原因不明の胃痛や不快な症状「機能性ディスペプシア」とは

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機能性ディスペプシア胃・腸・食道

病名から読み解く機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアは、2013年に健康保険による治療の対象になった比較的新しい病気です。まだ、病名が広く知れ渡っていませんが、日本人の10人に1人はかかっているという意外と身近な病気なのです。

どんな病気か説明するにあたり、機能性ディスペプシアという病名から読み解くとわかりやすいかも知れません。「ディスペプシア」の語源はギリシャ語です。「ディス」が「悪い」。「ペプシア」は「消化」を意味する「ペプシ」からきている言葉、つまり、「消化不良」という意味でした。それが転じて、今では「胃の不快な症状」を医学用語で「ディスペプシア症状」と呼んでいます。

そして、「ディスペプシア」の前についている「機能性」は、胃の動きや働きそのものを差します。この働きの異常を「機能的な異常」といいます。つまり機能性ディスペプシアの病名には、『胃の形には異常はないけれどうまく動かなくて働かなくなる』という意味が含まれています。

生活の質を著しく落とす 胃の不快な症状

機能性ディスペプシアの症状

機能性ディスペプシアの代表的な症状は4つです。

「胃の痛み」、胃が熱くなる「しゃく熱感」、食べたらすぐお腹が張った感じがする「胃のもたれ」、最後に、すぐにお腹いっぱいになる「早期満腹感」です。
胃もたれや早期満腹感は当然食事の後起こるのですが、胃の痛みやしゃく熱感といった症状も食後に起こることが多いということが最近分かってきました。

機能性ディスペプシアは、命に関わるようなこわい病気ではありませんが、こうした胃の不快な症状を抱えていると、精神的にも肉体的にも負担がかかり生活の質が下がります。

原因は胃をコントロールする自律神経の乱れ

胃には食べ物をためる・混ぜる・送り出すという働きがある

機能性ディスペプシアは、胃の働きが悪くなる病気です。正常な状態の胃は、口から入った食べ物が食道を通って胃に入ってくると、胃の上の部分を広げて胃の中の食べ物をためます。さらに、波打つように動くぜんどう運動によって食べ物と胃液を混ぜ合わせ、食べ物を消化して粥(かゆ)状にします。そして、最後に食べ物を十二指腸へ送り出すというのが、胃の主なはたらきです。つまり、胃には食べ物を「ためる」「混ぜる」「送り出す」という、3つの働きがあります。

機能性ディスペプシアを発症したとき、例えば食べ物を「ためる」機能がうまく働かなくなると、食べ物が食道から胃へ入ってきても胃の上部がうまく広がらず、胃の上の部分にとどめることができなくなってしまいます。これにより、早期満腹感などが引き起こされます。また、「送り出す」機能がうまく働かない場合もあります。すると胃の中にある食べ物を十二指腸へうまく送ることができず、胃の中に食べ物が長くとどまってしまいます。これにより、胃もたれなどが引き起こされます。

また、機能性ディスペプシアの患者さんの多くには、「胃の知覚過敏」があることが分かっています。「知覚過敏」の状態では胃酸の分泌や胃の動きに敏感になり、痛みやしゃく熱感、もたれなどの症状をより強く感じてしまいます。

では、どうして胃の機能が正常に働かなくなるのでしょうか。実は、胃の機能は自分の意思にかかわらず働く「自律神経」によってコントロールされています。この自律神経の乱れが機能性ディスペプシアをひきおこす原因と考えられています。自律神経は自分の体を守る神経です。ですから、「恐怖」「不安」「危険」にたいへん敏感で、強いストレスがかかると乱れ、それに伴い胃の動きは悪くなり知覚過敏が起こるようになるのです。

機能性ディスペプシアの診断

機能性ディスペプシアの診断は、胃の痛み、胃もたれなどの胃の不快な症状が長く続いているかがポイントになります。不快な症状が週1-2回以上現れて、1か月以上慢性的に続いているかどうかが一つの基準です。

また、機能性ディスペプシアの診断で薬が処方されるためには、これまでは、胃の内視鏡検査を必ず行うことになっていました。2021年に改訂された新しい治療ガイドラインでは、患者の年齢や、ピロリ菌感染の状態、これまでの検査歴などを総合的に判断して、明らかにがんや胃潰瘍などの病気でないと医師が判断できる場合は、新たに画像診断をしなくてもよいのではないか、と提案しています。
この考え方が一般的になれば、診断や治療の遅れを防ぐと同時に、患者さんの検査の負担を減らすことにもなります。

機能性ディスペプシア 薬の治療

機能性ディスペプシアの治療薬

機能性ディスペプシアの症状が起こる原因は、運動機能の異常と知覚過敏です。治療は、この二つを改善するように進められます。胃で起こっている異常を改善する方法として、「アコチアミド」という薬が、運動機能改善に高い効果が期待できるとして処方されます。また、治療ガイドラインでは漢方薬・六君子湯(りっくんしとう)の処方も勧められています。もう一つ使われるのは酸分泌抑制薬です。胃酸が原因となって症状が出ていることもあるからです。

これらの薬をのんでも症状が改善しない場合で、不安感が強く、それが症状に大きく影響していると考えられた場合は、抗不安薬を使用することもあります。さらに、初期治療とは違うタイプの運動機能改善薬や漢方薬を使うこともあります。

自律神経の働きを安定させるための生活改善

機能性ディスペプシアの患者さんは、健康な人に比べてストレスを強く感じている、睡眠が不足している、朝食を抜く人が多いことなどがわかっています。自律神経の働きを安定させるためにも生活改善は欠かせません。まずは、夜更かしをせず十分な睡眠時間をとり、朝は決まった時間に起きるという生活のリズムを整えることが大切です。

夏は冷房などで体が冷えてしまうことがありますが、温度差は自律神経にはよくないので冷えすぎないように注意が必要です。また、喫煙は自律神経、とくに交感神経によくありません。煙草を吸っている人はこの機会に禁煙をお勧めします。

食事についてですが、機能性ディスペプシアの患者さんは胃を働かせる自律神経が弱っているだけで、基本的に胃そのものには異常がありません。ですから、好きな物を食べていただいて結構です。自分の好きなものを食べることは、ストレス解消にもなります。ただ、過度の食べ過ぎや早食いは良くありません。節度を持って規則的に食べる、これだけで十分です。

信頼出来る医師と治療を

機能性ディスペプシアの治療で最も重要なことは、信頼できる医師を見つけることです。具体的にはよく話を聞いてくれて、病気について十分に説明してくれる医師です。このことは、機能性ディスペプシアの治療ガイドラインに明記されている重要な要素です。

胃の不調が長く続いている機能性ディスペプシアの患者さんは、「大きな病気ではないか」「この状態はもう治らないのではないか」などの不安を抱えている方、そして不安の強い方が多いことが知られています。しっかり説明し、安心を保証してくれる医師を見つける、これが治療の重要な第一歩です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年8月 号に掲載されています。

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