最新の「遺伝子検査」 その妥当性やDNAの個性に合わせた個別化治療

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人体(NHKスペシャル)

今、世界中で遺伝子検査サービスが大流行しています。ある調査によると、2019年初めまでに、2600万人を超える人が消費者直販型の遺伝子検査を受けたと推定されています。とても身近なものになりつつある遺伝子検査ですが、はたして、こうした検査の結果はどう受け止めたらよいのでしょうか。また医療の世界でも、遺伝子検査が大きく注目されています。これから必ずや身近なものになる遺伝子検査について、今こそ知っておきたい情報をご紹介します。

遺伝子検査を行うために唾液を採取する
遺伝子検査を行うために唾液を採取する。

急速に身近になる「遺伝子検査」

この10年ほどの間にDNAの解析技術が急速に進歩したことで、遺伝子検査にかかる費用も下がり、短時間で行えるようになりました。人体を形づくる多くの細胞にDNAがあります。遺伝子検査とはこのDNAを調べる検査です。少量の唾液を容器に入れて送るだけ、という手軽さで大人気の、消費者直販型の遺伝子検査。唾液の中に含まれる細胞の中からDNAを抽出し、DNA配列を調べます。ヒトの細胞内に含まれるDNAは主にアデニン、グアニン、シトシン、チミンという4種類の塩基からなり、この塩基の並び=「DNA配列」が生命活動の根幹を担っています。

最近では、遺伝子検査を受けることで、がん、糖尿病、高血圧、ぜんそく、花粉症など病気のかかりやすさや、はげやすいか、太りやすいかなどの体質について、数百項目にも及ぶ自分の遺伝的傾向を知ることができます。体質や病気と相関するDNAの配列を見つけ出す研究によって、体質の個人差を生むDNAの配列の違いが、次々に明らかになってきています。こうしたデータの蓄積に合わせて、一般消費者向けの遺伝子検査も最新の知見を取り入れ、日々進化しています。

通常、個人のもつDNAは誕生後はほとんど変化しません。DNAの配列から読み解かれた病気や体質は、まるで生まれ持った運命であるかのように感じてしまいます。では、現在の遺伝子検査で、自分の「運命」はわかってしまうのでしょうか。

体質を決める「DNAの数」と「環境」の影響

DNA解析の結果を評価するときのポイントの一つが、一つの体質や特徴を決めるのに「関与しているDNAの数」です。最先端のDNA研究からわかった重要なことは、私たちの体質や特徴は、驚くほど多くのDNAの関与によって決まっているという事実です。

例をあげるなら、身長はわかっているだけで700か所近いDNAが関与しています。それに対して、現在の一般的な遺伝子検査では、多くの場合、1つの体質(項目)について、1か所のDNAとの関係で調べられています。

例えば、「はげやすさ(男性型脱毛症になりやすいか)」を例にして考えてみます。一般的に行われている遺伝子検査の結果、「はげにくい」という結果が得られたとしましょう。それはあくまでも1か所のDNAを調べた結果です。そのDNAを持つ人は、確率的にはげていない人が多いことを示しています。しかし、「はげやすさ」は、他にも複数のDNAが関与しているため、他のDNAがもつ働きによって、実際には、はげる可能性もあるのです。つまり、ある体質とDNAの関係は1対1対応ではなく、1対複数のDNAとなっていることがほとんどなのです。

さらに、もう一つ「はげやすさ」を決める大きな要因として「環境」があります。睡眠時間やストレスなどの環境要因は、その人がはげるかどうかに、大きな影響を与える可能性があります。検査の項目にもよりますが、私たちの多くの体質は、遺伝的要因と環境要因の両方の影響を受けると考えられています。

このように、遺伝子検査には「関与しているDNAの数」と「環境」の影響があることを必ず念頭において、結果を受け止めることが必要です。

関与するDNAの数

特定の結果を見ないという選択肢

遺伝子検査自体の性質を理解し 、検査から導かれた結果を自らの生き方や健康にどのように役立てていくのかが問われる時代に入ってきています。検査の中には、いわゆる遺伝病や、アルツハイマー病の発症リスクを高めるDNAのように、ある1つのDNAの配列をもつだけで、発症リスクが著しく高まるものもあります。そうした項目の検査結果については、将来の発症リスクを、高い確率で知ることになるため、結果を見るか見ないかは、慎重な判断が必要になります。

検査を受ける前に、専門家の意見を聞くこと。また検査後、心の準備ができていない場合には、結果を見ないという判断も大切です。検査によっては、WEB上などで結果を開く前に、結果を本当に見たいかどうかを、確認するものも多くなっています。

医療を変える!DNAの個性に合わせた個別化治療

医療の世界でも、遺伝子検査は欠かせないものになりつつあります。その人がもつDNAの配列次第で、ある治療法や薬が効くか効かないかが決まり、適切な処方量も変わることがわかってきています。

最近、日本でも、がん組織のDNAの配列を調べて、ある特定の遺伝子に変異があった場合には、その遺伝子変異に効果が期待できる治療や投薬を選択する「がんゲノム医療」が急速に広まりつつあります。

こうした検査は、ひとり一人がもっているDNAの配列の違いを検出しています。DNAのいわば「個性」は、近い将来、予防医学にも取り入れられると考えられています。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
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