男性の更年期障害とは

「疲れがとれない」「意欲がわかない」などの症状があらわれる男性の更年期障害は、男性ホルモンのテストステロンの低下が原因です。更年期障害が起こる時期は個人差が大きいうえに、更年期障害による体と心の不調が起こっても、「年のせい」「ただの疲れ」と見逃されがちです。しかし、更年期障害は、男性ホルモンの分泌の低下が始まる40歳代以降では、どの年代でも起こる可能性があります。また、最近の研究では、生活習慣や社会との関わりが影響することもわかってきています。
テストステロンの3つの働き

男性ホルモンのテストステロンには、主に3つの働きがあります。
- 筋肉や骨を強くする、そして社会活動を支える。
- 生殖機能、つまり男性の性機能を保つ。
- 物事を判断する、あるいは物事を理解する、広い意味で認知力、認知機能を高める、維持するなどの働き。
そのため、テストステロンの分泌が低下すると、体と心にさまざまな影響が現れます。
男性の更年期障害 症状
体の症状

男性ホルモンが低下すると、心と体にさまざまな症状が現れます。
主な体の症状は、筋力低下や関節痛、筋肉痛、異常発汗、ほてりなどです。これらは女性の更年期障害と似た症状です。それ以外にも肥満、頻尿などの症状があります。
また、男性特有の症状としては、性欲の減退や勃起(ぼっき)力の低下などが起こります。
心の症状

主な心の症状は、調子が悪いといった健康感の減少、興味や意欲の喪失、眠れない、不安感、うつ症状、そして集中力や記憶力の低下などが現れます。不安感を「夕方になると寂しくなる」「ふわっとした不安を感じる」などと訴える患者さんもいます。
また、イライラして家族に当たったり、きついことを言ってしまったりすることもあります。
もしかしたら更年期障害?セルフチェック

更年期障害の可能性があるかどうか、まずは自分でチェックしてみましょう。
①性欲が低下した
②元気がない
③体力が低下した
④身長が低くなった
⑤毎日の楽しみが少ない
⑥もの悲しい・怒りっぽい
⑦勃起力が弱くなった
⑧運動能力が低下した
⑨夕食後にうたた寝をする
⑩仕事がうまくいかない
10項目のうち、1と7の両方に該当、または全体のうち3つ以上の項目に該当する場合は、更年期障害の可能性があると考えられます。
上記に当てはまり、体調が悪いと感じる場合は、医療機関の受診をお勧めします。
医療機関での診断
問診

診断は、問診と血液検査によって行われます。
問診は「AMS調査票(スコア)」という問診票を使って、体や心の症状、性機能の低下の有無や程度を調べます。
AMSスコア

出典)「加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き2022」
17項目の質問に対して、採点していきます。それぞれの答えに対して、症状がない場合1点、非常に重い場合5点というように症状の重さに合わせて、1~5点の点数をつけます。

出典)「加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き2022」
17項目の合計点で症状の程度を把握します。合計点が50点以上になる場合は、早急に治療を受ける必要があるとされています。
このスコアは、問診で使われるほか、セルフチェックの方法としても利用されています。
血液検査

血液検査は、採血して血液の1dL中のテストステロン値が、おおむね300~350ng以下で、心や体の症状が強く現れている場合は、「性腺(せいせん)機能低下症」と診断され、治療の対象となります。
テストステロンは社会性ホルモン

テストステロンの分泌には、加齢よりもむしろ「生活習慣」や「社会的な活動」が深く関係していることから、テストステロンは“社会性ホルモン”とも呼ばれています。
例えば、定年後の男性が更年期障害になるケースが多くあります。生活リズムの乱れや社会との関わりの減少によって、男性ホルモンが減ってしまうのです。年齢にかかわらず、社会的な役割をもっており、趣味などで人生を楽しんでいる人は、テストステロンの分泌が低下しにくいとされています。
また、社会の中で自分の役割を与えられたり、認められたりするとテストステロンは回復することがあります。
狩猟採集時代と現代社会

例えば、狩猟採集時代の人類の暮らしを考えてみると、その時代必要なのは…朝起きて今日は獲物を捕りに行くといった“意欲”、どこに獲物がいるかを知る“認知力”、そして移動を可能にする“体力”です。
テストステロンは、これら全てを支えるホルモンです。そして、獲物をとって家に戻ってきて家族から“感謝”される。このサイクルがあることで、テストステロンはさらに上がると思われます。
現代の社会においても、何らかの獲物を得たという実感がないと男性ホルモン、テストステロンは減ってしまうのかもしれません。
テストステロンが減少すると生活習慣病に関わる

テストステロンの分泌が低下すると、体や心にさまざまな症状が現れるだけでなく、深刻な病気につながるおそれがあるので注意が必要です。テストステロンには、臓器の機能を維持し、炎症を抑える作用があります。
テストステロンが減少すると、中性脂肪やコレステロールの代謝が低下したり、内臓脂肪や皮下脂肪が増えやすくなります。その結果、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病を発症するリスクが高まり、動脈硬化の原因ともなります。
重大な病気のリスクも

また、テストステロンには血液の流れをよくする働きがあります。テストステロンの減少を放っておくと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞、狭心症、脳卒中といった命に関わる病気のリスクが高まります。
このほか、テストステロンには、記憶をつかさどる海馬(かいば)を活性化させる働きもあるので、減少することで認知機能が低下し、認知症につながるおそれがあります。
男性の更年期障害を相談できる診療科

男性の更年期障害が疑われる場合は、泌尿器科を受診してください。また、メンズヘルス外来や男性更年期外来などの専門の外来を設けている医療機関もあります。地域の医療機関へ問い合わせてください。
更年期障害が注目される背景には、中高年を取り巻く社会的な環境が影響しているといわれます。男性ホルモン・テストステロンは、心、体そして社会活動で重要な役割を担っています。
この男性ホルモンが減ってしまう男性更年期障害の原因や症状を知って改善につなげていきましょう。