日本人研究者が発見!慢性腎臓病を治す新戦略

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日本の成人の8人に1人がかかっているといわれる「慢性腎臓病」。これまで、特効薬と呼べるものはなく、治療の中心は進行を遅らせることでした。しかし最新科学によって、腎臓の中で起きているミクロの現象が明らかになるにつれ、慢性腎臓病をより積極的に予防・治療できる新戦略が見え始めています。慢性腎臓病のとき、腎臓では何がおきているのか?どうすれば治せるのか?最先端の研究をご紹介しながら、ひもといていきます。

慢性腎臓病の患者さんに投与される「EPO」

慢性腎臓病と重要な関わりがあるのが、体の酸素が欠乏した時に腎臓が出す物質「EPO(エポ、正式にはエリスロポエチン)」です。これはいわば、「酸素がほしい」という腎臓からのメッセージを伝える物質です。腎臓は、全身の"酸素の見張り番"。体内に酸素が少ないと感じると、EPOを放出します。これが血液に乗って運ばれ、「骨髄」で受け取られると、赤血球の増産がはじまります。酸素の運び屋である赤血球の数を増やすことで、全身をめぐる酸素量を増やすのです。腎臓は、日常生活でも常に微量のEPOを出し続けていますが、酸素の状態に応じて、その量を絶妙に変化させることで赤血球の数を調節し、全身の酸素状態の恒常性を適切に保っています。

実は慢性腎臓病の患者さんは、腎臓が出すEPOの量が減ってくることがわかっていて、そのため赤血球の数も減り、重度の貧血状態になってきます。そこで、EPOを薬として投与するなどの治療が行われています。EPOは、いまや医療の世界でかなり広く使われている物質となっているのです。

ところが、そのEPOが腎臓のどこから出ているのかについては、長年、医学界の謎とされてきました。それを世界で初めて明らかにしたのが、東北大学の山本雅之教授と鈴木教郎准教授のグループです。腎臓の中には「尿細管」と呼ばれる尿を運ぶ管が、曲がりくねり、ぎっしりとつまっています。その管と管の間の"すき間を埋めている細胞"が、EPOを作っている細胞(EPO産生細胞)であることをつきとめました。

尿細管の"すき間"で、緑・赤に光っているのが「EPO産生細胞」
(東北大学大学院医学系研究科 酸素医学分野 鈴木教郎)

EPO産生細胞が慢性腎臓病 悪化のカギを握る

実はこのEPO産生細胞こそが、慢性腎臓病の悪化の過程に重大な役割を果たしていることが分かってきました。慢性腎臓病になると次第に腎臓が硬くなり、機能を失っていくことが知られていますが、この現象を引き起こしているのが、EPO産生細胞だったのです。

腎臓に何らかの負担がかかると、なぜかEPO産生細胞が線維状になって硬くなり始めます(線維化)。これが進むと、腎臓の機能が決定的に下がり、慢性腎臓病が悪化してしまいます。しかもこのとき、EPO産生細胞はEPOを作る能力を失っていることもわかりました。こうしてEPO産生細胞が、いわば"悪玉化"してしまうことが、腎臓を硬くする原因だったのです。

 しかし、EPO産生細胞はいったん"悪玉化"しても、完全に硬くなる前であれば、元に戻る性質があることもわかってきました。こうしたミクロの世界の現象がわかってきたことで、EPO産生細胞の"悪玉化"を防いだり、いったん"悪玉化"したものを元に戻したりする薬の研究が進められています。

「細胞同士のコミュニケーション」が医療を変える!

そうした研究の中で、さらに面白い事実も見つかり始めました。腎臓に負担がかかった時、最初に傷つくのは尿細管であることが多いとされています。京都大学の柳田素子教授の研究グループは、尿細管が傷つくとEPO産生細胞が"悪玉化"することを見つけました。しかしこの"悪玉化"EPO産生細胞は、もしかしたら"悪玉"とは言えないかもしれないといいます。"悪玉化"EPO産生細胞は、むしろ尿細管を治したり、補強したりする役目を果たしていて、すぐ隣にいる尿細管を助けるために、EPOを作るという自らの仕事を投げ出してまで、がんばっている可能性が浮かび上がってきたのです。

だとすれば、こうした細胞同士の助け合いを薬などによって補助してやることで、腎臓病の悪化を防ぐことができるかも知れません。腎臓の中のミクロの世界で起きている、細胞同士の不思議なコミュニケーション。それを理解することが、慢性腎臓病治療の突破口になりうると、期待されているのです。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル放送
    NHKスペシャル「人体」第1集 “腎臓”が寿命を決める

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