけて、腎臓の負担を軽減しよう!

慢性腎臓病の治療では食事の改善はたいへん重要です。腎臓は飲食の影響を受けやすいため、食事に気をつけることで腎臓の負担を軽減し、病気の進行を遅らせることが可能です。

慢性腎臓病になったらすぐ始めたい自己対策 食事療法

慢性腎臓病の食事療法は、腎臓の働きが健康なときの60%未満になるステージG3aから始めます。
食事療法の基本は、「減塩」「たんぱく質制限」「適正エネルギー量摂取」の3つです。また、必要に応じて「カリウムやリンの制限」を行います。

食事療法の基本

食塩のとり過ぎは高血圧につながるため、1日3g以上6g未満にします。薄味に慣れることから始めましょう。
肥満は慢性腎臓病を悪化させる要因の一つなのでエネルギーのとりすぎは控えます。
たんぱく質は体内で分解されて老廃物となり、ろ過する腎臓の負担を増やすため、摂取を制限します。

1日のたんぱく質摂取目標
食品に含まれるたんぱく質量

たんぱく質は、肉や魚だけでなく、主食であるごはんやパンにも含まれています。摂取する際には注意が必要です。

また、慢性腎臓病が進行すると尿からカリウムが排出されにくくなるため、ステージG3bの場合で1日2000mg未満、ステージG4では1日1500mg未満に制限します。
リンはたんぱく質を制限すれば自然と制限されるミネラルの1種ですが、最近はリンが含まれている食品添加物が増えているので、加工食品にも注意が必要です。

腎臓病の患者さん用に市販されている「治療用特殊食品」は、たんぱく質やカリウムがほとんど含まれておらず、効率よくエネルギーをとれるように作られています。「治療用特殊食品」を利用するのも便利です。

「慢性腎臓病の自己対策 食事療法」をくわしく知りたい方はこちら



透析中の人でもできる!慢性腎臓病の人のためのおすすめ運動

これまで慢性腎臓病の患者さんは、運動をすると腎臓に負担がかかると考えられてきたため、運動することを制限されていました。しかし現在では、慢性腎臓病への運動の効果が最近いろいろと明らかになってきたことから、運動を推奨する方向に変わっています。

有酸素運動とレジスタンス運動

慢性腎臓病には、ウォーキングなどの有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせて行うことがすすめられます。
運動を始める前には、体を柔らかくしたり温めたりする準備運動も行ってください。また、運動は病態が安定している人に限り広くすすめられています。医師に相談してから開始してください。また、運動中に体調が悪化した場合は運動を中止してください。

簡単にできるレジスタンス運動

【片足立ちの運動(ダイナミックフラミンゴ)】

レジスタンス運動
レジスタンス運動

まず、安定した椅子や手すりに つかまります。そして片方の脚を前のほうに5センチ程度上げます。この状態で1分間静止します。目は両方とも明けておきます。続いて、もう片方の脚を上げて同じく1分静止します。これを1日3回、朝・昼・晩と行ってください。
この運動は体のバランスもよくなり、普段ふらつく方は転倒予防になります。

【ほかのレジスタンス運動】
スクワットや腕立て伏せ、腹筋、スポーツ施設などの専用器具を使ったレジスタンス運動もすすめられます。

透析をしている人も運動を

慢性腎臓病で透析を受けている人にも有酸素運動とレジスタンス運動はすすめられます。その場合、透析の最中に運動を行えば時間を有効に使えます。透析中に運動する場合の注意点を下に示します。

透析中の注意点

ゴムバンドを使ったレジスタンス運動

透析中にできるレジスタンス運動として、市販のゴムバンドを使ったトレーニングを紹介しましょう。

ゴムバンドでレジスタンス運動
腕を90度上げる運動

まず、一方を足に掛け、一方を手に持ち、ゴムバンドを伸ばしながら腕を90度上げる運動です。透析用のカテーテルを付けていない腕を使います。腕などの筋肉が鍛えられます。10回1セットで体力に合わせて繰り返します。

「慢性腎臓病の運動をする際の注意する点」についてはこちら
「3分でできる「腎臓体操」や負担の少ない「らくらく筋トレ」」詳しいやり方はこちら