最新研究で解明!体に不可欠な「脂肪の真価」

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気づいたらいつの間にかお腹まわりや太もも、二の腕についている、脂肪。「こんなものなければいいのに!」なんて思ったことはありませんか?でも、もし体に脂肪がなかったら、私たちの体は大変なことになるのです。最新研究から、脂肪がもつ驚くべき能力が見えてきました。

体についた脂肪組織は、「脂肪細胞」という丸い細胞の集まりだ
体についた脂肪組織は 「脂肪細胞」という丸い細胞の集まりだ

生まれつき体に脂肪がない「脂肪萎縮症」という病気の謎

体についた皮下脂肪や内臓脂肪などの"脂肪組織"は、じつは「脂肪細胞」という細胞の集まりです。細胞内に、脂肪を体のエネルギー源として蓄える袋を持っています。脂肪細胞は、まさに人体の「エネルギー貯蔵庫」です。

そんな脂肪細胞を生まれつき体に持たない、「脂肪萎縮症」という病気があります。数百万人に1人と言われる難病で、遺伝子変異が原因で先天的に起きる場合もあれば、免疫異常などで脂肪細胞が消失してしまう場合もあります。太る心配もないから羨ましいなんて思ったら大間違い。健康な人の場合、食事で摂取した糖や脂肪は脂肪細胞に蓄積されますが、脂肪萎縮症の患者の体内では、それらが血液中に溢れ出してしまいます。そのため、血糖値や中性脂肪の値が正常域を大幅に超え、若くして重い糖尿病などを発症してしまいます。これまで治療も困難で、30歳くらいまでしか生きられないとされてきました。

脂肪萎縮症の症状はそれだけではありません。じつは、脂肪細胞が放出する「レプチン」という物質が体内に存在しないことによって、ある悩ましい症状を示します。すさまじい食欲に襲われるのです。

脂肪萎縮症の1歳の男の子。すさまじい食欲で、とめどなく食べたがる
脂肪萎縮症の1歳の男の子。すさまじい食欲で、とめどなく食べたがる

レプチンは 脳に作用して「食欲」をコントロールする

脂肪細胞から放出されるレプチンは、いわば"エネルギーセンサー"の役割を果たしています。脂肪細胞に十分エネルギーがたまるほど、多くのレプチンが放出され、「エネルギーは十分たまっているよ」という"メッセージ"を全身に伝えます。このレプチン、脳にまで運ばれ、本能的な欲求を司る脳の「視床下部」というところの神経細胞に受け取られます。すると脳は、「もう食べなくていい」と判断し、食欲を抑える指令を出す仕組みがあります。食欲は、脂肪細胞によって操られていたのです。一方、脂肪細胞のエネルギー貯蔵量が減ると、レプチンの放出も減り、筋肉などでのエネルギー消費を抑える働きをします。

脂肪萎縮症の患者は、レプチンがないため、脳が食欲を抑えることできません。そのため、食べても食べてもおさまらない食欲との、壮絶な戦いを強いられます。脂肪萎縮症を患うある3歳の女の子は、いくら食べても食欲が止まらず、食べ物を取り上げると泣き叫び、食事をしている兄姉に襲いかかって家族の分まで食べてしまうほどだったと言います。放っておくととめどなく食べ続けてしまうため、血糖や中性脂肪が増えすぎないよう、厳密な食事管理が必要となります。脂肪細胞がないということは、それほどまでに大変なことなのです。

脂肪細胞内のレプチン(丸いカプセルに収まった粒)のCG
脂肪細胞内のレプチン(丸いカプセルに収まった粒)のCG
これが脂肪細胞から放出され、血液に乗って全身をめぐる

脂肪細胞が出すレプチンの解明が 医療を変える

このレプチンの仕組みが解明されたことにより、治療困難だった脂肪萎縮症の症状改善に光明がさしました。

京都大学の中尾一和教授のチームは、脂肪萎縮症の患者の体内で不足している「レプチン」を補充することができないかと考えました。レプチンを人工的に合成し、患者に与えることで、食欲を抑えられるのではないかというのです。世界に先駆けて、2001年にレプチン治療の臨床試験を開始。効果は劇的でした。レプチンの投与を開始してわずか1週間ほどで食欲がおさまり、血糖値と中性脂肪の値も減少。その後も研究を重ね、2013年には、レプチンが脂肪萎縮症に対する世界初の薬として、日本で承認されました。翌2014年にはアメリカでも承認されています。

"たかが脂肪"と思いきや、脂肪細胞は私たちの食欲をコントロールし、病気から守ってくれる重要な存在だったのです。

脂肪萎縮症だった3歳の女の子は、脂肪細胞が出すレプチン投与の
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治療を受け、"異常な食欲"から解放された

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