女性の更年期とは
女性の更年期は、閉経をはさんで前後各5年ほど、合計約10年間を指します。閉経の時期には個人差がありますが、大体50歳ぐらいが平均的な閉経年齢です。閉経を50歳とした場合、45歳~55歳が更年期にあたります。
更年期に現れるさまざまな症状

更年期には、さまざまな不定愁訴が現れることが知られていますが、代表的な症状はホットフラッシュと呼ばれる「のぼせ」「ほてり」「発汗」です。特に運動したわけでもないのに、急にカーッとほてってのぼせたり、寝汗でパジャマがぐっしょり濡れてしまったりすることもあります。
ほかには、「手足の冷え」「だるい・疲れやすい」「眠れない」「クヨクヨ・憂うつ」「イライラ」「頭痛」「動悸」「肩こり」「関節の痛み」「めまい」「耳鳴り」「物忘れ・記憶力の低下」「腟の乾燥・性交痛」など、さまざまな症状があります。
症状の出方は個人差が大きく、ほとんど症状を感じないまま更年期を終える人もいれば、いくつもの症状に悩まされる人もいます。ただ、40~64歳の女性を対象に行われたアンケート調査では、8割以上の女性が「更年期に何らかの症状を感じている」と回答しています。さらに、症状がつらくて、日常生活に支障を来すような場合を「更年期障害」といいます。
更年期障害によって職場も家庭もうまくいかなくなってしまった女性のケース
40代の会社員の女性。
3年ほど前に子宮筋腫の治療で、子宮・卵巣・卵管を摘出。その結果、エストロゲンの分泌がなくなり、「だるい」「頭痛」「どうき」「イライラする」などの更年期症状が急激に現れ、日常生活に支障が出始めました。
職場では、仕事が山積みになった時に、思考の整理が出来ず、以前のように仕事がこなせなくなってしまいました。さらに、家庭では息子との関係が悪化。息子の全てが気に入らなくなり、ささいなことでイライラしてしまい、すぐに口論になることが増えました。
ある日、息子から「お母さんちょっとおかしいんじゃない?先生に診てもらった方がいいんじゃない?」と言われ、その時、自分が自分ではないと気付き、受診。更年期障害と診断されました。
そこで思い切って周りに「更年期でつらい」ことを伝えることにしました。
職場には「更年期障害で業務に配慮が必要」という医師からの書類を提出。上司などの理解が得られ、勤務などで配慮してもらえるようになりました。
息子にも「自分は更年期障害でつらい」と伝え、理解してもらうように努めました。
渡辺さんは「自分で解決しようとすると、自分を責めがちになってしまう。周りの人に自分の状況を理解してもらおうとする努力はした方がいい。」と振り返っています。
特に更年期は、育児や仕事、介護などで忙しい年代。そのため、我慢を重ねて、いつの間にか悪化することも。
そこで大切なのが、「分かってくれない…」と、ため込むのではなく、自分から「いま自分は更年期の症状がひどいんだ」ということをしっかりと伝えることです。
つらい状況を伝える3つの方法
家族・夫婦関係はさまざま。話そうと思っても話せない…という方のために3つの方法をお伝えします。
①紙にやってほしいことを書いて伝える
手紙にしてもいいし、スマホなどでメッセージを利用してもOKです。とにかく文字にすることが大切です。
女性が男性へお願いする時に、「あと、お願いね」「あと、よろしく!」のように、抽象的にお願いするケースでは、きちんと伝わらないことも多くあります。そんなときは、タスクをこなすように、やってほしいことを紙に書いて伝えると相手も協力してくれます。
他にも、自分が言ってほしい言葉を紙に書いて渡すというのもお勧めです。
②仲介者を介してつらい状況を伝える
ある程度の年齢の子どもがいる場合は、夫などに話すとき、一緒に話すことをお勧めします。そして、話の最中に「更年期障害がつらい」ということを、子どもから夫などに伝えてもらうのも有効な方法です。
子どもがいない場合は、共通の知り合いでもよいでしょう。とにかく仲介者が入ることが大切です。第三者の意見を聞くと、夫などが意外とすんなりと受け入れてくれる場合もあるでしょう。
③ストレス解消のための趣味を見つける
新しい趣味を見つけることで、家族、職場以外の自分の居場所、“サード・プレイス”を作ることができます。すると、そこで出会った人とコミュニケーションが生まれた結果、気持ちに余裕ができます。その後、自宅に帰ると気持ちが切り替わり、家庭でも「対話」ができることもあります。
周囲はどのようなことを意識するべき?
家族側は、更年期は「精神状態が不安定だ」ということを心得ることが必要です。
その上で、「何かできることはない?」「サポートしようか?」という声がけがあると、「じゃあこれお願い」と、対話がスムーズにできることがあります。
職場でも同様です。更年期障害でつらい時は、どうしても仕事のパフォーマンスが落ちてしまいます。その状況を周りの人が理解して、チーム力でカバーしていくなど、さまざまな方法を探っていくのが大切です。「今までの70%できていればよい」「今の時期はこれくらいの仕事量にしよう」などと仕事量の調整ができるとなおよいでしょう。
“できない”のはあなたのせいじゃない

現在の更年期世代の女性は、働く女性の割合が高いのが特徴です。しかし、更年期世代の女性を対象に行われたアンケート調査によると、なんと2人に1人が更年期障害の症状を理由に「昇進を辞退したことがある」という結果でした。
キャリアウーマンでなくても、家事や仕事で以前だったらありえないようなミスをしたり、気力が低下して、これまでできていたことができなくなったりする人も少なくありません。けれども、更年期の時期の不調や体力・集中力の低下、やる気の喪失は、「あなた自身のせい」ではなく、「更年期のせい」です。そして、更年期は必ず終わるときがやってきます。自分を責めすぎる必要はないのです。
更年期 3つの要因

更年期にさまざまな症状が現れる最大の原因は、女性ホルモンの減少とゆらぎです。それに加えて、なりやすい性格や環境のストレスも影響します。
真面目で頑張り屋、神経質、完璧主義といった性格の人は、更年期の症状を感じやすい傾向にあると言われています。また、この時期の女性は、仕事や子育て、子どもの巣立ち、介護など環境のストレスも多く存在します。そうしたストレスが大きいと、更年期の症状が重くなることが知られています。
女性ホルモンには“波”がある

女性ホルモンの中でも、特に更年期に大きく影響するのは、エストロゲンというホルモンです。エストロゲンの最大の役割は妊娠と出産ですが、ほかにも、「骨や血管を丈夫にする」「コレステロールを調節する」「記憶力や集中力を保つ」「肌や髪の潤い・ハリを保つ」「気持ちを明るくし、精神を安定させる」といった女性の心と体を健やかに保つ効果もあります。

エストロゲンの分泌量は、女性の一生の中で波のように大きく変化します。思春期に入ると、どんどんエストロゲンの分泌が増え、妊娠・出産の適齢期とされる20~30代にピークを迎えます。そして、40代半ばから50代半ばにかけて急激に減少し、60代以降はほとんど分泌されなくなります。このエストロゲンが急激に減少する時期が更年期です。しかも、ただ下がるのではなく、大きくゆらぎながら下がっていきます。
エストロゲンのゆらぎと更年期症状の関係
では、どうしてエストロゲンが不安定にゆらいでしまうのでしょうか?
その理由は脳と卵巣の関係にあります。エストロゲンは卵巣から分泌されます。年齢と共に卵巣の働きが衰えていくと、エストロゲンの量も自然と減っていきます。すると、脳は「エストロゲンが足りない!もっと出しなさい!」と卵巣に指令を出します。指令を受け取った卵巣はエストロゲンを分泌しようとしますが、たくさん分泌できる日と少ししか分泌できない日があります。このように脳の指令と卵巣の反応の間にギャップが生じ、そのためにエストロゲンの分泌の「ゆらぎ」が生まれるのです。
このゆらぎによって脳は混乱し、自律神経が乱れてしまいます。これがさまざまな更年期症状の原因です。ホットフラッシュや発汗、イライラ、憂うつなどは、典型的な自律神経失調症状です。
更年期前後の注意点
更年期前(プレ更年期)
エストロゲンは、30代後半から徐々にゆらぎ始めます。そのため、人によっては、このくらいの年齢から月経の乱れが現れます。
- 月経の周期が乱れてきた
- 月経の量が多くなった または、少なくなった
- 1回の月経が短くなった
こうした変化が続くようになったら、エストロゲンがゆらぎ始めてきたサインかもしれません。
閉経後
閉経すると、卵巣からエストロゲンが分泌されなくなるので、ゆらぎも収まります。一方で、骨や血管を守ってくれていたエストロゲンの効果もなくなるので、骨粗しょう症や動脈硬化、脂質異常症などの病気のリスクが上がります。閉経後はこのような病気にも十分注意が必要です。
セルフケアでゆらぎを小さく
エストロゲンのゆらぎを抑え、自律神経のバランスを整えるためには、規則正しい生活を送ることが大切です。栄養バランスの取れた食事、適度な運動、質のいい睡眠を心がけるようにしましょう。
ストレスや自分を追い詰めるような考えも、更年期症状を悪化させてしまいます。仕事も家事もこれまでの70%くらいできていればよしとして、自分を優しくいたわることも意識してみてください。
年齢を重ねることに対しては、後ろ向きの考えになりがちですが、「アンチエイジング」ばかりでは疲れてしまいます。更年期を「自分の心と体を見直すいい時期」だと捉え、「ウェルエイジング」すてきな年のとり方を考えることもおすすめです。
婦人科のかかりつけ医を持とう

女性は40歳を過ぎると、ホルモンバランスが大きく変化しがちで、子宮体がんや卵巣がんのリスクも上がってきます。また、更年期と思っていたら、実は甲状腺の病気やうつ、関節リウマチ、メニエール病、貧血、五十肩など、ほかの病気が隠れていたということもあります。そのため、女性の体をトータルに相談できる婦人科のかかりつけ医をもつことが勧められます。
日本女性医学学会の「女性ヘルスケア専門医」に認定されている医師は、更年期を含めた女性のヘルスケアについての専門的な知識をもっています。同学会のホームページで、全国の専門医を検索することができます。