スキルス胃がんの診断と治療

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胃がん吐き気やせてきた食欲がない胃・腸・食道

発見しにくい「スキルス胃がん」

スキルス胃がん名前の由来

スキルス胃がんは、ギリシア語で「かたい腫瘍」を意味する「スキロス」という言葉に由来します。その名の通り、スキルス胃がんは、胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくタイプの胃がんで、胃がん全体の約20%を占めると言われています。
スキルス胃がんは、比較的発見がしにくく進行が速いため、発見されたときは既にリンパ節や腹膜に転移していることも少なくありません。胃の粘膜の表面から発生する通常の胃がんと違い、がん細胞が塊をつくらずに、ばらけて、胃壁の内部を這うように広がっていくため、内視鏡検査でも早期発見が容易ではありません。

スキルス胃がんの診断

スキルス胃がん 早期と進行期の内視鏡画像

スキルス胃がんは、こぶや潰瘍が見られる一般的な胃がんと違って、表面の変化が少ないこともあり、早期発見の難しいがんですが、進行して胃の粘膜のひだが大きくなったり、滑らかさがなくなったりすれば、内視鏡検査で確認できる場合もあります。また、スキルス胃がんは、胃壁が硬くなり、胃の柔軟性が失われるという特徴があるので、内視鏡検査で胃に空気を入れて膨らませたとき、胃が膨らみにくかったら、スキルス胃がんを疑うこともあります。症状がある場合には、早めに内視鏡の検査を受けることが大切です。

スキルス胃がんの治療

スキルス胃がんも一般的な胃がんも、基本的に治療法には大きな違いはないため、がんの「進行度合い」に合わせて、手術、薬物療法、放射線療法を行います。がんが胃に留まっている場合、一般的な胃がん同様、スキルス胃がんも手術による切除が中心になります。他の臓器への転移が見られる場合、基本的には手術では取り切れないために、薬での治療が中心になります。

HER2陽性の場合に使用する薬
HER2陰性の場合に使用する薬

薬による胃がんの治療では、がんの特徴を調べて薬剤を検討することが重要です。一つの指標になるのは、HER2というタンパク質です。日本では、HER2が陽性の人が約15%、陰性の人が約85%とされています。他にはPD-L1というたんぱく質が発現しているか、MSI(マイクロサテライト不安定性)が高いかどうかも使う薬を決めるための指標になります。
HER2が陽性の場合は、「フッ化ピリミジン+プラチナ製剤」という2剤を併用し、さらに、HER2に特異的に結合する分子標的薬の「トラスツズマブ」を使います。一方、HER2が陰性の場合は、同様の化学療法に、免疫チェックポイント阻害薬の「ニボルマブ」という新しいタイプの薬をさらに加えます。この薬はPD-L1の発現が高い・マイクロサテライト不安定性が高いという性質があると、特に効果が大きいことが報告されています。

期待される新しい薬物療法

ゾルベツキシマブ

スキルス胃がんに対する治療の効果は、まだまだ万全ではありませんが、新たな臨床試験で新しい標的や新薬の有効性が報告されています。その一つとして、期待されているのが、「クローディン18.2」というたんぱく質を標的にして、がん細胞を攻撃する薬剤「ゾルベツキシマブ」です。
このたんぱく質は、正常な胃では、粘膜の細胞と細胞の間にあって、細胞同士をくっつける役割をしています。しかし、がん化が起こると、細胞がばらけてきて、このたんぱく質が表面に出てくるので、がんを叩くための標的になるのです。クローディン18.2は、胃がん患者のおよそ4割で発現が高いと報告されています。スキルス胃がんでも、やはり4割前後で陽性となるので、スキルス胃がんの治療としても期待されています。
全世界で協力して行われた治験(第三相臨床試験)では、「クローディン18.2陽性」で切除不能な胃がん患者さんに対する最初の治療として、これまでの標準化学療法にゾルベツキシマブを加えた患者さんと、これまでの標準化学療法だけを行う方を比較したところ、がんが悪化するまでの期間や、生存期間を有意に延長することが示されました。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年6月 号に掲載されています。

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