強い不安や恐怖を覚える夢が頻繁に現れ、睡眠が妨げられる「悪夢障害」に悩む人が増えています。また、睡眠中に突然大声を出したり暴れたりする「レム睡眠行動障害」は、背後に重大な病気が隠れている可能性があるため、注意が必要です。

睡眠を妨げる「悪夢障害」

悪夢障害は睡眠障害の1つで、年齢や性別にかかわらず起こります。主な原因はストレスです。「悪夢がこわくて眠れない」「悪夢のせいで憂うつな日が続く」「日中の行動が悪夢に影響されおろそかになる」などの特徴があります。悪夢の内容は起床後も覚えているのが特徴で、悪夢をみることで憂うつな気分が続き、日常生活に支障が出ます。
対処法

ストレスの原因を明らかにして、それに対処することが大切です。人間関係などストレスの原因を取り除きにくい場合には、日中の散歩などの適度な運動を取り入れたり、気晴らしになる行動を積極的に行うとよいでしょう。運動は気晴らしになるだけでなく、疲労回復のための眠りの必要性が高まることから眠りが安定すると考えられています。また、3つの快眠スイッチの「寝る前に副交感神経を優位にする」「体内時計を整える」「眠れなくても焦らない」ことを意識して、睡眠休養感をアップさせることも効果的です。
睡眠中にみる「悪夢」は珍しいことではありませんが、悪夢のせいで慢性的な睡眠不足になって日常生活に支障が出ている場合、精神科やメンタルクリニック、睡眠外来などを受診するとよいでしょう。
就寝中 叫ぶ・暴れる「レム睡眠行動障害」

睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠という2つの睡眠状態を周期的に繰り返しています。レム睡眠は体が深く眠っているのに対し脳が軽く覚醒している状態で、ノンレム睡眠は体も脳も眠っている状態です。夢はレム睡眠の状態で多くみるといわれています。
レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に「大声で叫ぶ」「悲鳴を上げて飛び起きる」「腕を振り回す」「隣に寝ている人をたたく・殴る・蹴る・首を絞める」などの症状が起こる病気です。誰かと争ったり、追いかけられているなどの悪夢をみているときに現れることが多く、夢の中で行っている行動が現実にも現れてしまいます。
通常、レム睡眠中は筋肉の緊張が緩んでいるので、夢の中で行動しても実際には体は動きません。しかしレム睡眠行動障害では、何らかの原因で筋肉の緊張を緩める機能が妨げられて、夢の中での行動がそのまま寝言や行動として現れると考えられています。男性に多く、加齢とともに増加していきます。
初めは言葉を発する程度なので周りの人に気づかれにくく、病気に気づいていないケースもみられます。進行すると徐々に激しい行動が増え、暴力的な行動がみられるようになることがあります。
原因
α(アルファ)シヌクレインという脳内物質が関係していると考えられていますが、明らかな原因はわかっていません。αシヌクレインは、パーキンソン病やレビー小体型認知症などと関係があるとされている物質です。これらの病気の初期症状としてレム睡眠行動障害が生じることがあります。また、レム睡眠に影響を与える作用のある抗うつ薬などが原因になる場合もあります。
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診断

睡眠中の様子は本人だけではわからないことが多いので、同居する家族などからの情報が重要です。病気が疑われる場合は、入院して検査を受けます。睡眠ポリグラフという機器で脳波や心電図を測りながら睡眠中の様子を動画撮影し、レム睡眠中に異常な行動が生じるかどうかを調べます。
また、パーキンソン病の特徴である手足の震えやぎこちない動き、自律神経症状、レビー小体型認知症による認知機能の低下などがないか確認します。
治療
抗てんかん薬のクロナゼパム(のみ薬)を使って治療します。症状を抑える対症療法です。多くの場合で改善が期待できます。

投薬治療と同時に、けがを防止するために寝床をベッドから床に敷く布団に変更する、ほかの人と同じ部屋で寝ないなどの工夫が必要です。
将来パーキンソン病やレビー小体型認知症につながる可能性があるので、定期的に医療機関を受診する必要があります。