シェーグレン症候群とは

シェーグレン症候群は、1930年代にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンにちなんで名付けられた病気です。本来、自分の体を守るために働く免疫の“誤作動”により、全身のさまざまな臓器に炎症が起こる膠(ルビ:こう)原病の一つです。早く症状に気付いて、治療につなげることが大切です。
シェーグレン症候群の主な症状

免疫が上まぶたにある涙腺(るいせん)や唾液腺に反応することが多く、涙や唾液が出づらくなり、目が乾くドライアイや、口が渇くドライマウスの症状が現れます。

主な初期症状は、「ドライアイ」「ドライマウス」のほか、寒さや冷たい水などによって指先が青白くなる「レイノー現象」などです。唾液腺の一つである耳下腺(じかせん)や顎下腺(がっかせん)などに炎症が起こって腫れることがあります。
ほかに「疲れやすい」「関節が痛む」などの症状を伴うことがあり、症状が重くなると日常生活に支障を来します。進行すると肺や腎臓に重い障害が起こり、時には命に関わることもあります。長期にわたる治療が必要で、国の指定難病*の一つです。
*指定難病 原因がわからず、治療法が確立されていない難病のなかでも、一定の要件を満たす場合に医療費助成制度の対象となる病気。
ドライアイ

・目が疲れやすい
・目がゴロゴロする
・よく目が充血する
・悲しくても 涙が出ない
ドライマウス

・水が手放せない
・食事中よく水分をとる
・食べ物がのどを通りにくい
・口が渇き会話が続けられない
・虫歯
(唾液には口の中のウイルスや細菌の増殖を抑える抗菌作用がある。唾液が不足してドライマウスになると虫歯になりやすくなる。)
・口角に炎症
全身症状

これらの症状に加えて、全身の症状が現れることもあります。複数の関節に痛みや炎症が起こる多関節痛、多関節炎、筋肉の痛み、咳(せき)や呼吸困難を起こす間質性肺炎*、腎機能低下や腎不全になるおそれのある腎炎、手足のしびれなどを来す末梢(しょう)神経障害などが起こることもあります。このような症状が一度に複数現れることもあれば、少しずつ現れることもあり、よくなったり悪くなったりすることもあります。進行すると臓器に深刻な障害が起こり、命に関わることもあります。
また、シェーグレン症候群の患者さんの30~40%では、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど、ほかの膠原病が合併しています。
*肺の中の「間質」と呼ばれる組織に炎症が起こる
どんな人に多い?

50歳代に多くみられますが、子どもから高齢者まで、どの年代でも発症します。また、女性が全体の9割以上と、圧倒的に女性に多いのも特徴です。シェーグレン症候群の患者さんは、日本では約7万人とされていますが、身近な症状のために見逃されていることも多く、実際にはもっと多くの患者さんがいると考えられます。
シェーグレン症候群の受診
目や口が乾燥するなどの身近な症状のために見逃されやすい場合があります。ドライアイやドライマウスが長引く、あるいは日常生活に支障がある場合は、そのままにせずに、眼科や耳鼻咽喉科、歯科などを受診しましょう。その際に、「シェーグレン症候群は大丈夫でしょうか」と尋ねてみてもよいでしょう。シェーグレン症候群の可能性がある場合は、リウマチ科や膠原病科などの専門医を紹介してもらいましょう。
シェーグレン症候群の診断・検査

シェーグレン症候群の診断のためには、血液検査、生検病理組織検査、涙や唾液の分泌量検査などが行われます。
血液検査
自分の細胞や組織に反応する「自己抗体」の有無を調べます。
生検病理組織検査
涙腺や唾液腺の組織を採取して顕微鏡で観察し、免疫細胞が過剰に増加していないかを調べます。

写真は唾液腺の組織です。シェーグレン症候群では、腺の周囲に免疫細胞であるリンパ球が異常に多く浸潤します。4mm²あたり50個以上のリンパ球がある状態の場合には、シェーグレン症候群の陽性所見として判定されます。
涙の分泌量検査
シルマー検査や乾燥によって目の表面についた傷の程度を調べます。シルマー検査では1mm間隔の目盛りがついた専用のろ紙を両目の目尻に挟み、5分間でどのくらいの長さまで涙でぬれるかを計測します。5mm以下であれば、涙液減少を判定されます。

唾液の分泌量検査
サクソンテストが行われます。患者さんにガーゼを噛(か)んでもらい、ガーゼに吸収された唾液の重量を測定します。2分間で2g以下であれば、唾液分泌減少と判定されます。
シェーグレン症候群の治療法
シェーグレン症候群の治療では、それぞれの症状に対する(対症療法)が行われます。
ドライアイ

- 角結膜障害や目の乾燥を改善することを目的に、1日数回、目薬を点眼します。
- 症状が重い場合は、涙点プラグによる治療を行います。
ドライマウス

- セビメリン塩酸塩またはピロカルピン塩酸塩(いずれものみ薬)
唾液の分泌を促す効果があります。
唾液腺以外の腺組織も刺激するため、「吐き気」「動悸(どうき)」「発汗」などの副作用が起こることがあります。副作用と効果のバランスを考えて、薬の量が調節されます。
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう)(漢方薬)
- 人工唾液
1日数回、口の中に直接スプレーします。口腔(くう)内に潤いを与える効果があります。 - 保湿ジェル
口の中や舌に塗ります。
唾液腺の腫れ
耳下腺などの腫れが繰り返し起こる場合、ステロイド薬やセフェム系などの抗菌薬を使ったり、唾液腺を洗浄したりする治療を行います。
臓器障害
末梢神経障害、腎炎、間質性肺炎などが起こった場合には、ステロイド薬や免疫抑制薬を使って症状を抑えます。