脊髄損傷への画期的な治療法が登場!常識をくつがえす再生医療

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一度傷ついた神経は治らない、その常識が覆るかもしれない。これまで、突然の事故で脊髄を損傷すると、有効な治療法がなく、運動機能に重い障害を抱え、車いすや寝たきりを余儀なくされてきた。その理由は、脊髄が、いわば脳からの体への神経の束で、この神経が傷つくと治す方法がなかったからだ。ところが、この傷ついた脊髄を治療できる大きな可能性がでてきた。
その方法とは「再生医療」。私たちの体の細胞の力を使い、傷ついた脊髄を治療できる可能性が広がってきた。この治療は厚生労働省に承認され、2019年5月から健康保険が適用される。

一縷の望みをかけた再生医療

医師と患者

取材チームが出会ったのが、最重症の患者の一人、小林義章さん。仕事中に転落し、首の部分の脊髄を激しく損傷した。最も重症の完全まひに陥っていた。自分で呼吸するのも難しく、気管を切開、酸素を送り込まなければいけないほどだ。
「もう回復の可能性もない、設備が整った施設を探してください」と医師に告げられていた。
 何とか回復できる方法はないのか?娘が見つけたのが札幌医科大学で行われていた再生医療の治験だった。小林さん夫婦は、一縷の望みをかけて、治験への参加を決めた。

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札幌医科大学の再生医療では間葉系幹細胞という私たちの体の中にある細胞を使う。骨の中にある、骨髄を取り出し、そこから、間葉系幹細胞だけを選り分け、2週間かけて1万倍にまで増やし、点滴で間葉系幹細胞を点滴で投与するというものだ。
小林さんに幹細胞が投与されたのは、事故から1か月半が経過した後だった。通常なら、もう大きな回復が見込めない時期に入っていた。
そのような中、変化が現れたのは、細胞の投与から1週間後のことだ。病室でのリハビリテーション治療で、理学療法士は呼吸のためのリハビリテーションを行っていたときに、わずかだが小林さんの吐き出す息の音が聞こえたのだ。呼吸の機能回復が起こり始めていたのだ。

間葉系幹細胞とは

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再生医療というとiPS細胞を思い浮かべる人も多いだろう。人工的に作り出すiPS細胞とは違い、間葉系幹細胞は、私たちの体の中に存在している。受精卵から体の細胞が作り出されるときの、いわば中間段階の細胞で幹細胞と呼ばれるものの一つだ。20年前から研究が進んでいたため、ようやく実用化の段階に入った。間葉系幹細胞は、傷ついた脊髄のところにたどり着くと、弱った神経細胞を活性化したり、傷ついた神経細胞を修復したり、新たな神経細胞を作り出すといった様々な働きで、傷ついた脊髄を治していくと考えられている。

呼吸が回復、そして、「言葉」を取り戻す

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小林さんの回復は、ゆっくりと確実に続いた。間葉系幹細胞の投与から2か月がたったとき、口から水をわずかだが、飲み込むことができた。そして、体の感覚が徐々に戻り始めたのだ。そして、投与から7か月が経過したとき、息を吐き出す力が回復してきたため、気管支に明けた管を、話ができるタイプへ変更された。
初めて聞く小林さんの声。「苦労かけた。それだけや」。札幌医科大学の医師や妻への感謝の言葉だった。その後、札幌医科大学を退院した小林さんは、呼吸の機能が回復。気管支に入れた管も取り除く事ができた。事故から2年半後には自宅に戻ることができた。今の目標は、動くようになってきた左腕で自分で食事をすることだ。

始まった脊髄損傷への再生医療

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治験の結果を審査した結果、国はこの再生医療を条件付きで承認した。
今後7年間で効果と安全性を引き続き確認することが条件だ。
正式には「条件および期限付き承認」と呼ばれ、再生医療に使う細胞などの製品については、有効性が推定され、安全性が確認されていれば、国は、条件および期限付きで、特別に早期に承認できる。原則として7年を超えない範囲で再度、申請を行い承認するかどうか審査が行われる。

2019年度は細胞培養の施設の関係で、札幌医科大学のみで治療を行います。今後、徐々に広がっていく見込みです。脊髄損傷で重症度など細かく条件が定められています。詳しくは、札幌医科大学附属病院のホームページをご覧ください。
※NHKサイトを離れます

この記事は以下の番組から作成しています

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    寝たきりからの復活 ~密着!驚異の“再生医療”~