性差医療 男女の体はどうしてこんなに違う?その秘密は女性ホルモンにあり!?

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要注意!女性特有の病気の起こりやすい時期

病気の男女差を理解し、男女それぞれに最適な医療を提供しようとするのが【性差医療】です。そんな性差医療が取り組む大きなテーマが【女性に特有の病気が起こりやすい時期がある】ということです。

記事「病気の起こり方も薬の副作用も男女で違う 見逃されてきた性差医療」

例えば下の図は、女性に多い微小血管の狭心症、その胸の痛みが起こった年齢を示したものです。46~50歳に集中しています。これは女性の更年期の時期とほぼほぼ重なります。更年期とは、閉経に向けて女性ホルモンが急激に減っていく時期。実は、女性は、女性ホルモンが激減する更年期以降、さまざまな病気のリスクが高まっていくのです。

微小血管狭心症の胸痛が起こる年齢

女性の健康を支える女性ホルモン

女性ホルモンは卵巣で作られているホルモンで、その役割は卵子を成熟させ、育てること。
しかし、それだけではありません。
女性ホルモンは女性の健康を守るのに重要な役割を担っているのです。

女性ホルモンの重要な役割 血管を守る

女性の健康を守る上で、女性ホルモンが果たす最も重要な役割が血管を守るということです。
女性ホルモンがどのように血管を守っているか調べる実験を行いました。

下の図は血管の内皮を構成する細胞を顕微鏡で拡大した画像です。血管内皮細胞が集まった膜を針でひっかくと、大きな傷ができます。

血管の内皮を構成する細胞を顕微鏡で拡大した画像

ここに女性ホルモンを加えてみます。
すると徐々に細胞が増殖し、傷を埋めていき、最終的に元通りになりました。

傷が治った

私たちの血管の内皮の細胞は、血流の影響で常に傷ついています。女性ホルモンがあると、傷はただちに修復されます。こうして、女性ホルモンは血管を守っているのです。

そんな重要な役割をしている女性ホルモンですが、女性は更年期を迎える40歳過ぎから急激に減ってしまいます。その結果、血管内皮の傷の修復は遅くなります。

女性ホルモンが少なくなるとこんな病気に

血管内皮を傷ついたままにしておくと、そこにアテローム性動脈硬化というこぶができ、血管が詰まりやすくなります。例えば、心臓の血管が詰まると【狭心症】や【心筋梗塞】、脳の血管が詰まると【脳梗塞】になるリスクが高まります。

また、女性ホルモンの減少は、骨の内部にも大きな影響を与えます。
古い骨を溶かす破骨細胞の働きが過剰になり、骨がどんどん溶かされ、【骨粗しょう症】になるリスクが高まります。他にも【肥満】【糖尿病】【認知症】など、さまざまな病気のリスクが一気に高まると言われているのです。

アプリで病気リスクから女性を救う

今、性差医療の新しい挑戦が日本で始まっています。
女性ホルモンの減少という特別な事情を抱えた女性たちの健康を守るため、アプリが開発されました。女性外来を訪れた3万人分の受診データを入力。統計解析し作られたもので、更年期の女性のさまざまな症状をもとに、隠された病気のリスクを予測することができるものです。
患者さんは、現在、感じている不調を打ち込みます。例えば、ある女性が体のむくみや手足の冷え、息苦しさなど打ち込んだ場合、リスクのある病気は心不全と判定されました。

女性たちの健康を守るアプリの画面
心不全のリスクがあると判定された画面

このアプリを使えば、患者さんは、更年期障害のせいで見過ごしがちな深刻な病気の可能性に気づくことができます。受診すべき診療科も分かりますし、アプリの結果を医師に提示することで、初診時に正確に症状を伝えることができます。診療時間の少ない中で、判断をくださなければいけない医師にとっても、このアプリによる事前のセルフチェックの結果は、診断を下すうえで重要な情報になります。

アプリの詳しい情報は👉こちら ※NHKサイトから離れます

(このアプリは、2024年には、一般向けに運用を始めることを目指しています。)

研究が進む更年期女性の病気予防 ホルモン補充療法

更年期の女性のつらい症状を緩和するため行われているのが、体内で減ってしまった女性ホルモンを外から補充する女性ホルモン補充療法です。補充薬には、のみ薬や貼り薬、ジェル状の塗り薬などさまざまなタイプがあります。日本で、健康保険の対象となっている治療です。実はこの女性ホルモン補充療法が、更年期障害の緩和のみならず、更年期から急増する女性の深刻な病気を事前に予防するのに役立つことが分かってきています。

女性ホルモン補充療法が広く普及しているアメリカでは、その効果について盛んに研究が行われています。
例えば、アメリカ西海岸、ラグナビーチという街で行われている、ホルモン補充療法を行う女性約5000人の健康状態を30年以上追跡した研究では、女性ホルモンを服用していた女性は、服用していない女性に比べて、心臓病や脳卒中リスクが20%~40%減少していることが分かりました。さらに、アルツハイマー型認知症も抑える可能性があることもわかりました。病気や老衰でなくなった人の数を調べたところ、女性ホルモンの服用を続ける年数が長いほど死亡率が下がり、長生きしている傾向が明らかになったのです。

全死亡率をあらわすグラフ

女性ホルモン補充療法の詳しい情報は👇
【メノポーズを考える会】
【日本女性医学学会】
※NHKサイトから離れます

人類の歴史から見たホルモンの性差

女性ホルモンは、体を保護したり、病気から体を守る作用が強いホルモンであることが分かっています。一方、男性ホルモンは、筋肉を増やしたり、骨を強くしたりなど、強い体を作る作用が主です。男女でなぜこのような性ホルモンの作用の違いがあるのでしょうか?
その理由は人類の進化の歴史にあります。女性は、妊娠・出産、そして育児を担うことが多かったため、病気にならない健康な体が必要でした。一方、男性は、狩猟や外敵と戦う役割を担うために強い体が必要だったと考えられます。こうした男女の役割の違いに合わせ、性ホルモンの作用が男女で違うものになっていったと推察されます。

救急医療で活用!?女性ホルモンのチカラ

実は、女性ホルモンを、女性のみなら男性の健康を守るためにも役立てようという研究が始まっています。それは救急医療の分野です。
事故やケガによる大量出血が起き、一刻を争う救急搬送が必要な場合、女性ホルモンが延命に使えるというのです。この研究、もともとは、米軍と大学の共同研究が始まりでした。戦場で亡くなる兵士の死因の80%は失血死です。戦場でケガをして出血し、病院に搬送される前に亡くなってしまうケースが多いため、延命を行える方法を模索していたのです。豚を使った動物実験の結果では、出血から何も手当をしないと5時間後の生存率73%だったのに対して、女性ホルモンを一回注射したところ、生存率が90%にまで高まりました。女性ホルモンを注射すると、出血で滞った血流が改善し、低下した血圧も上昇。心臓の筋肉も作用し心肺機能が向上、その結果、延命につながることが分かりました。現在、人での臨床試験が始まっています。
女性ホルモンが女性の体を守る機能を男性の健康を守るためにも利用する。まさに性差医療ならではの発想です。

国内での性差医療の動向については、性差医療の学会ホームページをご覧下さい。
【日本性差医学・医療学会】 ※NHKサイトから離れます

この記事は以下の番組から作成しています。

男性目線 変えてみた

「“男性目線”変えてみた 第1回 性差医療の最前線」
2023年4月29日(土)夜10時(総合)
NHKオンデマンド 配信ページはこちら

「“男性目線”変えてみた 第2回 無意識の壁を打ち破れ」
2023年4月30日(日)夜9時(総合)
NHKオンデマンド 配信ページはこちら