働き方改革関連法
2019年から施行される「働き方改革関連法」。この法律の一番の特徴が「長時間労働の是正」です。
主なポイントの1つが「残業時間の上限の規制」です。これまでは、残業時間の上限には、法律の強制力はなく、事実上、ほぼ無制限の残業が可能となっていました。それが、今回の改正では、特別な場合であっても、上限は1か月100時間未満にすること、2か月から6か月の平均は、80時間以内とすること、1年間の合計は720時間以内にすることとしています。
もう1つのポイントが「勤務間インターバル制度」の普及促進です。勤務間インターバルとは、終業と始業時刻の間に十分な休息時間を確保するというものです。具体的には、11時間以上とることが望ましいとされています。
労働時間と健康
一般的に、労働時間は8時間、昼休みは1時間です。これに往復の通勤時間、食事やお風呂などの時間を含めると、およそ14時間になります。1日は24時間なので、残りは10時間ですが、この限られた時間をどう使うかということが重要になってきます。残業時間が5時間だと、睡眠が5時間となります。医学的な研究によると、睡眠時間が5時間を切ると、脳卒中や心臓病のリスクが2倍以上になるといわれています。
テレプレッシャー
「テレプレッシャー」とは、勤務時間外のメールやSNSなどに、早く返信しなければというプレッシャーのことで、こうした衝動や強迫観念を持つ人も少なくありません。いくつかの研究報告では、テレプレッシャーのある人は、ストレスを抱えたり、睡眠の質が低下するといわれています。フランスでは、休日に上司のメールをチェックしなくてよいという労働者の権利が認められています。仕事の生産性を高めるには、オン、オフのメリハリが重要といわれています。
プレゼンティーイズム
従業員が健康でないと仕事にも影響し、会社にとっても労働生産性の低下や、業績の低下に関わってきます。「出勤しているものの、何らかの不調を抱え、生産性が低下している状態」のことを「プレゼンティーイズム」(疾病就業)といいます。
生産性の損失に影響を与える「医学的課題のトップ10」の1位は「腰痛」といわれています。「欠勤」(アブセンティーイズム)の約3倍も、プレゼンティーイズムによる損失が大きいのです。「うつ」や「睡眠障害」「肥満」などでも、同様のことがいえます。
働き方改革 成功のカギ
働き方改革の成功につながる3つの要素として、「経営トップの関与」(コミットメント)、「社員の参画」、「社員と組織の健康リテラシーの向上」が挙げられます。経済産業省は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを推奨しています。従業員の健康保持・増進を行うことが、生産性を高めて企業の業績にもつながるという考え方です。
健康リテラシー(ヘルスリテラシー)
健康や医療に関する正しい情報を入手し、見極め、理解し、活用できる能力のことを「健康リテラシー」、または「ヘルスリテラシー」いいます。海外の研究では、病気と健康リテラシーの関連が実証されています。例えば、健康リテラシーの低い人は、糖尿病のコントロール状況が悪い、救急外来の受診が増える、医療費が高くなる、検診の受診頻度が低いなどの差が指摘されています。
日本人は、健康リテラシーが意外にも低いことがわかっています。ヨーロッパとアジア各国の健康リテラシーを比較した調査によると、日本の場合、赤や黄色の「健康リテラシーが低い」人の割合が、ヨーロッパやアジアの国々と比べても低いということがわかります。
生活習慣病なのに治療を受けていない人の割合は、非常に高いことがわかっており、糖尿病だと約50%、高血圧は約70%、脂質異常症は約90%以上が未治療者といわれています。一方、健康診断で糖尿病や高血圧を指摘された労働者が医療機関を受診した理由(=「受診が成功した理由」)を調べた研究によると、1番目が「経営者の理解」、2番目が「健康リテラシー」となっています。経営者が、働く人の健康づくりの重要性を理解し、労働者自身も健康リテラシーを身につけることが大切なのです。もし、健康に関する知識があまりない人の場合は、産業医や保健師などの専門家に相談するとよいでしょう。