肥満で起こるさまざまな病気


肥満というと、メタボリックシンドロームとの関係がよく知られています。へそ周りが太くなる内臓脂肪型肥満であることに加えて、糖尿病、高血圧、脂質異常症のうちの2つ以上に当てはまるとメタボリックシンドロームと診断されます。
しかし、肥満が引き起こす病気はこれだけではありません。高尿酸血症とそれが進行して起こる痛風、狭心症・心筋梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、脳梗塞、月経異常・不妊、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、ひざ・股関節・背骨・手指などの関節の障害も、肥満との関連が強いことがわかっています。肥満の指標となるBMI(体格指数)が25以上であることに加えて、これらの病気が1つでもある場合、肥満症として治療の対象となります。
〔BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)〕
健康保険の適用となり、内科などを受診することがすすめられます。医療機関で肥満症と診断された場合は、減量指導や肥満にともなう病気の治療を受ける必要があります。これらの病気は肥満が原因で起こりやすい病気ですが、減量することで改善させることが期待できる病気でもあります。
病気を引き起こす「3つの脂肪」


体の中で脂肪がつきやすいのは、皮膚の下と、内臓・特に腸の周りの2か所です。皮膚のすぐ下、腹筋の外側につくものを皮下脂肪といいます。皮下脂肪が多くたまる皮下脂肪型肥満になると、下腹部やおしり、太ももにつきやすいため、下半身太りの体型になります。
一方、腹筋の内側、腸などの周りにつくものを内臓脂肪といいます。内臓脂肪が多くたまる内臓脂肪型肥満になると、へそ周りがぽっこりと出た体型になります。また、体内の脂肪が増えすぎると、本来は脂肪がたまらない場所に蓄積されます。これを異所性脂肪といい、肝臓や筋肉、すい臓などにたまることがあります。
この3つの脂肪は、いずれも、たまりすぎることでさまざまな病気を起こします。なかでも、もっとも病気につながりやすいのが内臓脂肪です。
「内臓脂肪」のたまりすぎで起こる病気

内臓脂肪がたまりすぎると、内臓脂肪を構成している脂肪細胞が炎症を起こします。そのため、脂肪細胞が、体の機能を調節するために分泌しているさまざまな生理活性物質のバランスが崩れてしまいます。内臓脂肪が増えると、血糖値を上げるTNF-α(アルファ)や血圧を上げるアンジオテンシノーゲンの分泌が過剰になり、血糖値や血圧を下げるアディポネクチンの分泌が減ります。
その結果、糖尿病や高血圧を起こしやすくなります。また、内臓脂肪が増えると、血液を固まりやすくして出血を防ぐPAI-1(パイワン)が過剰になり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。血栓が増えたり、糖尿病や高血圧によって血管の動脈硬化が進行すると、心臓や脳の血管が詰まって、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなります。
日本人は内臓脂肪がつきやすくメタボになりやすい


実は、日本人を含め東アジア人は、食べ物から摂取したエネルギーを皮下脂肪よりも、内臓脂肪としてためやすいのです。そのため、軽度の肥満でも、内臓脂肪のたまりすぎによって起こる病気のリスクが高くなります。こうしたことから、日本では肥満の基準が厳しくなっています。
世界的には、BMIが30以上の場合を肥満としています。たとえば、身長170cmの場合は体重86.7kg以上だと肥満となります。しかし、日本人の場合、BMIが25以上を肥満と判定します。たとえば、身長170cmの場合は体重72.25kg以上だと肥満となります。
実際に、30歳以上の日本人およそ15万人を調べた結果、もっとも病気の発症が少ないと考えられているBMI22の発症率を1とすると、BMI25で高血圧や高中性脂肪、低HDL(善玉)コレステロール血症の発症が2倍でした。また、BMI27で高血糖の発症が2倍に、BMI29で高LDL(悪玉)コレステロール血症の発症が2倍でした。BMI30未満の軽度肥満であっても、メタボリックシンドロームのリスクが高くなるのです。
内臓脂肪は「がん」とも関係する


肥満は、がんの発症と関係していることがわかってきています。脂肪細胞が分泌するアディポネクチンには、細胞の増殖を抑える働きもあるのですが、内臓脂肪が増えすぎてアディポネクチンの分泌が減ると、がん細胞が増殖し、がんを発症するリスクが高まると考えられています。
肥満が関係するがんの種類は人種などによって異なると考えられていますが、日本人の場合について関連するがんが発表されています。国立がん研究センターの大規模な調査の結果では、閉経後に起こる乳がんは、肥満との関連が「確実」とされました。大腸がんと肝がんでは、肥満との関連が「ほぼ確実」とされています。また、子宮内膜がんと閉経前の乳がんでは、「肥満と関連している可能性がある」とされています。
内臓脂肪は「認知症」とも関係する

内臓脂肪が多いと、認知症につながりやすいこともわかってきています。内臓脂肪が多い人は動脈硬化が進行しやすく、それによって脳梗塞を起こし、脳血管性認知症を発症することがあります。それとは別に、アルツハイマー型認知症も発症しやすいと考えられています。
そのメカニズムはまだ明らかにはなっていないのですが、アメリカの調査では、適正体重(BMI18.5~25未満)の人たちに比べて、BMI30以上の肥満の人たちは脳血管性認知症の発症が5倍、アルツハイマー型認知症の発症が3.1倍でした。アメリカ人のBMI30以上は、日本人のBMI25以上に相当すると考えられています。
「皮下脂肪」のたまりすぎで起こる病気
皮下脂肪のたまりすぎは、放置していると、体重による負担が原因で、ひざや股関節、背骨などに障害を起こしやすくなります。また、のどの周りに皮下脂肪がつきすぎると、気道が狭くなり、眠っている間に一時的に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群を起こすことがあります。
女性の場合、皮下脂肪のたまりすぎは、女性ホルモンに影響し、月経異常や不妊になりやすいことがわかっています。これらはやせすぎで起こることが知られていますが、極端な皮下脂肪型肥満も原因になります。また、閉経後の乳がんの発症と関連していることがわかっています。
「異所性脂肪」により起こる病気


異所性脂肪は、たまった場所によってさまざまな病気を起こします。肝臓に脂肪がたまった脂肪肝になると、非アルコール性脂肪性肝疾患が起こりやすくなります。進行すると、肝細胞が炎症を起こすため肝機能が低下し、肝硬変や肝がんを起こすことがあります。筋肉に脂肪がたまった脂肪筋になると、筋肉が血液中のブドウ糖(血糖)を取り込めなくなるため、血糖値が高くなります。その結果、糖尿病になりやすくなります。すい臓に脂肪がたまった脂肪すいになると、すい臓からインスリンが分泌されにくくなり、血糖がコントロールされにくくなるため、糖尿病になりやすくなります。
異所性脂肪、内臓脂肪とも、「たまりやすいけど、減りやすい」という特徴があります。ダイエットにより、3~6か月で体重の3%程度減らすだけで、こうした脂肪を減らすことができると考えられており、実際に血圧、血糖、コレステロールなどの値が改善することがわかっています。