早期発見が鍵を握る「拒食症」
拒食症とは
拒食症(神経性やせ症)は、食行動に異常が起きる摂食障害の1つです。食べ物を極端に制限する摂食制限型と、たくさん食べてしまったあとに吐いたり下剤を使ったりする過食・排出型に分けられます。思春期の女性に多く見られるのは摂食制限型で、最近は低年齢化が進んでいます。拒食症では、体重が少しでも増えることに極端な恐怖があり、十分な栄養がとれなくなってしまいます。
ダイエットと拒食症の違い
拒食症の初期はダイエットと見分けることが困難です。
やせるために食事の量を減らしたり、運動したりするのは通常のダイエットでもみられますが、ダイエットと拒食症は医学的に全く違います。

拒食症には、
- 体重が増えることに対する極端な恐怖
- 自分の体型を客観視できない
- 食事制限や過剰な運動をやめられない
といった特徴があります。
一般的な若い女性の中にもやせたいという願望を持つ人はいますが、拒食症の方の場合、体重が100グラム増えただけで人生に絶望したり、際限なく体重が増えていってしまうと錯覚するなど、極端な考え方をしてしまうことがあります。
拒食症になりやすい人とは


拒食症になりやすいのは、「真面目でいい子」「努力家」「自己主張が苦手で不安や不満をため込みやすい」といったタイプの人です。
発症のきっかけには、進級や進学などの環境変化、いじめ、受験の失敗や失恋といった挫折などがあります。
拒食症は死につながる危険な病気
拒食症では栄養を十分に摂取できないことで体と精神にさまざまな影響が現れます。

【体への影響】
- 不整脈・突然死
- 低血糖・昏睡(こんすい)
- 貧血
- 無月経・不妊
- 低身長・骨粗しょう症
【精神への影響】
- 集中力・判断力の低下
- 睡眠障害
- うつ
- 自殺
拒食症の患者さんは一般の若い女性に比べ、死亡のリスクが約10倍とも言われています。命に関わる危険な病気と認識したうえで、早期に適切な治療を行う必要があります。
拒食症に気づくためのサイン

食事の量が極端に減るほかに、「家族と食事をしない」「食べ物を細かく分ける」「食べていないのに活発に活動・運動する」「極端に体重が減ってきた、または体重の増え方が悪い」などが拒食症のサインです。サインを見逃さず早期に発見して、適切な治療を受けることが大切です。
拒食症が疑われる場合は、15歳以下なら小児科を、それより上なら心療内科や精神科を受診するとよいでしょう。
拒食症の治療

治療の柱となるのは、栄養療法と心理療法です。
栄養療法
栄養療法は、栄養状態を改善して、健康的な体重に戻すのが目的です。低栄養で生命の危険がある場合は入院が必要になります。

入院される患者さんの中にはご自身で食事をとることが難しいこともありますので、その場合、経鼻経管栄養(鼻から胃にチューブを入れて栄養剤を投与する治療法)が施されます。
判断力が低下して治療の必要性が理解できない方もいますので、まずはある程度、体重を増やすことが重要とされます。
また、退院後については、医師が必要な摂取エネルギー量を計算して、管理栄養士が献立作りのアドバイスをするなどの栄養指導を行います。
心理療法

心理療法では、拒食という手段に頼らなくても人生とうまくつきあっていくためのノウハウや考え方を身につけてもらいます。
子どもの拒食症に対する心理療法では、極端な考え方や捉え方を修正する認知行動療法を行います。そして、家族には患者さんへの接し方を学んでもらい、一緒に良くなる方法を考えていく家族療法が広く行われています。
拒食症の認知行動療法
拒食症の患者さんは、「やせていないと存在価値がない」、「100グラム増えただけで、際限なく太ってしまう」といった極端な考え方や物事の捉え方を持っています。
その極端さに気づくために、例えば食事日記をつけてもらうなどして、今より食べる量を増やしても際限なく太るわけではないことを体験したり、ストレスに対処するトレーニングを行ったりするのが認知行動療法です。
家族療法、家族の接し方について
さまざまな方法がとられる家族療法ですが、まずは家族が患者さんへの接し方を学び、一緒に良くなる方法を考えていくことが基本になります。

子どもが拒食症になると、母親は自分の育て方が悪いと考えがちですが、それは間違いです。無理やり食べさせたり、不安をぶつけたり、食事や体型のことで注意したりせず、温かく寄り添うように見守ってあげてください。また、言葉にして子どもをたくさんほめてあげましょう。
大切なのは、食行動や体型にかかわらず、存在そのものを認めて、愛してあげることです。家族だけで不安を抱え込まずに、医療機関を上手に利用し、医療者と一緒に解決策を考えていきましょう。