若い世代でも注意が必要な歯周病
一般的な歯周病なら歯槽骨が溶け出すのは40代以上になってからですが、10代~30代のうちに急速に歯槽骨が溶けてしまうことがあります。これを侵襲性歯周炎と言います。侵襲性歯周炎は自覚症状がない場合もあり、気づかないうちに進行していることがあるので注意が必要です。自覚症状がなくても1年に1回は歯周病の検査を受けることをおすすめします。
患者体験談 -実際にあったケース-
鈴木さん(仮名・50代女性)は、33歳の頃、左下の奥歯に突然違和感を覚えました。虫歯だと思った鈴木さんが歯科を受診してエックス線検査を受けると、問題があったのは歯そのものではなく、歯を支えている歯槽骨でした。歯の根元が見えてしまうほど歯槽骨が減っており、侵襲性歯周炎と診断されたのです。

侵襲性歯周炎の原因
侵襲性歯周炎は、特定の歯周病菌に感染していたり、歯周病菌の影響を受けやすい体質である場合に起こりやすいと考えられています。
歯周病菌は何十種類も存在しますが、その1つであるアグリゲイティバクター・アクチノマイセテムコミタンス、通称A.a.(エーエー)菌に感染していると、侵襲性歯周炎が起こりやすいのではないかといわれています。
A.a.菌は、一般的な歯周病菌よりも強い毒を排出するため、プラークの量が少なくても歯ぐきなどに炎症が起こりやすく、歯周病が進行しやすいと考えられています。

侵襲性歯周炎の感染経路
歯周病の感染経路の多くは唾液感染で、A.a.菌も同様だと考えられています。唾液感染は、家族で食器を共有することなどで起こるので、侵襲性歯周炎がある場合は、その人の家族も感染している可能性が高いと考えられています。
侵襲性歯周炎の検査
A.a.菌に感染しているかどうかは、PCR法という検査法で調べます。
PCR法は、新型コロナウイルスの感染を調べる際にも用いられる治療法ですが、顕微鏡では判別できないほどの小さな細菌を見つけるときなどにも有効です。
PCR法では唾液を採取し、歯周病菌などのDNAを増殖させます。それを分析し、口の中にいる歯周病菌の種類や量を測定することができます。
30代までにエックス線検査で歯槽骨が溶けていることが確認できた場合は、侵襲性歯周炎と診断されます。

侵襲性歯周炎の治療
侵襲性歯周炎の治療の基本は、一般的な歯周病の治療と同じくプラークコントロールやスケーリングでプラークや歯石を取り除くことです。
ただし、侵襲性歯周炎は、プラークや歯石の量が少なくても炎症が起こりやすいので、3か月に1度を目安に歯科を受診し、定期的な口腔ケアを受けることが大切です。
A.a.菌に対して抗菌薬を使うこともありますが、抗菌薬を使い続けていると耐性ができて効きにくくなるため、最近では積極的に使うことは少なくなっています。
歯周組織再生療法
溶けてしまった歯槽骨を再生させる、歯周組織再生療法という治療法があります。侵襲性歯周炎だけでなく、一般的な歯周病で重症の場合にも行うことがあります。
歯ぐきを切開してたまった歯石を除去し、歯と歯ぐきの間に、歯槽骨を再生させる特殊な薬を注入します。6~9か月ほどで再生した歯槽骨が確認できるようになり、1~2年かけて徐々に再生していくことが期待できます。治療は基本的に1度受けるだけで済みます。

注入する薬には2種類あります。
1つは、EMDという豚の歯の組織のタンパク質を精製したものです。
もう1つは、トラフェルミンという薬で、bFGFという人間の遺伝子を組み換えて作られたタンパク質を主成分としたものです。
EMDは自由診療で1本あたり5~20万円、トラフェルミンは保険診療で1本あたり1~2万円(3割負担の場合)と、それぞれに特徴があるので、治療を受ける際は歯科医師の説明を受けたうえでどちらかを選択します。
