Aさん(女性・68歳)がはじめて体に異変を感じたのは、40代後半。お風呂で体を洗っているときのことでした。股間を洗おうとしたら、「ちつ」の奥にあるピンポン球のようなものに触れたのです。Aさんは、初めての感触に驚いたものの、特に痛みはなく生理も順調だったことから、あまり気にとめていませんでした。
ところが、5~6年後。「ちつ」の奥にあった異物が、だんだん「ちつ」の入口まで下がってくるようになりました。異物は指で押すと奥に引っ込むのですが、長時間、立ち仕事をしたり、重い物を持ち上げたりすると、すぐにまた下がってしまうのです。趣味の太極拳をしていても、腰に力を入れる動作をすると異物が下がり、そのたびに練習を中断していました。
股間の異物感に加えて、2年ほど前からは、突然の強い尿意に襲われるようになりました。急いでトイレに向かっても間に合わないこともあったといいます。「切迫性尿失禁」と呼ばれる症状でした。夜も熟睡できず、外出もままならない。そんな日々に気持ちがどんどんふさいでいきました。
Aさんを悩ませていた股間の異物感や切迫性尿失禁は、「骨盤臓器脱」という病気が原因でした。骨盤臓器脱とは、骨盤の中にある、ぼうこうや子宮、直腸などの臓器を支えている筋肉(骨盤底筋)やじん帯が緩んだために、これらの臓器が下がって「ちつ」から出てきてしまう病気です。
出産・加齢・肥満が主な原因で、出産を経験した女性の約半数がなるとも言われています。また、慢性的な便秘があったり、立ち仕事や力仕事など、腹圧のかかる動作をすることが多かったりすると、骨盤臓器脱になりやすいと考えられています。Aさんも、3人の子どもを出産し、長年頑固な便秘に悩まされていました。
20年以上も骨盤臓器脱による不快な症状に悩まされ続けてきたAさん。恥ずかしさから治療を先延ばしにしていましたが、症状の悪化に耐えられなくなってきました。排便のたびに臓器が出てくるため、将来自分に介護が必要になったとき、他人に見られたり押し戻してもらったりすることに強い抵抗感を覚え、ついに、Aさんは専門医のもとで治療を受ける決心をしました。
Aさんの骨盤臓器脱はかなり進行していたため、診察した医師から「手術による治療」を勧められました。手術を受けても、性交渉が可能だという医師の言葉も、Aさんの背中を押しました。
Aさんが受けた手術は、「経ちつメッシュ手術」という方法です。ポリプロピレン製の薄い医療用メッシュを「ちつ」から骨盤内に入れ、緩んだじん帯の代わりにメッシュでぼうこうや子宮を支えます。別の手術法としては、「ちつ」からではなく、腹くう鏡でおなかに開けた穴からメッシュを入れる方法もあります。また、メッシュを使わず、ゆるんだじん帯や筋肉を縫い縮めるなどして補強する手術法もあります。
手術後、股間の異物感に悩まされることがなくなったAさん。骨盤臓器脱の手術を受けたことで、運良く切迫性尿失禁の症状もなくなりました。現在は、好きな太極拳にも、トイレを気にせずに打ち込むことができるようになりました。
「こんな快適な生活が20年ぶりに訪れるなんて思ってもみませんでした。楽しく前向きになり、今はすごく幸せです」