薬で腎臓の機能が低下する「薬剤性腎障害」とは


鎮痛薬などの薬が原因で腎臓の働きを低下させてしまうことがあり、これを「薬剤性腎障害」と呼びます。腎臓は体内の老廃物や余分な塩分、水分を尿にして排せつしていますが、体内に入ったほとんどの薬も同じように腎臓から排せつされます。そのため、腎臓は薬の影響を非常に受けやすく、障害が起きやすいのです。場合によっては慢性腎臓病を発症したり、慢性腎臓病が悪化したりする可能性もあります。
薬剤性腎障害の原因となる主な薬

薬剤性腎障害の原因となる主な薬は、鎮痛薬、抗がん剤、抗菌薬、造影剤です。
最も多いのがNSAIDsと呼ばれている鎮痛薬で、その次に多いのが抗がん剤となっています。鎮痛薬や抗菌薬で腎障害が出やすいのは、毒性が強いからというわけではなく、処方する機会が多いために、原因となることが多くなっているといわれています。
高齢者は薬で腎障害を起こしやすい
薬による腎障害を起こす人を年齢でみると、60歳以上の方で多くなっています。高齢になると、さまざまな薬を使う機会が増えるのに加え、若い時に比べて、腎臓の機能が低下しているため、薬の排せつが悪くなり、腎障害を起こしやすくなるのです。
薬剤性腎障害による腎臓への影響

薬で腎障害が引き起こされると、「腎臓への血液の減少」「薬の毒性による腎臓の障害」「薬に対するアレルギーの発生」「薬の成分で尿の通り道が詰まる」などの影響が出て、腎臓の機能が低下します。
薬剤性腎障害と慢性腎臓病の関係


薬剤性腎障害が起きると、それが原因で慢性腎臓病を発症することがあります。一方で、腎機能が低下しているために慢性腎臓病の人が薬剤性腎障害を起こしやすい、ということもいえます。慢性腎臓病で薬による腎障害を起こしますと、さらに腎機能が悪化して病気が重症化する場合もあるので注意が必要です。
薬の種類ごとの薬剤性腎障害
鎮痛薬による腎障害

薬剤性腎障害の報告が最も多いのは、鎮痛薬、中でも非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)です。NSAIDsは鎮痛解熱薬と呼ばれており、消炎・鎮痛・解熱の作用があります。そのため、関節痛や筋肉痛、神経痛、頭痛、腰痛などさまざまな痛みを抑える薬として非常に多くの人に使われています。市販薬にもたくさんの種類のNSAIDsがあります。

NSAIDsには炎症物質を抑える作用と同時に、血管を収縮させる作用もあるため、腎臓に流れこむ血流が減少し腎臓の働きが低下することがあります。特に動脈硬化が進んでいる高齢者で腎臓の血流が少ない場合は、一気に腎臓の糸球体の血液量が減少し、腎障害が進む可能性があります。
アレルギーによって腎障害が起きることもある

鎮痛薬のNSAIDsだけでなく全ての薬にいえることですが、血液量が少なくなるだけでなく、アレルギーによって腎障害が起きることがあります。アレルギーによって腎障害が起きると、主に発熱・発疹・腎機能の悪化という症状が現れます。糸球体から大量にたんぱく尿が漏れる、「ネフローゼ症候群」という病気を起こすこともあります。
腎障害による症状・現れる期間

腎障害が起きると薬を使い始めてから2~3日程度で尿の減少、むくみ、食欲低下、だるさなどの自覚症状が現れます。一方で、長く自覚症状が現れないまま、腎臓の働きが低下することもあり、医療機関を受診した際にはじめて腎障害がわかることもあります。

また、血液の減少が続くとろ過される血液が減るだけでなく、周囲の血液も減少します。このため、薬物の代謝や尿の濃縮などの役割を持つ腎臓の尿細管が壊死して、重篤な腎障害に進んでしまうこともあります。
鎮痛薬による腎障害の予防方法

鎮痛薬による障害を防ぐため、非ステロイド系抗炎症薬を必要以上に多く使ったり、痛みが治まってもむやみに使い続けたりしないようにしましょう。また、発熱、下痢、おう吐、多量の汗などで水分が大きく失われます。体内の水分が減れば腎臓への血流も減ってしまうので、水分を十分に補給することも心がけるようにしてください。さらに、慢性腎臓病と診断されている人は、血液検査のクレアチニン値で腎臓の働きが低下していないか常にチェックすることも大切です。

アレルギーによる腎障害を予防するために、最も重要なことは過去にアレルギーを起こしたことのある薬を覚えておくことです。薬のアレルギーによる腎障害は、量には関係なく少量でも、また短期間でも起きることがあります。薬を処方してもらう際には、アレルギーを起こしたことのある薬を医師や薬剤師にしっかり伝えることが重要です。
腎障害が起きた場合の対処法

腎障害が実際に起こったら、原因の薬をつきとめて中止します。腎障害は体内に水分が足りないことで起きるので、口から水分を補給したり、病院の場合には点滴をして腎臓の血流を保持したりして対処します。早期であれば、多くの場合数日内に回復します。
薬のアレルギーで腎障害が起きる場合も、薬をやめれば治まることが多いですが、場合によっては特殊な治療が必要になることもありますので、注意が必要です。
抗がん剤による腎障害

腎障害を起こしやすい抗がん剤の1つに、白金(プラチナ)錯体であるシスプラチンがあります。シスプラチンにはさまざまな強い副作用があり、特に腎障害が起こる頻度は25%~35%と報告されています。シスプラチンに含まれる白金の化合物が尿細管細胞を直接障害して、糸球体ろ過量を減らし急性腎不全や慢性の腎不全、慢性腎臓病につながることが多くあります。
抗がん剤による腎障害の予防・対処法
抗がん剤は基本的に病院で投与されることが多いので、投与の前後に生理食塩水を点滴するなど十分な水分を補給することで、腎障害を予防します。
抗菌薬による腎障害

抗菌薬は細菌を殺したり、増殖を抑えたりする薬で、たくさんの種類があり、感染症の場合に使われることが多いです。
抗菌薬の場合は基本的にアレルギーによって腎障害が起こることがほとんどで、同系列(グループ)の薬でアレルギーを起こすことがあります。
造影剤による腎障害

造影剤はCT検査や血管造営検査で臓器や血管を画像として映し出すために使用される薬です。


CT検査は、体のさまざまな断面をX 線で撮影する検査で、検査の前に造影剤を注射します。血管造影検査は、狭心症や心筋梗塞の検査・治療でよく行われる検査法です。カテーテルと呼ばれる細い管を腕などの血管から心臓の血管まで挿入し、造影剤を注入しながら血管をX線で撮影します。
造影剤による腎障害の症状と予防法
造影剤による腎障害には、直接腎臓の細胞が障害される場合と、血管が収縮して腎血流が低下する場合の2つがあります。そのため、造影剤の腎障害を防ぐためには、造影剤の量をなるべく少なくすることがまず挙げられます。また、事前に十分な水分を取ることも有効な予防法となります。
さらに、造影剤を使った直後に、腎機能を評価して、悪くなっていないか診断することも大切といわれています。
高血圧の薬による腎障害

ARB・ACE阻害薬と呼ばれる高血圧の薬は、血流を減少させて腎臓の過剰な負担を抑える作用があります。ただし、効き過ぎてしまうと、結果的に腎血流が減りすぎて、尿の減少やむくみなどが起きてしまいます。また、ARB・ACE阻害薬は、尿中のカリウムの排せつを減らす作用もあるため、高カリウム血症を引き起こしてしまうこともあります。
ARB・ACE阻害薬による腎障害の危険因子

高齢者や動脈硬化が進んで腎臓の動脈が狭くなっている人は、ARB・ACE阻害薬による腎障害を起こしやすいといわれています。また、脱水も腎障害につながりやすい危険因子です。腎障害は血流が減ることでおきますので、注意が必要です。