2017年04月27日(木)放送

メディカルジャーナル「人工知能が医療を変える」

人工知能とは

人工知能

 人工知能の定義は明確ではありませんが、おおまかにいえば「人間の知的な機能を機械に代替させたり、再現させようとする試み」です。その実現のために使われているのが、「機械学習」と呼ばれる技術です。機械学習とは、機械が膨大な量のデータを読み込んで学習し、迅速に現状を判断したり、将来を予測したりする解析技術のことです。機械学習が得意としているのが、膨大なデータの中から何らかの共通する特徴を見つけたり、シミュレーションを行うことで最適な解決法を見つけ出したり、必要なものを素早く検索することです。

医療における人工知能

 医療の分野では、人工知能に多くの患者のデータや関連する医学論文などを学ばせることで、患者にとって最適な診断や治療をすばやく推定できるようになると期待されています。人工知能の医療応用は、海外を中心に、がん、皮膚科、放射線科の分野などですでに始まっています。国内でも白血病の治療に用いられました。そしていま、うつ病や認知症など精神科の病気の診断を、人工知能が支援するという研究が、慶應義塾大学医学部で進められています。

精神科の病気 診断の難しさ

精神科の病気の診断

 精神科の代表的な病気には、うつ病、統合失調症、不安症などがあり、国内では約320万人の患者さんがいると推計されています。また、認知症の患者さんは約462万人と推計され、さらに増える傾向にあります。こうした病気を診断する基本は、患者と医師の会話です。医師は会話を通して患者の気分、考え方、日常生活の様子、症状などを聞きとり、表情や声、口調、体の動作などを観察します。その上で、典型的な患者とどう類似しているか、あるいは正常と考えられる範囲をどの程度逸脱しているかを見極めて、診断します。例えばうつ病の患者さんの場合、表情が暗い、声が弱々しい、口調に抑揚がない、動作や応答に時間がかかる、話の内容が悲観的だったり自分を責めたりするなどの特徴が見られます。

うつ病の特徴的な症状
暗黙知と診断

 一方で、表情や声、口調、体の動作などの観察は、医師の経験や勘に頼る部分が大きいとされています。このような「言葉では表現しにくい知識」のことを「暗黙知」と言います。暗黙知はあいまいで客観性に乏しく、医師の考え方やとらえ方で判断が変わってくる場合があり、特に病気の「重症度」の診断は難しいという課題があります。

人工知能による診断支援技術の研究

研究目的

 精神科の病気の診断が抱える課題への対策として、人工知能を活用した研究プロジェクトが2015年11月からはじまりました。研究の目的は、表情、声、口調、体の動作、会話内容を数値化して、精神症状の重症度診断の指標を明確にし、リアルタイムで医師の診断を支援する技術を開発することです。現在、複数の医療機関が協力し、多くの患者さんと健康な人のデータを、本人の同意を得て集めている段階です。

カメラやマイクで収集

 診察室で医師と会話をしている患者の声の質、会話の内容、話す速度、応答の速さをマイクで記録します。表情の動きはカメラで記録し、同時に赤外線カメラで動作の速さや落ち着きのなさなどを記録します。それ以外にも、患者さんにリストバンド型の機械を装着してもらい、日常の活動量や睡眠のデータを記録します。集めたデータは人工知能のメインコンピューターに随時送られます。データを大量に集めて人工知能に解析させ、分類・数値化することでうつ病などの新しい評価法や診断法の1つになることが期待されています。

 うつ病の場合は2~3年以内にいつごろ実用化できるかの見通しを立てられるのではないかとされています。医療現場で使われるようになれば、うつ病の重症度を明確に診断できる可能性があり、薬の治療効果も評価しやすくなります。その結果、新薬の開発が進むことも期待されています。うつ病のほかにも、認知症で同様の取り組みが進められています。認知症の場合、特に言葉に表れる症状がカギになる可能性があり、そうしたデータの収集および研究が行われます。

※2017年4月現在の情報です。

詳しい内容については、きょうの健康テキスト6月号に掲載されています。
きょうの健康テキスト6月号