ついに見えた!脳に広がる神経細胞のネットワーク

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人体(NHKスペシャル)

皆さんは、「脳」というとどのような姿を思い浮かべますか?頭蓋骨の中におさまっている、ぐにゅぐにゅとして白い、まるで白子のような脳を思い浮かべる方も多いと思います。これまで脳科学者たちは、この白子のような脳が、領域ごとにどのような働きを担っているのかを詳細に明らかにしてきました。その様子を色分けして示したのが、こちらのCGです。

CG 領域ごとに色分けした脳の姿

例えば、脳の一番後ろ、白い丸で囲まれた「視覚野」は、物を見た時にその情報を処理する領域。脳の側頭部にある黄色い領域は、耳から入ってきた音を聞き分ける「聴覚野」、その上の緑色の領域は、「言語」を司る領域といった具合です。こうした脳の領域ごとの働きの違いを見ていくことも大変興味深いのですが、最先端の脳科学では、それとはまた一味違う姿として脳がとらえられつつあります。それを映像化したのが、こちらのCG。いま大注目の「脳の神経細胞のネットワーク」です。

脳の中を走る神経線維の束をデータから再現した「脳の神経細胞ネットワーク」
(岡田知久・京都大学/NHK)

脳の働きを「ネットワーク」でとらえ直す

京都大学・脳機能総合研究センターの岡田知久特定准教授の協力を得て、世界最高性能のMRIという装置で脳を計測し、そのデータを詳しく解析したところ、白子のような脳の中を走る神経線維の姿が浮かび上がってきました。私たちの脳の中にはおよそ1000億の神経細胞があると言われていますが、ここで見えているのは、その中でも特に領域と領域の間をつなぐ細長い神経細胞の姿です。一本一本の線維は、数十万本の神経細胞が束になったものと考えられていて、隣り合う領域同士を結び付けたり、離れた領域同士を結び付けたりしています。その中を電気信号が縦横無尽に駆け巡っているのです。

脳は、けっしてひとつひとつの領域がばらばらに働いているわけではなく、こうした領域間をつなぐ神経細胞のネットワークを介して様々な営みを生み出している。脳の働きを「ネットワーク」という観点から捉えようという取り組みが、まさに今始まっています。

わずか0.2秒間!生きている脳で何がおきているのか?

ただ、生きている人間の脳の中で、神経細胞がどのようにつながり、どのように働いているのかを明らかにするのは、簡単なことではありません。そうした難題に挑んでいるひとりが、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の山下宙人さん。「脳活動ダイナミクス推定法」と呼ばれる手法で、人間の脳が領域間でどのように情報をやり取りするのか、世界で初めて映像化することに成功しました。領域間の情報のやり取りと言っても、そのとき何をしているかによって脳がどのように反応するかまったく違います。

山下さんが最初のテーマとして取り上げたのは、「私たちが人の顔を見た時」の脳の反応。イギリスのケンブリッジ大学の研究チームが10人の被験者に人間の顔を見せ、その時の脳の反応を1000分の1ミリ秒単位で計測したデータをもとに、電気信号がネットワーク上をどのように流れているのか分析しました。番組では山下さんの協力のもと、この映像を超高精細にCG化。目から入ってきた信号が脳の一番後ろにある「視覚野」に伝わり、そこからわずか0.2秒ほどのあいだに脳の一番前にある「前頭前野」にまで広がっていく様子が鮮やかに浮かび上がってきました。

「脳活動ダイナミクス推定法」という手法で解析された"人の顔を見たとき"の反応。
(山下宙人・国際電気通信基礎技術研究所/岡田知久・京都大学/NHK)

脳の中を駆け巡る電気信号が、0.2秒の間にどのような情報をやり取りしているのか、詳しいことは謎に包まれたままです。しかしこうした新たな解析手法によって私たちの脳の神秘が、少しずつ明らかになりつつあります。

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この記事は以下の番組から作成しています

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