認知症のある人とその家族が避難生活を乗り切るための対処法

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セルフケア・対処認知症物忘れをする幻覚・妄想イライラする脳・神経

慣れない避難生活では、認知症が急速に進行したり、家族の負担がより大きくなったりすることがあります。認知症のある人とその家族が避難生活を乗り切るための対処法を紹介します。

被災時は認知症が進行しやすくなる

災害時には、慣れない避難所での生活など、環境が大きく変化することでストレスがかかり、体調が崩れやすくなります。このような環境の変化による悪影響を「リロケーションダメージ」といいます。特に認知症のある人は、不安や混乱から心や体の状況が悪化しがちになります。

東日本大震災の被災地で認知症のある人の調査をしたところ、「イライラして落ち着かない」「徘徊(はいかい)する」「家に帰りたがる」「興奮する」「攻撃的な言動が起こる」「失禁する」などの症状が現れていたことがわかりました。

避難所で目立った症状のアンケート結果

これらの症状は、避難所に到着した直後から起こり、多くは3日目までに現れていました。
大勢の人がいる避難所での生活で、特に大変なのがトイレです。自宅では、周りの目を気にせずに着替えたりおむつを替えたりすることができますが、避難所ではそれも難しくなります。家族は周りに迷惑をかけないかと気苦労が絶えません。

避難生活の負担を軽減するために

少しでも落ち着ける場所の確保

避難所では少しでも落ち着ける場所の確保を

個室を確保できるのが理想ですが、避難所では難しいことが多いのが現実です。避難所を担当する保健師などに、家族の認知症のことを伝え、静かな場所を希望したり、トイレに近い場所を希望したりするなど、本人が少しでも落ち着ける場所を使わせてもらえるように相談するとよいでしょう。
また、段ボールなどで仕切りをつくって居住スペースを囲むと、落ち着いて過ごしやすくなります。

顔見知りの近くに

顔見知りが近くにいれば安心につながり、症状が現れるのを抑えることが期待できる

ふだんからつきあいのある友人や親せきが近くにいてくれると安心につながり、症状が現れるのを抑えることが期待できます。同じ避難所に知り合いがいる場合は、協力を求めるとよいでしょう。また、避難所には、看護師やホームヘルパー、認知症の介護経験者などがいることがあるので、積極的に声をかけ、助けを求めることが勧められます。
周囲の人が、認知症のある人に声をかける場合は、本人の顔を見てゆっくり話しかけるようにしてください。また、家族にはねぎらいの言葉をかけるとよいでしょう。

福祉避難所の活用

可能なかぎり早急に「福祉避難所」を活用することが勧められます。福祉避難所とは、高齢者や障害のある人など、特別な配慮を必要とする人のための避難所で、一人一人のスペースが広かったり、使いやすいトイレが用意されていたりするなどの配慮がされています。現在、事前に福祉避難所として指定を受けている福祉施設などがあるほか、大きな災害が発生した場合には、障害者施設、公民館なども、福祉避難所に指定されます。

福祉避難所の写真
福祉避難所の利用の流れ

発災時は、認知症のある人も、まずは通常の避難所を利用します。その後、災害の状況を踏まえて福祉避難所が開設されると、自治体の保健師や職員などが聞き取り調査を行い、福祉避難所を利用する対象となるかどうかを判断します。必要性が高いと判断された人から優先的に移動できます。聞き取り調査の際には、家族が本人の状況をしっかりと伝えることが大切です。
福祉避難所には、家族も同行することができます。また、独り暮らしの場合は、友人や世話をしてくれる人などが1名程度同行することが可能です。

近所に伝える・名前書く

  • 避難所でのストレスを軽減するには、本人がふだん使っている毛布や枕、マグカップ、ぬいぐるみなど、「自分のもの」とわかるような“なじみのあるもの”を避難所に持っていくのが有効です。
  • 行方不明になるなどの事態を避けるためにも、身元がわかるように服や持ち物などに名前を書いておきましょう。
  • 非常時に家族だけで乗り切るのは困難です。避難の際に手助けしてもらうためにも、近所の人に家族の認知症のことを伝えておくことが勧められます。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年5月 号に掲載されています。

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    災害から命を守るために「認知症」