危険な「仮面高血圧」

自分の高血圧がどんなタイプなのかは、診察室血圧と家庭血圧の両方を測れば知ることができます。特に気をつけたいのが、診察室血圧は正常なものの、家庭血圧が高いタイプです。このタイプは、医師や医療スタッフが見つけることは困難なので、仮面高血圧と言われています。
仮面高血圧は見逃されやすいうえに、脳卒中や心筋梗塞などの発症率が一般的な高血圧と同じくらいに高いため、危険な高血圧といえます。40歳以上の10人に1人は仮面高血圧という報告もあります。
仮面高血圧かどうかを調べるには、毎日朝と夜、家庭で血圧を測れば発見することができます。家庭血圧計を上手に活用して、早期に発見し、早めの治療を心がけましょう。
注意したい早朝高血圧と夜間高血圧
仮面高血圧には、昼間高血圧と早朝高血圧、夜間高血圧という3つのタイプがありますが、特に気をつけたいのが早朝高血圧と夜間高血圧の2つです。
早朝高血圧とは
血圧は、1日のなかで変動しています。通常は、活動が活発な日中に高く、夕方から夜にかけて下がっていきます。そして早朝、目覚める時間にむかって高くなります。血圧が、早朝に過度に上がるのが「早朝高血圧」です。
起床時1〜2時間以内の血圧が、(上)135mmHg(下)85mmHgを超えると「早朝高血圧」です。
「早朝高血圧」には2つのタイプがあります。睡眠中も血圧があまり低下せず、早朝まで高い「高血圧持続型」と起床時にかけて血圧が高くなる「早朝昇圧(モーニングサージ)型」です。

「高血圧持続型」は、糖尿病や腎臓障害のある人、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の人などに多いといわれています。寝ている時に血圧が高いと心臓や血管の負担が大きくなり、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすくなります。
「早朝昇圧(モーニングサージ)型」は、高齢者で血管が硬い人に起こりやすいといわれ、こちらも心筋梗塞や脳卒中が起こるリスクが高くなります。
「早朝高血圧」は昼間、診察室で測定するだけではわからない「仮面高血圧」です。早朝は交感神経が増強して心臓の働きが活発になり、血管も収縮することで血圧が上昇します。加えて、治療中の患者さんでは、1日1回投与の血圧の薬の効果が、最も切れやすい時間です。治療を受けていて血圧がコントロールされているようにみえるため、見過ごされやすいまさに盲点です。
早朝高血圧の対策
朝の血圧の目標値は、(上)125mmHg(下)75mmHgです。
血圧を下げるためには、食事、運動、薬の3つがポイントです。
- 食事
塩分のとりすぎに気をつけて、野菜や海藻などカリウムを多くとるようにする。 - 運動
毎日、30分程度が目安。心拍数が100〜120くらいになるウォーキングなど有酸素運動を行うと血管が良い状態になる。 - 薬
食事や運動で血圧が下がらないと降圧薬を使います。そのときは、医師に相談をしましょう。
最新のアプリが治療を後押し
これまでの高血圧治療は、主に患者さんが病院に来た時だけの医師による生活指導でした。医師は患者さんのふだんの生活を把握することができません。患者さんも数か月に1回病院に行くだけでは食生活の改善や運動を継続することが難しく、途中で治療をやめてしまうこともありました。
そこで最近活用が期待されているのが、人工知能(AI)やビッグデータを活用して、患者さんの血圧をコントロールしたり、予防をする「みらい医療」です。
2022年9月には、スマートフォン用の「高血圧治療用アプリ」に保険が適用されました。医師の診断で高血圧症でアプリ治療が決まると、医師から処方コードをもらい、自分のスマートフォンにアプリをダウンロードします。
治療期間は6か月、3割負担で月約2500円です(医師への受診料は別)。


まずは血圧治療に必要な知識を習得し、その後「ラーメン、うどんの汁は飲まない」など、患者さん自身が行動目標をたて、それを実践します。毎日の測定した血圧値を記録できて、それを医師がチェックすることもできます。これまでよりも医師が患者さんの状態を把握することができるようになり、治療に介入しやすくなりました。

臨床試験の結果では、アプリを使用しなかった人と比較すると、使用したほうが降圧効果がありました。
その一方で、患者さんが血圧値の上下の変動に一喜一憂しすぎるという問題点も指摘されました。
今後、高血圧治療に最新技術を活用することが期待されています。
夜間高血圧とは

早朝高血圧をコントロールできたら、次のターゲットは「夜間高血圧」です。
血圧は睡眠中、昼間に比べて10〜20%程度下がるのが一般的です。
血圧の変動は、自律神経の働きに関わりがあり、日中は交感神経が優位に働き、血圧が上がります。夜間のリラックスした時間には、副交感神経が働いて血管を広げ、血圧を下げます。
ところが、夜に下がらないのが「夜間高血圧」です。夜間血圧の平均値が、(上)120mmHg(下)70mmHgより高いと「夜間高血圧」です。

夜間高血圧は高齢者や糖尿病、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などの人に多くみられます。夜間の血圧が10mmHg上昇すると、脳卒中、心血管疾患のリスクが20%上昇する研究結果もあります。さらに、昼間の血圧はコントロールできていても夜間に血圧が上がると、心不全のリスクが2.45倍上昇する最近の研究もあります。夜間高血圧は、早朝や就寝前に測定しても、寝ている間に上昇していれば気付かない可能性があります。朝の血圧が良好にコントロールされていた人の4人に1人が夜間高血圧だったという研究結果もあります。
夜間高血圧の発見には、睡眠中の血圧を測定する必要があります。
夜間高血圧を測定する方法

これまでは夜間も含めて、24時間血圧を測定するときは、医療機関から貸し出される「24時間自由行動下血圧測定(ABPM)」を身につけて測定していました。しかし、血圧計を装着して寝るので、落ち着くことができずに十分な睡眠をとることができず、正確に測定できないことがあります。

手首式血圧計
※研究用で一般には販売していません。
近年、睡眠を妨げることなく、夜間の血圧を測定できる血圧計が開発されました。「手首式血圧計」です。軽量で手首に巻くと、夜間に自動で3回、血圧を測定します。
夜間高血圧の治療法
夜間高血圧の治療法は、徹底的な減塩です。体内から塩分を出すために、利尿薬を使うことも有効です。また夜間高血圧の要因の一つに不眠があり、その場合は睡眠薬を服用することも治療のひとつになります。
睡眠時無呼吸症候群の場合は、その治療を行うなど、夜間に血圧が高くなる原因をはっきり突き止めて、それに合わせた治療をすることが大切です。
これからの血圧治療「個別最適化」
昼間の血圧だけではなく、こまめに血圧を測定して、自分の血圧がどう変動しているかを把握することが大切です。そして、血圧が上がるところを集中的に治療する「個別最適化療法」が、これからの高血圧治療です。