身近な薬で起こる「薬剤性大腸炎」下痢や腹痛などの症状に注意!

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薬剤性大腸炎腹痛下痢がある胃・腸・食道

薬剤性大腸炎にご注意!

薬剤性大腸炎にご注意

薬の服用が原因で大腸炎が起こる薬剤性大腸炎。原因となる薬には、「抗菌薬」、血液の凝固を防ぐ「低用量アスピリン(抗血小板薬)」、解熱鎮痛薬の「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」、「経口避妊薬」などがあります。このような薬をのんでいて、おなかの異常が起こった場合は注意が必要です。

「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」と「低用量アスピリン」による大腸炎

高齢になると、変形性関節症や腰痛などのため、「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」をのむ人が増えます。また、動脈硬化も進んでくるので、心筋梗塞、脳梗塞などを防ぐため「低用量アスピリン」などの抗血小板薬の服用も増えます。この「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」と「低用量アスピリン」は、副作用として、胃・小腸・十二指腸・大腸に、ただれ・潰瘍・出血を起こす場合があります。しかも、この2つを両方使っていれば、そのリスクは大きくなります。高齢者、潰瘍になったことがある人、骨粗しょう症の薬(ビスホスホネート)を使っている人は、特に注意が必要です。大腸に炎症が起こった場合、下痢、腹痛、排便回数の増加、貧血などの自覚症状が現れます。

「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」によって大腸炎が起こった場合、まず、「服用の中止」が検討されます。中止が難しい場合は、できるだけ服用頻度を減らして潰瘍の症状を改善したうえで、再発を抑える効果のある「プロトンポンプ阻害薬」、あるいは、「プロスタグランジン製剤」を服用します。「低用量アスピリン」に対しても、「服用の中止」が考慮されますが、中止した場合、低容量アスピリンの服用で予防している病気が発症する危険性が高まるので、他の薬に変更できないか検討します。医師による個別の判断が重要です。

「抗菌薬」による急性出血性大腸炎

「抗菌薬」の服用によって、急性の出血性大腸炎が起こる場合もあります。抗菌薬による急性出血性大腸炎は、薬を服用してから2〜3日後に、突然、発症するのが特徴です。初めて発症したときは、水っぽい下痢、腹痛、血便などの症状が起こります。10〜20代の比較的若い人に発症することが多く、基礎疾患のない人に起こるのも特徴です。

急性出血性大腸炎は、主に「セフェム系」や「ペニシリン系」と呼ばれる抗菌薬で起こりますが、圧倒的に多いのは「ペニシリン系」の抗菌薬です。正確な原因ははっきりしていませんが、薬へのアレルギーが関係しているといわれています。

抗菌薬の服用を中止すれば、ほとんどの人が7日程度で治癒しますが、中止が難しい場合は、他のタイプの抗菌薬に変更することを検討します。抗菌薬による大腸炎を経験した人は、新しく抗菌薬の処方を受ける際に、「どんな抗菌薬で大腸炎を起こしたのか」を医師にきちんと伝えることが大切です。

「抗菌薬」による偽膜性大腸炎

抗菌薬による大腸炎では、腸の粘膜に「偽膜」という膜ができる偽膜性大腸炎が起こる場合もあります。

正常な場合と偽膜性大腸炎の写真

(左)正常 (右)偽膜性大腸炎

偽膜性大腸炎は、腸内のある細菌によって起こります。抗菌薬をのむと、腸内にいる多くの菌が減ってきます。しかしながら、腸内に抗菌薬に強い「クロストリジウム・ディフィシル」という菌がいると、この菌だけが大量に増殖してしまうことがあります。この菌が作る毒素によって腸の粘膜に生じた炎症が偽膜です。腸内にクロストリジウム・ディフィシルが常在している人は平均5%いると考えられています。また、病院のベッドや床などには、この菌の芽胞が広く存在しているという報告もあり、それが何かのきっかけで体内に入ってしまうこともあると考えられます。

偽膜性大腸炎は、抗菌薬をのみ始めてから1〜2週間で症状が現れるのが特徴ですが、薬の投与を終了してから症状が現れる場合もあります。主な症状は、水のような下痢、腹痛、おなかが張る、発熱などで、偽膜性大腸炎を起こしやすい抗菌薬の種類は、「セフェム系」や「クリンダマイシン」、「アンピシリン」とされています。高齢者、腎不全、がん、白血病などの重篤な基礎疾患を持つ人に発症が多くみられます。

偽膜性大腸炎を起こした場合は、まず、原因となった可能性のある抗菌薬を中止します。それでも改善しない場合は、さまざまな微生物への殺作用をもつ「メトロニダゾール」という抗菌薬や、クロストリジウム・ディフィシルに強い抗菌力を持つ「バンコマイシン」という抗菌薬を使用します。最近では、「フィダキソマイシン」という薬も使用可能になりました。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年3月 号に掲載されています。

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