膀胱(ぼうこう)がんの最新治療 早期から転移までどの段階でも治療法が進歩

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早期がんの治療

膀胱がんの進行度は大きく「進行がん」「局所進行がん」「転移がん」に分かれます。これらの進行度に応じて治療法が異なります。

早期がんの治療

がんが膀胱の壁の最も内側の粘膜や粘膜下層にとどまっているのが、早期がんです。

経尿道的切除術(TURBT)

早期がんの場合は、尿道から膀胱に内視鏡を入れて、がんを切除する「経尿道的切除術(TURBT)」という手術が治療の中心です。全身麻酔または脊椎麻酔をしたうえで、筒状の内視鏡を尿道から膀胱に挿入し、電気メスで組織を切除します。手術時間は約1時間で、4~6日間ほど入院が必要です。
膀胱がんは再発しやすく、約5割は2年以内に膀胱にがんが再発するといわれています。再発を繰り返すと、局所進行がんに進行しやすくなります。再発予防のため、TURBTを行ってから24時間以内に膀胱に抗がん剤を注入します。

PDDを使ったTURBT

最近では、PDD(光力学診断)という診断方法を使ったTURBTが行われるようになってきています。

PDD(光力学診断)で見たがん

患者さんにあらかじめがんを光らせる物質をのんでもらい、膀胱内に赤色の光を当てると、がんだけが赤く光って見えます。平らながんなど、従来のTURBTでは見えにくかった病変もはっきりわかり、より確実にがんを切除することができます。

再発予防の治療

TURBTを行っても再発するケースがあるため、切除したがんを詳しく調べて再発する危険度を調べます。「がんの悪性度が高い」「がんが粘膜下層に届いている」「がんの数が多い」などに当てはまる場合は、再発の危険度が高いと判断されます。その場合は、4~8週間後に再びTURBT(セカンドTURBT)が行われます。そのうえで、がんが筋層に達していないことが確認された場合は、「BCG注入療法」など、再発予防のための治療が行われます。

BCGは、免疫を高める作用がある物質で、結核を予防するワクチンとして広く使われていますが、早期の膀胱がんに対しても効果があることがわかっています。BCG注入療法は、カテーテルという細い管を使ってBCGを膀胱に注入し、約2時間排尿しないようにします。それを週に1回、計6~8回行います。

局所進行がんの治療

局所進行がん

がんが粘膜下層より深い筋層に達していたり、筋層を越えて広がったりしているのが局所進行がんです。

膀胱全摘除術

局所進行がんの多くは、膀胱と前立腺をすべて切除する「膀胱全摘除術」という手術が行われ、必要に応じて尿道も切除します。

抗がん剤治療の後に開腹手術か腹腔鏡手術を行う

まずはじめに、点滴による抗がん剤治療を一定期間続けます。それによってがんが縮小することがあり、その場合、より切除しやすくなります。手術方法には、おなかを大きく開いて行う「開腹手術」と「腹腔(くう)鏡手術」があります。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、おなかに小さなあなを複数開けて、そこから腹腔鏡(カメラがついた細い棒)や手術器具を入れて行う方法です。がんが筋層までにとどまっていれば、膀胱全摘除術によって根治できることが多く、その場合の10年生存率は約8割となっています。

ロボット支援による腹腔鏡手術

最近では、2018年から健康保険が適用されるようになった「ロボット支援による腹腔鏡手術」が膀胱がんの治療でも急速に広まってきています。医師が遠隔で操作するロボットを使って、腹腔鏡手術を行います。

ロボット支援手術

実際に患者さんの体に触れるロボットには3本のアームと1本のカメラがついており、それらをおなかに開けたあなから挿入します。医師は少し離れた運転席のような装置で、カメラの映像を見ながらロボットアームを操作し、手術を行います。開腹手術と比べると、出血量が大幅に減るというメリットがあります。

膀胱の代わりをつくる

膀胱全摘除術を行った場合、同時に膀胱の代わりをつくる手術も行われます。大きく分けて2つの方法があります。

方法1 ストーマ

ストーマ(人口膀胱)

多く行われているのが、体の外に尿をためる方法です。
小腸の一部を切り取って、尿管と、おなかの表面につなぎます。おなかから出ている部分を「ストーマ」と呼びます。

ストーマにパウチをつけて膀胱の代わりに使用する

ストーマにパウチという袋を取り付けて、膀胱の代わりとして使います。パウチにはのりがついており、ストーマを覆うように体に貼り付けます。尿がある程度たまったら、パウチの下側にある栓を開けて尿をトイレに流し、再び栓をします。皮膚が荒れないように皮膚保護剤がついており、3~4日ほどで新しいものと交換します。重い物をおなかに抱えたり格闘技をしたりすることはできませんが、慣れれば入浴、ゴルフやテニスといった運動を行うことができます。

方法2 自排尿型新膀胱造設術

もう1つの方法は、体の中に膀胱の代わりをつくる「自排尿型新膀胱造設術」です。

体の中に膀胱の代わりをつくる「自排尿型新膀胱造設術」

小腸の一部を切り取って袋状に縫い、それを尿管と尿道につないで、膀胱があった場所に設置します。初めのうちは、尿がたまったことを自覚できないため、時間を決めて定期的に排尿するようにします。ただし、この方法が行えない場合があります。1つは、膀胱に加えて尿道も切除した場合です。もう1つは腎機能が低下している場合です。小腸を使っているため、尿がたまりすぎると尿を再吸収することがあり、そうすると腎臓に負担がかかるためです。

転移がんの治療

転移がんの治療

膀胱がんが進行すると、リンパ節や肺、骨、肝臓などを中心に、全身のさまざまな場所へ転移します。そのため、手術ではなく、薬による治療で全身でのがん細胞の増殖を抑えます。

転移がんの治療法

まず使われるのが抗がん剤です。最も広く行われているのが、ゲムシタビンとプラチナ製剤の併用で、4週間を1サイクルとして点滴を行います。この方法により、約6割の患者さんでがんが半分程度に縮小します。ただし、がんが完全に消える頻度は低く、副作用も蓄積していくため、いずれ続けることが難しくなっていきます。
以前は、抗がん剤による治療を続ける間に、がんが再発したり、進行したりした場合に行う二次治療が定まっていませんでしたが、現在では、2017年に登場した「免疫チェックポイント阻害薬」が二次治療に使われるようになりました。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫を高めることで、がんを抑えるものです。健康な場合、がん細胞が現れても免疫細胞がその増殖を抑えるため、がんの発症には至りません。ところが、免疫細胞に対してブレーキ信号を出すがん細胞が現れることがあり、そうするとがん細胞が増殖していきます。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がブレーキ信号を出せないようにして、がん細胞の増殖を抑える薬です。膀胱がんに対する免疫チェックポイント阻害薬は、「ペムブロリズマブ」という薬で、3週間に一回点滴を行います。

この薬の効果には個人差があり、がんが縮小する以上の効果が現れるのは全体の2割ほどです。効果がある場合は、長期間持続するケースが多いことがわかっています。ただし、さまざまな副作用が出うるため、患者さんの体調や副作用を定期的にチェックしながら使い続けます。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年9月 号に掲載されています。

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