長引く「慢性めまい」の改善には「前庭(ぜんてい)リハビリ」が有効

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良性発作性頭位めまい症メニエール病前庭神経炎めまいがする

めまいの多くは、適切な治療を受ければ短期間で改善しますが、場合によっては長引き、慢性化してしまうこともあります。3か月間以上続くめまいを慢性めまいといいます。
「慢性めまい」を改善するためには、自分で行える「前庭(ぜんてい)リハビリ」が有効です。病気で低下した耳の機能を、もう片方の耳・目・足腰などで補うための訓練です。

慢性めまいの原因

加齢障害
持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)

耳の奥にある内耳(ないじ)が、何らかの原因で働かないことなどで起こります。原因はさまざまですが、内耳にある回転運動を感知する三半規管と、前後・左右・上下の運動を感知する耳石器(じせきき)の機能が、加齢によって少しずつ衰えることがその1つだと考えられています。また、内耳と脳をつなぐ前庭神経に障害が起こり、内耳からの情報がうまく脳に伝わらなくなる前庭神経炎や持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)という病気も原因となります。持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)は、急性のめまい発作が起こったあとに、視覚情報や足腰の筋肉などからの感覚情報に対して脳が適切に反応できず、浮動性のめまいが起こります。

記事「前庭神経炎とは 回転性の激しいめまいが特徴」
記事「前庭神経炎の治療徹底解説 薬物療法とバランスを鍛えるリハビリ」

慢性めまいの検査

重心動揺検査イラスト

前庭リハビリを行う前にはまず、問診と検査を行って、患者さんの状態を調べます。検査はいくつかの方法がありますが、その1つがバランス感覚(平衡感覚)を調べる重心動揺検査です。内耳や目、足腰の感覚情報、脳の機能の異常の有無などについて調べることができます。重心動揺検査は、重心動揺計に乗って、直立姿勢のときに現れる体の揺れを計測します。体の重心が揺れ動いた軌跡が線で示されます。線の長さや、線が動いた範囲の面積などを数値化し、評価します。

重心動揺検査軌跡

これは慢性めまいの患者さんの重心動揺検査の結果です。目を開いているときは体のバランスがとれていますが、目を閉じると体のバランスがとれなくなることが示されています。

前庭リハビリ

前庭リハビリのポイント

前庭リハビリのポイントは「補う・強化する・慣れる」です。

  • 補う・・・病気で衰えた機能を反対側の内耳や視覚などの感覚で補います。あるいは「感覚や機能を代行する」ことによって、めまいやふらつきを改善させます。
  • 強化する・・・内耳、目、足腰の感覚など、残っている機能を強化することによって、失った機能を補えるようにします。
  • 慣れる・・・めまいを起こすような動きを繰り返すことによって、それに慣れ、めまいを起こさないようにします。

実践!前庭リハビリ

自宅でできるリハビリです。めまいが慢性化している人だけではなく、高齢でふらつきがちな人にも効果が期待できます。転倒を防ぐために、日頃から行うとよいでしょう。

<注意>
・めまいの治療中の人は医師の指示に従いましょう。
・やりすぎに注意し、無理のない範囲で行いましょう。
・いすは安定したものを使い、転倒に注意しましょう。

目だけを左右に動かす

目の動きを安定させたり、めまいを誘発する動作を繰り返すことでめまいに慣れ、めまいを起こさないようにする効果が期待できるリハビリです。

目だけを左右に動かす

片手を前に伸ばし、親指を立てる。立てた親指の先を両目で見て、手だけをテンポよく左右に動かす。頭は動かさず、目だけで親指の先を追いかける。

【回数の目安】
50回1セット 1日2セット 毎日行うとよいでしょう。

首だけを左右に動かす

目で物の動きをスムーズに追う脳の機能や、内耳と脳をつなぐ前庭神経の機能を鍛えることができるリハビリです。目の動きが安定することで平衡感覚の改善が期待できます。

親指を両目で見続ける

片手を前に伸ばし、親指を立てる。手を動かさずに、頭だけを無理のない範囲でテンポよく左右に動かしながら、立てた親指の先を両目で見続ける。

【回数の目安】
50回1セット 1日2セット 毎日行うとよいでしょう。

歩きながら行う

十分に注意しながら段階的に行うリハビリです。まずは歩くことから始めて、それに慣れたら、頭を左右に振りながら歩くなど、少しずつ負荷のかかる歩き方を取り入れていきます。歩くときの感覚を脳が学習し、バランス感覚(平衡感覚)を鍛えることができます。

【回数の目安】
いずれかのリハビリを1回10分程度 1日2セット

歩きながら行う

頭を左右に振りながら歩く。

歩きながら行う(椅子から立ち上がる)

椅子から立ち上がって歩いたり、方向転換して歩く。

内耳の機能を補うデバイス

左右の内耳の両方がうまく働いていない場合には、前庭リハビリを行っても、症状がなかなか改善しないことがあります。そういう場合に、内耳の機能を補うためのデバイスが開発されています。今後、実用化が期待されます。

前庭感覚代行装置

前庭感覚代行装置

前庭感覚代行装置は、体の傾きの情報を、舌の表面に付けた電極に電気信号で伝える機器です。体の傾きを舌で感じとり、それによって体のバランスを調節できるように訓練します。この訓練でバランス感覚(平衡感覚)の改善が期待できます。

前庭感覚代行装置 イラスト

体が右に傾いた場合は、舌の表面に付けた電極の右側に微弱な電流が流れ、刺激を感じます。

ノイズ前庭電気刺激

ノイズ前庭電気刺激

ノイズ前庭電気刺激は、前庭神経が、うまく情報を伝えられなくなっている場合、耳の後ろに貼り付けた電極から微弱な電流を流して、前庭神経を刺激する機器です。この刺激によって、前庭神経から脳に送られる信号が強くなり、バランス感覚(平衡感覚)の改善が期待できます。機器を外したあとも、一定時間効果が継続します。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年5月 号に掲載されています。

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