腎臓の手術で重症の高血圧が治る!大注目の最新治療

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人体(NHKスペシャル)高血圧腎臓循環器・血管

これまで高血圧の治療と言えば、"薬"を服用する方法がほとんどでした。しかし、「何種類もの薬を飲んでも、思うように血圧が下がらない」という重症の高血圧の方も少なくないのが現実です。こうした「難治性の高血圧」の患者に対して、"腎臓の手術"で血圧を下げるという、驚きの最新治療が始まっています。

腎デナベーション手術の様子(ドイツ ライプチヒ心臓センター)
腎デナベーション手術の様子
(ドイツ ライプチヒ心臓センター)

難治性の高血圧を治す新たな腎臓手術

この新たな手術では、太ももの血管などから細い管(カテーテル)を入れて、腎臓の血管まで導き、内部から熱を発生させることで、その周囲にある交感神経の一部を焼き切るという処置が行われます。「腎デナベーション」と呼ばれる手術法で、ヨーロッパを中心に、いま世界中で数多くの臨床試験が行われています。日本でも、複数の臨床試験が始まっています。

手術後の患者さん
手術後の患者さん


なぜ「腎臓」を手術することで、血圧が下がるのでしょうか?実は腎臓は、「尿をつくる」というだけでなく、全身の血圧の"見張り番"という重要な役割を果たしています。腎臓の細胞から「レニン」という物質が放出されており、これを血管が受け取ると、血圧を上げる働きをします。つまり腎臓は、このレニンの量を調節することで、全身の血圧をコントロールしているのです。

(厳密に言えば、レニンが直接血管に作用するわけではありません。腎臓からレニンが放出されると、その後いくつかの段階を経て、「アンジオテンシン2」という物質が生み出され、これが血管を収縮させたり、体から排出される塩分量を減らしたりして、血圧を変化させます。)

早朝・夜間高血圧に高い効果が期待できる

多くの高血圧患者の体内では、このレニンを腎臓が過剰に出していることが分かっています。腎臓が「血圧を上げよう」というメッセージを多く出しすぎているのです。そこで、これまでにもレニンの働きをブロックする薬などが開発され、効果を上げてきました。しかし、それでも血圧が下がらない患者さんが多くいるのも現状です。そこで、過剰なレニンの放出を引き起こしている交感神経からの刺激を手術によって断ってしまおうというのが、「腎デナベーション」という新たな治療戦略です。重症の高血圧に対して大きな効果が期待され、詳しいメカニズムの研究が続けられています。

イメージ 腎臓とレニン
イメージ 腎臓とレニン

「腎デナベーション手術」について、日本での臨床試験を進める自治医科大学の苅尾七臣教授に今後の展望を聞きました。「最新の研究では、すべての高血圧患者に同じように効果があるわけではなく、効果が出やすい患者と、出にくい患者がいることもわかってきました。その見極めが、今後の重要な課題とされています。例えば、日本人に多い『早朝・夜間高血圧』の患者には、高い効果が期待できると考えられています。」

これまで"打つ手なし"だった難治性の高血圧に悩む方々に、「手術」という新たな選択肢が増えることで、希望の光が見えてきています。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    NHKスペシャル「人体」第1集 “腎臓”が寿命を決める