「目先の目標」をコツコツと
慢性痛の治療には薬や手術などさまざまな治療法があります。2021年にまとめられた「慢性疼痛(とうつう)診療ガイドライン」で「強く推奨する」とされているものの一つに、運動療法があります。運動の利点は、正しいやり方を覚えれば、いつでも自分のペースで続けられることです。また、運動をすると脳内でドパミンという物質が放出されますが、このドパミンには痛みを和らげる作用があります。
運動とあわせて、痛みへの考え方を変える「心へのアプローチ」も行うことで、次第に痛みをコントロールできるようになってきます。
この2つを行うときのコツは、「長期的な目標」ではなく「目先の目標」を立てることです。長期的な目標を立てようとすると、「1年間毎日ストレッチをする」「痛みを完全になくす」などになりがちです。目標が自分自身へのプレッシャーやストレスになって、かえって逆効果になることもあります。
そこでおすすめなのが、短期的な目標です。今日や明日、今週などの目先の目標を立て、小さなことでもひとつひとつ達成していくことが大切です。それが「痛くても出来た」という自信につながり、やがては痛みが気にならないという状態につながっていきます。
運動する前に受診した方がよい腰痛

運動をする前に、危険な痛みがないかチェックしましょう。慢性腰痛の場合、「じっとしていても痛みが続く」「背中が曲がってきた」「お尻や脚がしびれる、脚のしびれによって長く歩けない」などの症状がある場合は、原因になる病気を知るため、まずは近くの整形外科などを受診してください。痛みの原因が重篤な病気ではないと診断された場合には、焦らず無理のない軽い運動から始めて、慣れてきたら負荷を大きくしていきましょう。目安としては、1週間同じ運動を行って、無理なく出来るようになったら次の運動に移ります。
慢性腰痛におすすめの4つの運動
≪監修≫
春山 祐樹(星総合病院 慢性疼痛センター 理学療法士)
下半身のストレッチ

太ももの裏とふくらはぎを伸ばすストレッチです。ストレッチや運動は、痛みから遠い部分から動かすことで、不安や恐怖を高めずに体をほぐしていくことができます。
【やり方】
- 椅子に浅く腰掛け、片脚を前にのばす
- 伸ばした脚のひざに両手をおく
- 足の指先を天井に向ける
- 軽く胸をはった姿勢のまま、ゆっくりと上半身を前に倒す
- 左右20~30秒を3セット行う
腰のストレッチ

下半身のストレッチが無理なく出来るようになったら、腰のストレッチです。
【やり方】
- あおむけになって両ひざを立てる
- 両ひざをつけたままゆっくりと倒す
ポイントは、肩甲骨が床から離れないようにすることと、呼吸を止めずに行うこと
ひざは床にぴったりとつかなくてもよい - 両ひざを反対側にたおす
- 1セット10回行う
ドローイン(体幹トレーニング)

腹部のインナーマッスル(腹横筋)を鍛える体幹トレーニングです。
【やり方】
- あおむけになって両ひざを立てる
- おへそをひっこめて、おなかに手をおく
- ひっこめた状態をキープしながら5秒ほど深呼吸する
ポイントは、息を吸っているときもおなかが膨らまないようにすること
フライングドッグ(体幹トレーニング)

体幹の筋肉を鍛える、負荷の高いトレーニングです。
【やり方】
- 四つんばいになり、おなかをひっこめる
- 片足を水平にあげて、目線は真下にする
ポイントは、腰も床と水平になるようにすること - 10秒間キープしたら、反対の脚も同じように行う
心へのアプローチ
運動とあわせて、心へのアプローチも行うことで、よりよい効果が期待できます。痛みに長く苦しんでいる人は「痛みのせいで自分の人生は終わりだ」などという極端な考えに陥ってしまうことがあります。心へのアプローチは、痛みに対する考え方を見つめ直し、「痛みがあってもできること」に目を向けられるようにする方法です。
おすすめの方法は、できた運動の回数をカレンダーや紙などに記録することです。その記録を1週間あるいは1か月経ったときに見返してみましょう。「痛くてもできたこと」を改めて自覚することが自信になっていきます。自分で立てた「目先の目標」を達成できたときには、自分へのご褒美などを用意し、自分の頑張りを認めることで、より継続しやすくなります。