近視は失明につながる危険性も!原因や最新の治療法・予防法を解説

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近視 緑内障 視力や見え方の異常 目がおかしい

近視が失明につながる!?

いま世界中で近視が急増していると言われています。とくに、日本を含む東アジアで近視の割合が高く、若者の8割以上が近視という報告もあります。最近の研究で、失明につながるリスクが高まることもわかってきました。その理由は「眼球の伸び」です。

近視

通常、眼球はきれいな丸い形をしていますが、近視では眼球が後ろに伸びて、だ円のような形に変形してしまいます。眼球が伸びることで、本来網膜上で合うはずのピントが合わなくなってしまうため、物がぼやけて見えるのです。
眼球が伸びると、視力が低下するだけでなく、網膜が常に引っ張られた状態になることで、網膜や視神経に負担がかかります。そのため、網膜はく離緑内障黄斑部の病気など、失明につながる病気のリスクが高まってしまうのです。

子どもの近視が深刻に

スマートフォンやパソコンによる動画視聴、ゲームやSNS。さらにタブレット授業など、子どもの目には、かつてないほどの負荷がかかっています。

2021年、文部科学省は全国各地の小中学校で近視実態調査を実施しました。そこで行われた検査の一つが、眼球の長さ(奥行き)「眼軸長」を調べる検査です。近視が進行すると、下の画像のように眼軸長が伸びていきます。近視の進行を正確に測るには、この眼球の長さ(奥行き)がポイントになってきます。

正常な眼球
正常な眼球
伸びた眼球
伸びた眼球

今回の調査の結果、専門家の予想を超える子どもの近視の実態が明らかになりました。

眼軸長の平均

たとえば、小学6年生男子の平均は24.22ミリに達し、成人の平均24.21ミリと、ほぼ同じ長さになっていました。
中学3年生では、男女ともにかなり伸び、特に男子は成人の平均を大幅に超えていました。

そもそも眼球は、身長と同じように、生まれてから次第に発達し大きくなっていくものです。
小学6年生の時点で眼球が成人平均の長さに達していると、成長して大人になったときには、眼球がさらに伸び、近視がかなり進行してしまうおそれがあるのです。

視力検査ではわからない「隠れ近視」とは?

このような子どもの近視の実態は、一般的な視力検査だけでは分からないものです。アルファベットの「C」のようなマーク(ランドルト環)を使う、よく知られている視力検査は、ある程度の目安にはなるものの、目を細めて見るとよく見えたり、適当に「右」などと答えても正解してしまうことがあるなど、あまり正確とは言えません。このような視力検査で見逃されてしまう近視が「隠れ近視」です。

近視の割合

2020年に実施されたある小学校の調査によると、視力0.7未満で近視の子どもは、23%でした。ところが、眼軸長などを含めて改めて精密に検査すると、近視の割合は55%になっていました。
つまり視力検査では分からなかった「隠れ近視」が30%以上もいて、全体の半数以上が近視だったのです。

目の環境を調べる装置「クラウクリップ」

では、子どもの目にはどれくらいの負担がかかっているのでしょうか。

眼鏡に装着したクラウクリップ
眼鏡に装着したクラウクリップ

日常生活の中で目を使っている環境を調べるための装置が「クラウクリップ」です。眼鏡に装着すると、物を見ている距離や時間、明るさなど、目に関するさまざまなデータを集めることができます。

問題は距離だけではない?

例えば、近視が急激に進んでいた小学4年生(当時)のある児童の場合。

見ている距離

このグラフの線の長さは、見ている物と目との距離を示しています。
短い線が続いているところは、近くの物を見ているということを表しています。

近視に悩む児童では、30センチ以内の距離で物を見ている時間が長く続くことがよくありますが、この児童の場合は、その時間はそれほど長くなく、時々遠くを見ることによって中断されています。どうやら問題は別にありそうです。

屋外活動で近視の進行をストップ!

浴びている光の量

別のデータを見てみましょう。このグラフは、上記と同じ日にこの児童が浴びた光の量「照度」を示しています。照度が高い時間は短く、光をほとんど浴びていない時間帯もかなり多くあります。
実は、この児童は、学校では室内で過ごすことが多く、屋外での活動時間は1日あたり平均41分しかありませんでした。

最新の研究によれば、外に出て屋外活動をすることは、近視の抑制に効果があることがわかっています。その時間は、1日2時間以上とされています。
そこで、この児童と家族に屋外活動を増やすように指導すると、3か月後、目標の2時間までは増えなかったものの、84分にまで増加しました。すると、今までに急速に進んでいた近視の進行は緩やかになりました。

近視の抑制効果は、直射日光を浴びなくては得られないというわけではなく、日陰でも十分です。むしろ日なたでは紫外線の悪影響を受ける場合もあるので、夏は熱中症に気をつけて、日陰でよいから屋外に出る時間を増やすことが大切です。

国を挙げて近視予防!
シンガポールで行われた子どもへの最新の取り組み

現在、東アジアの国を中心に、国を挙げて近視対策に乗り出している国が出てきています。シンガポールもその1つです。

6~7歳の近視の割合

シンガポールとオーストラリアのシドニーに住む6~7歳の子どもたちを比較したところ、シドニーの子どもたちでは近視の割合が約3%だったのに対し、シンガポールの子どもたちでは約29%と、10倍近い差がありました。どちらも中国系の子どもたちで、両親の近視の割合もほとんど同じ。つまり、人種や遺伝的な差はありませんでした。差があったのは......学校以外での「屋外活動の時間」だったのです。

シドニーの子どもたちは、週に14時間(1日平均2時間)屋外で過ごしていたのに対し、シンガポールの子どもたちは、週にわずか3時間(1日平均約25分)しか屋外で過ごしていませんでした。
この報告に衝撃を受けたシンガポール政府は、子どもを持つ親に呼びかけて、週末に公園で遊ぶことを推奨し、公園で遊ぶとおもちゃや景品がもらえるなどのキャンペーンやイベントを企画して、子どもたちの近視を減らそうと取り組んでいます。

ほかにも、中国では、屋内にいても太陽光を浴びられるよう、ガラス張りの天井の校舎を建築するプロジェクトや、これまで昼寝に当てていた昼休みの時間を屋外活動に変更したり、近視をテーマにした絵本を無料配布したりするなど、やはり国を挙げて近視予防に取り組んでいるということです。

目薬にコンタクトレンズも 研究が進む近視の治療!

さらに、保険適用外ですが、日本でも受けられる治療を2つ紹介します。

①低濃度アトロピン点眼薬

こちらは、世界で最も広く行われている治療法です。
シンガポールの研究では、およそ60%の近視抑制効果が確認されています。
ただし、少なくとも5年以上の長期的な治療になります。

②オルソケラトロジー

夜つけて寝ると、翌朝視力が回復するというコンタクトレンズです。
角膜の表面の形を一時的に変えることによって視力を回復するというものです。
費用はやや高額ですが、近視の抑制効果が早く出やすい治療法です。
(20歳未満には専門医が慎重に処方します。)

大人の場合は、目の状態が変化しにくいため、近視抑制効果はあまり期待できませんが、治療法としての処方は可能です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年12月号に詳しく掲載されています。

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この記事は以下の番組から作成しています

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