ビッグデータで医療が変わる!画像診断、ゲノム医療、ウェアラブルデバイス

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ビッグデータの活用で医療が変わる!

ビッグデータの活用で医療が変わる!

ビッグデータというのは、従来のシステムでは扱いきれないほど膨大で多種多様なデータのことです。データ処理技術や人工知能AIの急速な進歩によって、ビッグデータを医療分野で利用することが可能になってきました。たとえば「画像診断」。日本には、世界有数のMRIやCTなどの画像検査装置があって、大量の画像が撮られていますが、それを読影する放射線医師は少ない状況です。そこで、画像をすべて人間が見るのではなく、ビッグデータとしてAIに読み込ませることによって、がんなどの疑いのあるものを見つけ出せるように学習させ、それを診断に生かすという試みが既に始まっています。

また、さまざまな症状から病気を絞り込む初期の診断や、新薬を開発する際に有望で安全な物質を探し出す作業などにも、ビッグデータをAIで処理することが役立つのではないかと期待されています。
なかでもビッグデータが特に注目されているのが「診療情報」「ゲノム医療」「ウェアラブルデバイス」の3分野です。

診療情報

診療情報をビッグデータとして活用する取り組み

診療情報をビッグデータとして活用する取り組みのうち、比較的進んでいるのは、診療報酬明細書であるレセプトデータです。これは保険診療で行われた検査や治療などの記録で、既に200億件以上のデータが、個人が特定できない形で全国的なナショナルデータベースに収集されています。また、包括医療費支払い制度のデータや副作用情報なども全国的に収集されています。患者を診察する際、医師はこれまでに自分が得た知識や経験から判断していますが、それだけでなく、さまざまな医療機関の膨大な情報をビッグデータとして共有できれば、実際の臨床を反映したリアルなデータと照らし合わせることにより、効率よくより的確な診断ができると考えられています。また、患者さんがいくつかの医療機関にかかっていたとしても、その情報を共有できれば、より個人に合った治療が可能になると期待されています。

ゲノム医療

ゲノム医療
がん遺伝子パネル検査

ゲノムというのは、私たちの体の遺伝子の情報のこと。既に遺伝子の情報が有効に使われているケースの一つが、がんの治療です。がん細胞に、どんな遺伝子変異が起こっているのかを調べ、それを標的にしてがんを叩く分子標的薬による治療が行われています。肺がん・大腸がん・乳がんなどの「臓器ごとの治療」が、「どんな遺伝子変異があるかという情報に基づく治療」に変わりつつあります。がんの組織から大量の遺伝子情報を高速で読み取る装置を使って、がんに関連する遺伝子変異を一度に数百か所も調べる「がん遺伝子パネル検査」が可能になります。その情報に基づき、一人一人に合った治療を行うことができます。

遺伝子で病気のかかりやすさがわかる

PRS(多遺伝子危険指数)

遺伝子を調べれば、自分がどんな病気にかかりやすいか分かるようになってきました。2018年にはアメリカで、遺伝情報からさまざまな病気の発症リスクを計算するPRS(多遺伝子危険指数)が発表されました。狭心症や心筋梗塞、2型糖尿病などのかかりやすさを数値で示しています。遺伝情報なので生まれた時点の病気のかかりやすさですが、たとえば糖尿病では、血糖値や肥満度などのデータを加えれば、より精度の高い予測もできると考えられています。遺伝素因については人種による違いもあるので、日本人がさまざまな病気にかかるリスクを知ることができる計算式もいずれ出てくると期待されています。

ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスとはスマートウォッチなど、身に着けられる身体情報の測定装置のことです。脈拍や血圧、消費エネルギー、運動量、睡眠時間などのデータを24時間記録することができます。この情報は患者さんだけでなく、医療従事者も共有することができます。
たとえば、不整脈は健康診断などで数分間、心電図を調べただけでは見つからないことも少なくありません。24時間測定できるホルター心電計もありますが、少し大がかりになります。しかし、スマートウォッチのようなものなら、もっと手軽に調べることができます。実際に不整脈の一つの心房細動を検知する試みも行われています。また、24時間血糖値を調べることができる持続血糖測定器が各種販売されており、糖尿病の管理に役立てられています。
このようにウェアラブルデバイスの進歩には見るべきものがありますが、取得されるデータの妥当性については項目によって差があり、その精度については常に検証する必要があります。現時点では、医師による診療の補助情報という位置づけです。

オンラインで治療方針を決定

ウェアラブルデバイスが普及していき、血圧や心電図、血糖値の変化を自分でモニターできるようになれば、医師と患者さんはデータを共有しながらオンラインで治療方針を決定できるようになり、医療機関を訪れる回数を減らすことができます。さらに、自分の健康を自分で一元管理するきっかけにもなります。これがPHR(生涯型個人健康記録)という考え方です。
高齢者になればさまざまな病気を持っていて、いくつもの病院にかかっていることもあります。その診療情報と毎日の血圧、心電図、血糖値などの情報を統合して、患者さんが自ら健康管理に役立てられるようになれば、自分の健康や医療に主体的に取り組むことができるようになります。

日本の未来の医療とは?

注目されているコンセプト、デジタルツイン

今、注目されているコンセプト「デジタル・ツイン」とは、現実と双子のようにそっくりな仮想現実のこと。医療の分野で言えば、個人のゲノム情報、ウェアラブルデバイスから得られた情報、診療情報、ライフスタイルなどを反映する分身のようなものをデジタル空間の中に作れば、さまざまな治療法やライフスタイルの変化が個人の健康状態にどのように影響するかをシミュレーションすることができます。これを元に、医療従事者と患者さんの両方が納得した上で、個人に合った治療や生活改善を行うことが可能になります。

これまでの医療は病気をいかにして治すかということに尽力してきましたが、これからはそれだけでなく、健康な状態をいかに保つかということが重要になります。そのとき大切なのがセルフケアです。技術革新とそれに伴う医療費の高騰により、ライフスタイルに関係した病気の治療は、患者さんが自分で主体的に取り組む時代になります。ウェラブルデバイスによって得られる血圧、心電図、血糖値などのほか、各種の検査データや遺伝子データなどを有効に生かすことが求められます。そして、健康や病気に関する情報を見極めて批判的に評価し、活用するヘルスリテラシーが必要になります。

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    ニュース「日本の未来の医療とは?~日本医学会総会より~」