つらい見た目の変化「アピアランス」の悩み
放射線や抗がん剤、分子標的薬など、がんのさまざまな治療は脱毛や肌荒れなど、見た目の大きな変化を引き起こします。
女性の乳がん患者さんに「治療に伴う苦痛」を聞いたアンケート結果でも、脱毛や乳房の切除など、見た目の変化が上位を占めています。

見た目の悩みはうつを引き起こしたり、患者さんを社会から孤立させてコミュニケーションをなくしたり、命を救う大切な治療を妨げることになることもあります。がんと闘う上で、非常に大きな問題なのです。
何が起こる?どうしたらいい?
がん治療では、どんな見た目の変化があるのでしょう。まずは脱毛です。必ず脱毛するわけではありませんが、抗がん剤や頭部への放射線治療により、髪の毛が抜けることがあります。治療によっては、髪の毛だけでなく、まゆ毛、まつ毛、体毛に及ぶ場合もあります。

男性の場合はウイッグなしで過ごす方も多いのですが、女性はほとんどの方がウイッグを使用します。ウイッグ選びのポイントは、「自分」がキーワードです。

毛が抜け始めるのは、抗がん剤治療をはじめて、早くて10日。だいたいは2、3週間後からです。あせらず、「似合う、素敵」と思えるものを選びましょう。値段は、自分がかける1年分の美容院代を目安にしてもよいでしょう。
爪への影響も、分子標的薬など新しい薬が登場したのに伴い、近年、問題となっています。変色したり、もろくなったり、割れたりすることもあります。

爪の先がもろくなってギザギザになったり割れたりした場合、マニキュアを塗ってから爪の先に合わせてシールを貼り、その上に重ね塗りして、補強することができます。伸びれば、そのまま切ればOKです。

変色はマニキュアでカバー。ハンドクリームを手に塗るときに、そのまま爪にも塗って保湿に気をつけましょう。
肌への影響もあります。抗がん剤や放射線などによって、湿疹や炎症、乾燥によるかゆみ、色素の沈着による黒ずみなどが現れます。特に、分子標的薬が登場してから、ざ瘡様皮疹(ざそうようひしん)といわれる、にきびのような皮疹なども生じやすくなりました。一部の薬ではチクチク、ピリピリとした痛みが現れることもあります。

ざ瘡様皮疹(※上の写真左上)
ざ瘡様皮疹などが進むと治療するしかありませんが、色素沈着は化粧品でカバーできますし、日焼止めも重症化予防に有効です。日常のケアのポイントは保湿と清潔です。
見た目の変化の悩みはコミュニケーションの問題
実は、見た目「アピアランス」の悩みというのは、人間関係、コミュニケーションの悩みと言い換えることができます。例えば、無人島に一人、という状況に置かれると、たいていの方が、見た目なんか気にしない、と言います。どこにいても、一人でも痛い「頭痛」や「吐き気」などと違い、見た目の悩みは、コミュニケーションの悩み、社会がなければ消えてしまいます。つまり外見の悩みは、社会、言い換えれば人との関係を悩んでいるということなのです。
実際、患者さんが外見を気にするときには、前提となる具体的なシーンがあります。その不安に思っていたシーンに対するゴールが見えれば、外見のことは、あまり気にならなくなってくるのです。
例えば、抗がん剤治療で脱毛し、ウイッグをつけて職場に復帰したとします。「髪型変えた?」とか聞かれたときに、どう答えるのかシミュレーションしておくだけでも、ずいぶんラクになります。「気分転換」と答えるのもいいでしょう。患者さんの中には「年下の彼氏ができたの」と答えた方もいます。病気の情報は重要なプライバシーなので、言う必要はないのです。
見た目の悩みであるアピアランスのケアとは、家族を含む人間関係の中で できるだけ今までどおり、その人が生き生きと過ごせるよう支援すること。そのために何ができるか、を一緒に考えることだと思います。悩んだら一人で抱え込まずに、身近な医療者に相談してみてください。
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