高齢者の糖尿病 優しい治療方針へ

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高齢者にとって優しい治療方針へ

かつて「糖尿病の人は短命」と言われてきましたが、医療技術の発達によりこの30年間で糖尿病患者の寿命は10年も伸びました。寿命が伸びるということは、高齢の糖尿病患者が増えているということです。複数の病気を同時に抱えていることも珍しくない高齢者が、糖尿病と長年にわたってどのようにつき合っていくのか、という新たな問題が出現しています。そうしたなか、糖尿病の治療は、これまで行われてきた厳しい食事制限や運動療法など患者にとって負担の大きい治療方針から、より負担が少なく長く続けられる「優しい治療方針」へと変わってきています。

薬の服用

高齢者の場合、複数の病気を持つ人が多いので、薬の種類は多くなっていきます。薬ののみ合わせが悪いと、薬の効果が下がるリスクや、副作用が出るリスクがあります。そこで重要なのは、患者さんの病状全体を把握しているかかりつけの医師などに“薬の単純化”を相談することです。

糖尿病の治療では、インスリン注射も大きな負担となります。毎日4~5回打たなければならないことに加え、インスリンが効き過ぎると低血糖になってふらついたり、意識がなくなって倒れることもあるので、その心配が心理的なストレスになってしまいます。そこで、最近登場した新しい薬をうまく利用してインスリン注射の回数を減らすことができれば、患者さんの負担を減らすことができます。
そんな新しい薬の一つが、SGLT2阻害薬です。この薬は、ブドウ糖を尿から排泄するのを促して血糖値を下げます。GLP-1受容体作動薬は、すい臓からのインスリン分泌を高めますが、血糖が低い時にはインスリン分泌を高めないので、低血糖を起こしにくい薬です。また、中枢に作用して食欲を抑制するので肥満にも効果があります。
たとえばインスリン注射を1日に複数回行っている人の場合、SGLT2阻害薬を追加することで、1日1回の持続効果型インスリンのみにできることもあります。また、インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤も、うまく使えばインスリンの使用回数を減らすことができます。

糖尿病の食事制限の緩和

以前は糖尿病と診断されると、厳しい食事療法・カロリー制限などの治療方針がとられることが多く、平均的な50代の男性の方の場合「1日1800キロカロリーまで」といった指導を受けていました。しかし実際には1日2200キロカロリーほど消費しているため、このような食事を続けるのは、かなり苦痛なことです。
そこで最近では、「エネルギーを消費した分だけ、ちゃんと補給しましょう」という方針に変わっています。さらに65歳の以上の人では、筋肉が衰えていくサルコペニアによって要介護状態になるのを防ぐためには、きちんとカロリーをとることが重要になってくるので、それ以上のカロリーも許容する、という治療方針になっています。

現在の食事療法の基本的な考え方では、高齢者はまず、体重、年齢、病状、臓器障害などから目標体重を設定してエネルギー摂取量を決めます。エネルギーの元となるのは炭水化物とタンパク質と脂肪ですが、炭水化物は目安としては40~60%、たんぱく質が20%です。たんぱく質は、魚・豆類を中心にとることが勧められます。残りが脂質ですが、これは動物性脂肪ではなく、魚の中に含まれる不飽和脂肪酸がお勧めです。緑黄色野菜、根菜、海藻など食物繊維の多いものも積極的にとります。骨の健康も重要なので、カルシウムやビタミンDを積極的にとりましょう。また、血圧を上げる塩分のとり過ぎには気をつけましょう。

おすすめの運動療法

運動は血糖値を下げることに加え、高齢者に多い高血圧、脂質異常症、身体機能低下の改善にも効果があると考えられていて、認知機能低下やうつ状態の改善に効果があるという報告もあります。糖尿病の運動療法として推奨されているのは、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動、スクワットやかかと上げなどのレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)、片足立ちなどのバランス運動、筋肉や腱を伸ばすストレッチ運動です。また、有酸素運動とレジスタンス運動を単独でするよりも、両方を組み合わせると血糖値の抑制に効果があるという報告もあります。さらに複合的な運動である太極拳やヨガ、ピラティス、気功などもお勧めです。

糖尿病の運動療法

しかし高齢者の場合、できる運動が限られている人も少なくありません。そんな人にお勧めしたいのは“非運動”です。これは「運動しない」ということではなく、日常生活の中で、なるべく体を動かす工夫をしようということです。ポイントはじっとしないということです。

なるべく立つ、つま先立ち・足踏み

姿勢を正す、伸び・屈伸

階段を使う、一駅歩く・遠回り

「非運動」なら高齢者でも無理なく続けられます。糖尿病予防につながる習慣として、若い人たちにもお勧めです。

糖尿病の人も健康な人と同じくらい長く生きられる時代になってきました。しかしこれは、早期に診断を受けて適切な治療を受ければ、ということです。適切な治療を受けなければ、さまざまな合併症につながる怖い病気であることに変わりはありません。しっかりと治療を続けていきましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2024年1月 号に掲載されています。

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