インプラント周囲炎とは
インプラントは、自分の歯が失われたときに人工の歯に置き換える治療法の1つで、金属製のボルトをあごの骨である歯槽骨に直接埋め込みます。

インプラント周囲炎は、インプラントの周りに起きる歯周病で、一般的な歯周病と同様に、プラークや歯石の中にある歯周病菌が毒素を出すことで起こります。
そのままにすると、歯と歯ぐきのすき間に歯周ポケットが生じ、そこに歯周病菌が入り込んで、インプラントを支えている歯槽骨を溶かしてしまいます。進行すると歯槽骨が溶けてインプラントを支えきれなくなり、場合によってはインプラントを取り除かなければならなくなります。
一般的な歯周病よりも進行が早い
インプラント周囲炎は一般的な歯周病の2〜5倍の早さで進行すると言われています。日本歯周病学会が行った調査では、インプラントの治療を受けてから3年以上たった患者さんの約1割にインプラント周囲炎が起きていました。

考えられる原因

通常、歯と、その土台となるあごの骨の間には、クッションの役割をする歯根膜があります。歯根膜の中には歯周病菌が起こす炎症を抑える免疫細胞がいます。ところが歯が失われると、この免疫細胞がいる歯根膜も一緒になくなってしまいます。そのため、歯の代わりに入れられたインプラントの周囲では歯周病菌が増殖しやすくなり進行が早くなると考えられているのです。
インプラント周囲にも歯石はできる
インプラントは歯槽骨と直接結合しているため、プラークや歯石が入り込むすき間はないと思われがちですが、健康な歯と同様にインプラントの周りにも歯周ポケットは生じます。そのすき間にプラークがたまるとやがて歯石に変化します。インプラント周囲炎を予防・改善するためには、正しい歯磨きを行い、歯科で定期的なメンテナンスを受けることが重要です。

写真提供:東京医科歯科大学講師 水谷幸嗣
患者体験談 -実際にあったケース-
Iさん(50代・女性)は奥歯にインプラントを入れてから2年後、インプラントの周囲に痛みを感じました。数か月後には耐えられないほどの痛みになり、歯科を受診したところ、インプラント周囲炎と診断されました。このままだと症状が進行して歯槽骨が溶けてしまう可能性があったため、インプラントをいったん除去し、膿の除去などの治療を受けることになりました。
インプラントを入れたとき、Iさんは歯科医師から「インプラントは一般的な歯周病よりも進行が早いため、これまで以上のケアが必要」と伝えられていました。ところが、Iさんは「インプラントを意識して歯磨きをしていなかった」と言います。

取り除いたインプラントは再び入れることはできない
治療を受けて炎症が落ち着いたことが確認できれば、新しいインプラントを入れることができます。ただし、細菌感染のおそれがあるため、取り除いたインプラントを再び入れることはできません。
歯周病予防のためのセルフケア
インプラントや入れ歯、ブリッジなどの義歯があると、磨き残しが増えやすく、歯周病が起こりやすいと言われています。
ここからは、歯周病を予防するための義歯のケアのポイントを紹介します。
「歯のセルフケア」についてはこちら
歯を守る!歯周病を防ぐ歯のセルフケア
インプラントには「ワンタフトブラシ」を使用
インプラントの場合のケアも基本的には自分の歯と同じように行いますが、インプラントの義歯と部分とボルトの間にはすき間が生じやすいので、小さな毛束のワンタフトブラシという歯ブラシを使うのがおすすめです。
ワンタフトブラシの毛先を歯の根元に入れて細かく動かします。

ブリッジには「歯間ブラシ」を使用
ブリッジは、失った歯の両隣の健康な歯を削って、人工の歯を上からかぶせる義歯です。義歯の根元はすき間ができやすく、磨き残しが起こりやすいので、歯間ブラシを使ってケアするのがよいでしょう。

部分入れ歯を外してから磨く
部分入れ歯は、失った歯の両隣の歯に金属製のフックを掛けて固定する義歯です。取り外しができるので、義歯自体は磨きやすいのですが、気をつけるべきなのが、金属のフックを掛ける両隣の歯です。
汚れがたまりやすいので、部分入れ歯を外したあとは必ず、義歯と接するところを歯ブラシでしっかりと磨くことが大切です。

