血液がんの半数以上を占める悪性リンパ腫

2020年のがん罹患数を予測したデータによると、悪性リンパ腫は、子宮がんや食道がんよりも上位の8位に入っています。悪性リンパ腫は、血液のがんの半数以上、およそ6割を占める病気で、患者の数も近年、激増している病気です。
悪性リンパ腫の症状は?
悪性リンパ腫とは、白血球の一種、リンパ球ががん化する病気です。リンパ球は、体の中で免疫システムを担当しています。ウイルスなどの外敵と戦い、排除する役割です。このリンパ球を体の隅々まで運ぶために張り巡らされているのがリンパ管で、その途中にはリンパ節があります。主なものは扁桃腺、首、脇の下、脚の付け根などです。

悪性リンパ腫になると、多くの場合リンパ節が腫れてきます。がん化したリンパ球がしこりを作るのです。大きさは1センチ以上になることが多く、痛みはありませんが触ると硬く、複数ある場合もあります。風邪で扁桃腺が腫れた場合には、風邪が治れば腫れも治まりますが、悪性リンパ腫の場合は腫れがなかなか治まりません。そのため「腫れがひかない」といって病院を訪れ、この病気だとわかる場合が多いのです。
さらに進行すると、38度を超える熱が続いたり、半年以内に10%以上の体重減少や、ひどい寝汗などの症状が現れます。

また、リンパ球は全身を巡っているので、あらゆる臓器に腫瘍ができる可能性があります。胃や十二指腸、大腸、乳腺、脳など全身のさまざまな場所に腫瘍ができることがあり、それぞれ特有の症状が現れます。例えば、大腸の場合、お腹が張ったり、痛くなったりします。脳の場合は、頭痛や吐き気、手足のまひや痙攣(けいれん)などが現れることがあります。
自分のタイプを知ることが大切
悪性リンパ腫には70以上のタイプがあって、それぞれ悪性度や進行のスピードが違います。

リンパ球にはB細胞とT細胞がありますが、日本人の場合、4分の3はB細胞ががん化するタイプです。中でも一番多いのが「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」。3人に1人はこのタイプです。悪性度は中程度で、月単位で進行します。さらに「ろほう性リンパ腫」と「MALTリンパ腫」が続きます。どちらも悪性度は低く、病状も年単位でゆっくり進行します。他にもさまざまなタイプがあり、専門医でも分類するのが難しいことがあります。自分のタイプが何かを知るのは、病気の理解に役立ち、治療を進める上で大切です。
タイプ別の治療法
悪性リンパ腫の場合、胃がんや肺がんなどと同様、進行度合いをステージで表します。

例えば、リンパ節1か所だけに腫瘍がある場合はステージⅠ。2か所以上のリンパ節に腫瘍がある場合はステージⅡ。2か所以上のリンパ節に腫瘍があり、しかも横隔膜の上下、両方に腫瘍がある場合はステージⅢ。リンパ節の腫瘍に加えて、肝臓や肺など、ほかの臓器に腫瘍ができている場合はステージⅣ。このように病気のタイプと進行度を見極めてから治療を行います。悪性リンパ腫の治療は、それぞれのタイプによって異なります。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療法

日本人に一番多い「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の場合、R-CHOP(アールチョップ)療法を行います。Rとはリツキシマブという分子標的薬。CHOPは3種類の抗がん薬とステロイド薬を組み合わせたものです。このR-CHOP療法を3週間ごとに6回行い、CTやPETでも腫瘍が認められなくなる「寛解」をめざします。
副作用は他の抗がん薬と同様、食欲不振や吐き気、倦怠感、手足のしびれ、発熱や脱毛などに加えて、抗がん薬やリツキシマブによって白血球やリンパ球が減少するため、感染症にかかりやすくなります。細菌感染症のほか、ニューモシスチス肺炎や帯状疱疹にかからないような予防治療を行います。さらにステロイド薬を使用するので、寝つきが悪くなったり、イライラしたり、血糖値が上がって糖尿病になってしまう人もいます。
ろほう性リンパ腫の治療法

「ろほう性リンパ腫」の治療は、ステージによって異なります。ステージⅠまたはⅡの場合、治療は放射線療法です。腫瘍に放射線をあて、がん細胞を破壊して「寛解」を目指します。
ステージⅢ、Ⅳの場合、腫瘍、がん細胞の量が少ないと判断されると、症状がなければ治療をしないこともあります。「ろほう性リンパ腫」は進行が大変遅いので、体の中にがんが数か所あっても、そのまま大きくならずに数年以上経過することがあるからです。症状が出なければ、そのまま様子をみることも少なくありません。症状が出れば、リツキシマブを単独で使用します。がん細胞の量が多い場合は、リツキシマブまたはオビヌツヅマブといった分子標的薬と抗がん薬やステロイドを組み合わせた薬物療法を行い、寛解をめざします。
MALTリンパ腫の治療法

「MALTリンパ腫」は胃に腫瘍を作ることがよくあります。その場合ピロリ菌が関係していることが多いので、まずピロリ菌の検査をします。そして陽性の場合は除菌を行います。除菌するだけで「寛解」になることも珍しくありません。陰性の場合は放射線療法またはリツキシマブで「寛解」を目指します。
悪性リンパ腫の移植は自家移植
進行が遅い「MALTリンパ腫」や「ろほう性リンパ腫」の多くは、再発後も薬物療法を続けます。しかし「ろほう性リンパ腫」の一部や「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」が再発した場合、それまでの薬物とは組み合わせを変えた「救援療法」を行い、効果がみられれば、「移植」を検討します。悪性リンパ腫では白血病のようにドナーから造血幹細胞の移植を受けるのではなく、自分の造血幹細胞を使った「自家移植」を行います。悪性リンパ腫の場合、がん化した細胞は骨髄内や血液中にはほとんどないため、自分の造血幹細胞を使用することができるのです。
自家移植は、まず大量の抗がん薬を使って、リンパ節の中にあるがん化したリンパ球を死滅させます。しかし、このとき、リンパ球だけでなく、骨髄の中にある造血幹細胞もほとんどなくなってしまい、正常な血液が作られなくなってしまいます。

そして、事前に採取して凍結保存していた自分の造血幹細胞を戻します。もともと自分の細胞ですから拒絶反応もありません。2週間程度で生着し、血液を作り始めます。この自家移植は、全身状態にもよりますが、65〜70歳くらいまで行うことが可能です。

今後、高齢化が進むと、悪性リンパ腫の患者は、さらに増えることが予想されます。自分のがんのタイプを知り、主治医とともに、病気に向き合って治療しましょう。