手足やわきの下に大量の汗!「多汗症」最新治療が続々登場

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多汗症手・腕足・脚皮膚

多汗症とは

多汗症が出やすい場所

暑さとは関係なく、日常生活で困るほど多くの汗をかくのが多汗症です。悩む人が一番多い部位はわきですが、他に手足や頭部、顔面などにも現れます。部位によって発症する時期が異なっていて、手足は低年齢から、わきは思春期になったころ、頭部や顔面は成人してからが多くなっています。

手の多汗症
わきは思春期になったころから多くなる
成人してから頭部や顔面の多汗症が多くなる

多汗症によって困ることは、汗のせいで授業のノートがとれない、携帯電話やパソコンが不具合を起こす、汗染みが気になり気に入った服を選べない、対面の仕事がしづらい、親しい人間関係を作りづらいなど、多岐に渡ります。恥ずかしさから周囲に言えず、子どものころから悩んでいるという人も多く、部活動や職業を選ぶ際などにやりたいことを諦めてしまうケースもあります。

多汗症の汗が出る仕組み

多汗症の汗が出る仕組み

汗は、皮膚にある汗腺から出ます。多汗症はほぼ全身にある「エクリン汗腺」から出る、さらさらな汗が原因になります。人のエクリン汗腺の数は約200万~500万、大きさも個人差はありません。多汗症の人は、1つの汗腺から出る汗の量が多く、また、働く汗腺の割合が多いことがわかっています。はっきりした原因はわかっていません。

多汗症の多くは精神的な緊張による刺激で汗が出る

多汗症の場合、多くは緊張や不安、恐怖といった精神的なストレスなどの刺激により汗が出ます。精神的緊張がかかると、脳からの指令を受けて交感神経からアセチルコリンが放出されます。それがエクリン汗腺にある受容体に結合して、大量の汗が分泌されます。一度発汗すると止まりにくいのが特徴です。

多汗症の治療を考える目安は、支障をきたしているかどうか

多汗症の診断基準

多汗症の治療をするかどうかの目安は、「日常生活に支障をきたしているか」で判断すると良いでしょう。汗をたくさんかいていても、困っていない場合は治療する必要はありません。診断基準としては、まず原因不明の過剰な発汗が手や足、わき、顔、頭などの局所のどこかに6か月以上続いていること。さらに、次の6項目の打ち2項目以上を満たすものとされています。

①発症が25歳以下
②汗が左右同じくらい出る
③睡眠中は汗が止まる
④家族歴がある
⑤週1回以上汗で困ることがある
⑥日常生活に支障をきたすことがある

これらに当てはまり、治療を希望する場合は、皮膚科を受診するとよいでしょう。

部位別多汗症の治療法

手足の多汗症の場合

手足の多汗症の治療

多汗症の治療は、悩んでいる部位ごとにいくつかの選択肢があります。
例えば手足の場合、最初に使われることが多いのは「塩化アルミニウム製剤」です。数日かけて皮膚の表面に塗り、角質の外側に蓋を作って汗を閉じ込めます。ただ、およそ半分に肌がかぶれる副作用があるため、どうしても汗をかきたくないとき、例えば学校の試験や会社の面接などのときに事前に使うようにするのも良いでしょう。

塩化アルミニウム製剤の作用

「水道水イオントフォレーシス」は、水道水を入れた容器に手や足を入れ、専用の機器から微量の電気を流す方法です。この電流によって生じた水素イオンが汗腺の働きを低下させ、だんだん汗の量が減ってきます。

これらの方法で効果が見られない場合は「ボツリヌス毒素製剤」を注射する治療法もあります。交感神経からアセチルコリンが放出されるのを抑える働きがあります。

抗コリン薬の内服薬もあります。
抗コリン薬は、交感神経から汗を出すための指令を与えるアセチルコリンが汗腺に届くのを妨げることで、発汗量を減らします。副作用が比較的少ないのですが、夏に汗を止めると熱中症の危険も出てくるため、使用の際は医師とよく相談することをお勧めします。
(2023年5月に手の治療用の外用薬も登場)

抗コリン薬の内服薬

さらに他の方法が効かない程、重度の場合は、最後の手段として交感神経自体を遮断するという手術もあります。効果は期待できますが、神経を切るため、他の場所から大量の汗がでてくる「代償性発汗」という症状が起こります。
安易に行わず、事前に充分に医師と相談する必要があります。

わきの多汗症の場合

わきの多汗症の場合の治療
ボツリヌス毒素製剤の注射

わきの多汗症の場合も手足と同様の治療法がありますが、ボツリヌス毒素製剤の注射に関しては、わきの多汗症で「日常生活に頻繁に支障がでるほどの大量の汗が出る場合」に限り、保険が適用されます。

さらに、世界に先駆けて外用薬も出てきました。2020年に保険適用で抗コリン薬の塗り薬、2022年にはシート状のものも発売されました。のみ薬に比べて副作用のリスクが少なく、外用した部分にのみ作用する薬剤になるため、大きな選択肢となっています。

頭部や顔面の多汗症の場合の治療法は、塩化アルミニウム製剤を使うか、抗コリン薬を内服、あるいは自費でボツリヌス毒素製剤を投与するという方法になります。

周囲の人ができること

汗で困っている人が少なくないこと、汗には必要な役割があることなどについて多くの人が知り、「汗は不潔」などの否定的なイメージを変えることが大切です。特に家族や学校の先生が多汗症を理解し、配慮し、環境を整えるだけで、多汗症に悩む本人は生活しやすくなります。

多汗症は完治するのは難しいですが、コントロールすることは可能です。
多汗症についての理解を深め、うまく汗とつきあっていきましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年9月 号に掲載されています。

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