なぜ鼓膜に穴が?

耳は、“外耳”“中耳”“内耳”の3つの部位に分けられます。そして、中耳の入り口にあるのが鼓膜です。鼓膜が外部からの音によって振動すると、神経などを介して脳に信号が伝わります。ところが鼓膜に穴があいてしまうと音の信号をうまく脳に伝えることができなくなってしまいます。
鼓膜に穴があく原因は?

鼓膜に穴があく主な原因となるのが、中耳炎などの病気です。他にも耳かき中の事故や、ボールなどがぶつかったりする場合。また、飛行機に乗った時やダイビングでの急激な気圧の変化などによって鼓膜が破れることもあります。鼓膜は再生力が高いため、穴が小さい場合は、1~2か月ほどで自然にふさがりますが、場合によって穴がふさがらず、開いた状態のままになってしまうことがあります。
鼓膜に穴があくとどうなる?

鼓膜に穴があくと聴力が低下してしまいます。また難聴は、認知症の危険因子の一つだということが分かっています。ほかにも「耳鳴り」「めまい」などの不快な症状が生じ、さらに鼓膜に穴があると補聴器の効果も十分発揮できなくなります。
鼓膜の穴がふさがらない理由
鼓膜にあいた穴が大き過ぎると、組織が再生していくのを支える足場がないため、再生した鼓膜が反対側まで届かないことがあります。また、あいた穴から細菌やウイルスが耳の奥に入り込んで感染症を起こし、鼓膜の再生を妨げてしまうこともあります。
鼓膜再生療法とは?
これまで鼓膜の再生には「鼓膜形成術」や「鼓室形成術」といった外科手術が行われてきましたが、新しい治療法は手術の必要がなく入院の必要もありません。
鼓膜再生療法の手順

①鼓膜周辺に麻酔をかけた後、穴の周縁を切って除去します。すると、傷ついた部分を修復しようとして、組織幹細胞あるいは前駆細胞と呼ばれる鼓膜を作る元になる細胞が活性化して増殖が始まります。

②穴に、細胞の成長を助けるトラフェルミンという薬剤を浸み込ませたゼラチンスポンジを詰め、鼓膜の再生を促します。

③医療用の糊で覆い、接着・固定します。

④3週間ほどすると“かさぶた”が形成されますので、それをはがし、下に鼓膜が再生されていることが確認できれば終了です。
治療の現状
これまでおよそ500例、実施されており、そのうち85%ほどの患者で鼓膜が完全に再生し、聴力も大きく改善しました。ただし、1回の治療で完全に穴がふさがらない場合もあり、最大で計4回行います。完全にふさがらないケースがありますが、その場合でも小さな穴を残して、ほぼ再生されるため、処置前に比べ、聴力が上がります。
この治療法は、すべての患者に適用されるわけではなく、いくつかの条件があります。

「耳の穴が狭すぎない」こと。この治療は鼓膜を直視して行うため、耳の中が変形していたり、外耳道の壁が張り出している方は適用が制限されます。ほかにも「活動性の炎症がなく、鼓膜が乾燥している」こと。「鼓膜形成術・鼓室形成術の経験がない」ことなどが治療適用の条件にあげられます。
鼓膜再生療法の費用

2019年、保険適用になったため「鼓膜再生療法」自体の費用は、3割負担の場合、6000円程度です。ただし、治療前後の検査費や治療にかかる薬の費用などが3万円ほどになります。また、1回の治療で再生せず、複数回治療を受ける場合は、その都度この費用が必要となります。
これらはあくまで軽症で鼓室内の清掃などの必要がない患者さんのケースです。慢性中耳炎など、他の疾患をお持ちの方は、それにかかる治療費が別途必要になります。
現在、大学病院などを中心とした全国300か所以上の施設で受けることができます。治療を希望する方は、まずお近くの耳鼻科にお問い合わせください。