前庭神経炎の治療

前庭神経炎は、内耳が原因となるめまいの病気の中で、良性発作性頭位めまい症、メニエール病に次いで患者数の多い病気です。
前庭神経炎の治療では安静にすることが第一で、症状が強い場合は入院することもあります。安静にしたうえで、薬物療法とリハビリテーションを行います。
前庭神経炎の薬

薬による治療では、前庭神経の炎症を抑えるために「ステロイド薬(内服または注射)」を使います。ただし、糖尿病や高血圧がある人は注意が必要なので、事前に医師に伝えてください。また、ステロイド薬を使用中にむくみなどの副作用が現れた場合も医師に相談しましょう。
このほか、激しいめまいを抑える「抗めまい薬」や、神経への血流をよくする「循環改善薬」などが用いられます。
また、めまいが続くことによって不安を感じ、それがまためまいを助長することもあるため、不安感を和らげる「抗不安薬」なども治療に使われます。
ふらつきが残ったらリハビリを
前庭神経炎では、大きなめまいの発作は一度きりですが、神経そのものが炎症によって障害されるため、ふらつきが数年にわたって続くことも少なくありません。そのため、ふらつきを改善するリハビリを行います。
前庭神経炎の場合に行うリハビリの仕組み

私たちが体のバランスを保つうえで、内耳から脳に伝わる情報が重要です。内耳からの情報以外にも、目と関節・筋肉から脳に伝わる情報を使って体のバランスをとっています。目からは周りの景色の詳しい情報が脳に送られています。関節・筋肉からは自分がどのようなところにどのような体勢で立っているのか、座っているのか、足の裏や腰から脳に情報が送られています。
しかし、前庭神経炎になると内耳からの情報が脳に伝わらなくなってしまいます。そこで、目を使った特別な運動を毎日行って目と脳のつながりを強くすることで、内耳が果たしていた機能を補い、ふらつきを改善するのです。
2つの代表的なリハビリ
リハビリの代表的なものに「顔の前で親指を左右に動かして目で追う」「顔の前で固定した親指を見続けながら頭を左右に動かす」などの方法があります。
顔の前で親指を左右に動かして目で追う運動

めまいのリハビリテーション法:北里大学医学部神経耳科学
【手順】
- 右手を前に伸ばし、親指を立てる。
- 両目で、立てた親指の先を見て、手だけを左右に動かす。
- 頭を動かさず、目だけで指先を追いかける。
(この動作を20回程度繰り返す)
顔の前で固定した親指を見続けながら頭を左右に動かす運動

【手順】
- 右手を前に伸ばし、親指を立てる。
- 手は正面に伸ばしたまま動かさず、頭を左右に動かす。
- 頭を動かしている間、目線は常に親指を見続ける。
(この動作を20回程度繰り返す)
これらのリハビリは、前庭神経炎以外でも、めまいが慢性化している人や高齢でふらつきがちな人にも効果があります。転倒を防ぐために、日頃から行うとよいでしょう。