食道がんの治療とリハビリ 入院期間や内視鏡治療、手術について

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食道がんやせてきた下腹部痛がある体がだるい胃・腸・食道

病期に応じた治療とは

食道がんの進行度を判別するための要素

食道がんの進行度は、がんが食道の壁のどのくらい深くまで達しているか、食道の周囲のリンパ節に転移があるかどうか、他の臓器への転移があるかどうかの3つから判断されます。病期は0期からⅣ期までの5つに分類され、病期ごとに標準的な治療法があります。

食道がんの進行度と治療法の表

0期は、がんが粘膜内にとどまっていて転移のない段階をいい、内視鏡治療が選択されます。
ⅠからⅢ期は、手術を中心とした治療法が標準的ですが、抗がん剤と放射線を併用する化学放射線療法という選択肢もあります。
Ⅳ期は、化学放射線療法や抗がん剤が基本ですが、痛みを緩和するための放射線治療や、がんによって食道が狭くなるのを防ぐための治療が行われることもあります。

がんの治療方法は進行度によって決まりますが、進行度が同じ人でも必ずしも全く同じ治療をするわけではありません。それぞれの治療にはメリット・デメリットがあるので、治療方法を決める上では本人の希望も大切です。

食道がんの内視鏡治療

内視鏡治療

内視鏡治療は、がんが粘膜内にとどまっていて、リンパ節への転移がない場合に行われます。内視鏡を食道に挿入し、モニターを見ながらがんを切除します。万が一、がんが残ってしまったり、リンパ節転移の危険があったりする場合は、追加治療として手術や化学放射線療法などを加えて行います。

現在行われている治療法は、電気ナイフで病巣をはがし取る、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流です。
内視鏡治療では、まれですが出血や食道の壁に穴があくなどの合併症の危険があるため、数日間の入院が必要です。

食道がんの手術

食道がんの手術

食道がんの手術は、がんが粘膜筋板に接するか、それより深く入り込んでいる場合に行われます。がんの深さは治療法を決定するための重要な目安です。

食道だけでなく周囲のリンパ節も切除しますが、食道の上部(頸部食道)にがんができた場合は、喉頭も一緒に切除しなければならないこともあります。胸の部分にできた場合は、食道とともに胃の一部を切除し、残った胃や腸をつり上げて食道を再建する手術が行われます。

食道の位置を示すイラスト

食道は体の背中側にあるため、食道に到達するためには体の表面だけでなく、肋骨や、肋骨と肋骨の間を切る必要があります。手術は、胸とお腹、首の3つの部分を切開していく大がかりな手術のため、全身麻酔で6~8時間かけて行われます。入院期間は3~4週間で、その間にリハビリも行います。

傷が小さく負担の少ない胸腔鏡手術・腹腔鏡手術が普及しつつある

胸腔鏡手術に使う細長い道具

最近では、傷が小さくてすむ胸腔鏡手術や腹腔鏡手術も普及しつつあります。胸腔鏡や腹腔鏡と呼ばれるカメラのついた手術器具を使って、ほかの臓器を傷つけないように、慎重にモニターを見ながら食道や食道の周りのリンパ節を切除していきます。切開する手術に比べて患者への負担が少なく、手術後の回復も早いことから注目を集めています。ただし、高い技術を要する手術のため、今のところ、受けられる医療機関が限られています。

食道がんの手術後のリハビリ

手術後のリハビリ

食道がんの手術の後は、深い呼吸ができない、声がかすれる、のみ込みにくいなどの症状が現れるケースがあります。手術後の回復を早め、合併症を防ぐために必要なのが、リハビリです。

かつては大きい手術の後は絶対安静といわれていましたが、最近では、手術後、できるだけ早く起き上がり訓練や歩行訓練を行います。心肺機能と全身の筋力を回復させることは、合併症を防ぐことにつながります。
食道を切除すると食べ物をのみ込むこと(嚥下[えんげ])がしづらくなるので、のみ込む訓練(嚥下リハビリ)も必要になります。水などの液体はかえってむせやすいので注意しましょう。

さらに、手術後は深い呼吸ができず、たんがたまりやすくなります。術後に肺炎を起こすと重篤になりやすく、命取りになることもあるので、たんを出す訓練も行われます。
手術で喉頭を切除した場合は、首の下に呼吸するための小さな穴「永久気管孔」を作ります。この気管孔が乾燥しないようにするなど、管理方法も覚える必要があります。

また、喉頭を切除すると声帯を失うことになるため、新しい発声法を練習します。胸の食道が残っている場合は、その食道を震わせて発声する訓練を行います。多くの人は、半年ほど訓練すると、会話ができるようになります。

食道がんの化学放射線療法

化学放射線療法の内容についてのイラスト

手術の代わりに、抗がん剤と放射線を組み合わせた化学放射線療法が行われる場合があります。
抗がん剤は、がんの細胞の増殖・分裂を阻害する効果があります。放射線は強いエネルギーの電磁波や粒子線でがん細胞を死滅させる治療です。抗がん剤と放射線と組み合わせることで効果を高めることが期待できます。

化学放射線療法の治療スケジュール

化学放射線療法の治療スケジュール

一般的な進め方は、放射線を週5回、6週間、合計30回当てます。1回の放射線の照射は15分程度で、外来で受けることも可能ですが、抗がん剤を併用するには入院が必要です。抗がん剤は週4~5日間を1コースとして、放射線治療中に2コース行います。放射線治療後に、さらに1~2コース抗がん剤を追加することもあります。

食道がんの治療の選択 手術と化学放射線療法の選び方

食道がんの手術は、大がかりな手術なので、負担も大きく、合併症を引き起こす可能性もあります。化学放射線療法を行う場合も、メリット・デメリットがあり、適切かどうかは人によって異なります。そのため、食道がんの治療をどのように行っていくか担当の先生とよく相談して、ご自身が納得のいく治療を受けることが大切です。

食道がんの治療を選択する方針を表したイラスト

Ⅰ期においては手術と化学放射線療法は、同程度の効果が期待できるとする報告があります。Ⅱ期とⅢ期においては、抗がん剤を投与して手術する方が良い成績を出しており、化学放射線療法が同程度の効果があるとは認められていません。そのため、原則として第一選択は「抗がん剤+手術」となっています。

しかし、体に合併症などがあって手術できない場合や他の病気がある場合、高齢の場合、手術を望まない場合は、化学放射線療法も選択肢の1つとして示し、検討することもあります。

食道がんの手術と化学放射線療法のメリット・デメリット

食道がんの手術と化学放射線療法のメリットデメリットを示した表

手術のメリットは、しっかりとがんを物理的に取り除くことができることです。一方でデメリットは、非常に負担が大きく時間も長くかかる手術であり、合併症が起こる可能性もあることです。重篤な肺炎が起こってしまった場合は、亡くなることもありえます。また、手術後に声がかれてしまったり、飲み込みがしにくいなどの障害が出ることもあります。

化学放射線療法のメリットは、切らずに済むので食道を温存できることです。デメリットは、治療を受ける3分の2の人でがんが残ってしまうことです。化学放射線療法だけで、Ⅱ期・Ⅲ期の人が治る確率は全体の3分の1程度なのです。一旦、消えたように見えても、またがんが出てきて手術が必要になったり、もしくは手術ができないところまで症状が進んでしまったりすることも起こりえます。また、一般的な副作用として吐き気やおう吐、腎臓の機能障害、血液細胞の減少などがあります。また、晩期毒性という合併症が出るおそれもあります。

さらに、化学放射線療法をした後に手術を行う場合は、最初から手術を選択したときより、リスクが上がってしまい、手術が難しくなってしまうこともあるので注意が必要です。

食道がんの治療選択の例: 頸部にがんが見つかったAさんの場合

食道がんの治療選択の例 頸部にがんが見つかった場合

Ⅱ期の進行がんの場合、基本的に第一選択は「抗がん剤+手術」となります。しかし、首の食道である頸部のがんでは、喉頭を含む食道を切除しなくてはならないので、声を出す機能を失う可能性があります。このような場合は、化学放射線療法を選択するなど、喉頭を温存する治療を検討することがあります。手術にするか化学放射線療法にするかは、担当の医師と相談してメリットとデメリットをよく理解して選択することが大切です。

【患者体験談】手術か放射線治療か

注目される集学的治療

最近の食道がんの治療には、手術・薬物療法・放射線療法を組み合わせた「集学的治療」があります。新しくなった「食道癌診療ガイドライン 2022年版」から一部抜粋して解説します。

ステージ2・3の治療

旧)薬物療法(シスプラチン+フルオロウラシル)→手術

新)薬物療法(シスプラチン+フルオロウラシル+ドセタキセル)→手術

これは「手術」を中心とした治療法ですが、手術前に「薬物療法」を行なってから「手術」を行います。これまで、手術前に行う薬物療法は、「シスプラチン」と「フルオロウラシル」という2つの薬を併用して使われてきました。しかし、今回、この2つの薬にさらにもう一つ、「ドセタキセル」が追加され、3剤併用で行うことが強く推奨されました。

以前から使われている2種類の薬を使ってから手術して、がんが消えた人はわずか2%でした。しかし、3種類の薬を使った後に手術すると、なんと20%近くの人が、手術後の病理検査で取り除かれた食道とリンパ節の中にがん細胞が残っていなかったのです。そのため、今回、ガイドラインではステージ2・3の場合、手術前に3種類の薬を使う治療法が「強く推奨」されることになりました。

この、手術前に3種類の薬を使う新しい治療法では、遠隔転移をして肺や肝臓まで達しているかも知れない「小さながん」もやっつけることができるという利点もあります。さらに、この段階で放射線治療を温存しておけば、がんが再発した場合などの“次の一手”として使えます。仮に、先に放射線治療を行なった場合、組織が固くなってしまい、後から手術が難しくなることもあります。

ステージ4・再発がんの薬物療法

旧)シスプラチン+フルオロウラシル

新)シスプラチン+フルオロウラシル+ペムブロリズマブ
新)シスプラチン+フルオロウラシル+ニボルマブ
新)ニボルマブ+イピリムマブ

切除ができないステージ4の進行がん、および、再発した食道がんには、これまでは、「シスプラチン」と「フルオロウラシル」が標準的に使用されてきました。この2剤に免疫チェックポイント阻害薬である「ペムブロリズマブ」、もしくは、「ニボルマブ」を加えた3剤を使用、あるいは、「ニボルマブ」と「イピリムマブ」の免疫チェックポイント阻害薬を2剤併用して使用することが今回強く推奨されました。その理由として、新しい薬物治療は、いずれも、以前の薬物療法より有意に生存期間が延びたことが挙げられます。

免疫チェックポイント阻害薬は、薬自体ががんを攻撃するのではなく、免疫の力でがんを攻撃するのを助ける働きをします。そのため、いったん効果があった人の中には、効果が非常に長続きする場合があることが報告されています。実際に、手術ができないくらいに、がんが広がってしまっていたステージ4の人が、がんが小さくなり、「手術」で取れるようになったケースや、劇的に効いてがんが消滅してしまったケースもあります。

食道がんのQ&A

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年6月 号に掲載されています。

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